20歳になるということ

@unl

第1夜

私が人生で最も愛した人との思い出を、今になってふり返ってみると、なんてことはない恋愛だった。そのへんに転がっていそうな、ありきたりな失恋話だった。


それなのに当時の私ときたら、まるで自分が世界で一番悲しい女であるかのように落ち込むのだ。果てしなく愚かである。


しかしながら、愚かなことは悪いことではない。

過去の自分の愚かしさに気づいてしまうほどに愚かしさを無くしてしまった私が持っているのは、傷つかずに生き抜く術だけである。

最も愛すべき人と出会い、そして最も愛すべき人から別れを告げられた私は趣味を楽しむ心も創作作品に動く心も未開の地に踊る心も失ってしまった。

この損失ばかりは、何年経とうが戻ることはない。

昔の失恋をありきたりだと評価しつつ、最も愛した人なんてぬかしている。結局、ずっと好きなのだ。まだ好き。それ以降好きになった人はもれなく全員1週間くらいで飽きているくらいに。それはつまるところ、飽き性ではなく一途なのだ。3年経つけど1秒たりとも忘れたことなんてないのだ。何にも動かされない、もといあの人にしか動かされない心がそれを証明している。


もう一生乗り換えることのできない恋をすでに味わってしまった私は、もう動かない心をぶら下げたまま、だらだらと生きている。そんな私が思うのは、愚かだっていいということ。思い返したくないくらい恥ずかしい生き様だって、きっと今よりずっといい。何も起こらない物語なんて物語として成立していないから。たとえそれが間違っていたって人を傷つけていたって、起承転結とそれから主演の涙があれば、物語になるんだから。

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