失意の帰国

『これより入間基地に着陸する』


 アナウンスと共にYS33輸送機が入間基地に着陸した。


https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093085161090013


 着地の衝撃が座席を通じて砂川、上原、須加の三人に伝わる。

 軍用だが、人員輸送用のため民間旅客機と同じ座席が使われていて座り心地は良い。

 しかも納入されたばかりで新品の香りがして気分が良い。

 だが、三人ともそのクッション性と新品の良さを味わう余裕はなかった。

 自分達がやってしまった事に、打ちのめされていたからだ。

 須加は、同盟国の政府高官を殴った。

 国際問題だが、同時に須加の、日本の捕虜を勝手に奪い、何の裁判もなしに路上で射殺したことに対して日本国内で怒りの声が上がっていた。

 須加の行為は当然だという世論が大きかった。

 そのため須加は政治的な存在になってしまった。

 砂川と上原は、フォンニィ・フォンニャット村への攻撃、民間人への虐殺行為への可鍛が問題になっていた。

 これは韓国軍海兵隊による虐殺行為の証拠隠滅の為に利用されただけだ。

 だが、韓国軍の虐殺行為より、大和が砲撃する映像の方が映像的にインパクトがあり、大和の行動が、民間人の居住地域に砲撃を加えたことがクローズアップされてしまった。

 その証拠に、こののち、韓国軍およびアメリカ軍の虐殺行為が判明したが、いずれのニュースでも大和と絡めての報道だった

 大和が世界一有名な戦艦であること――韓国という東アジアの小国より知名度があったため、大和の方がインパクト、拡散性が良く、世界各国の報道が記事を流し世界に悪名が流れてしまった。

 しかも、北の報道操作が上手かった。

 大和の砲撃のあと、駆けつけた武蔵の映像と大和の弾着の映像――通信傍受によって手に入れた日本海兵隊の映像を勝手に使用し、あたかも武蔵が大和の砲撃を止めたようにニュースを流した。

 そして武蔵が大和の虐殺を止めたように印象づけた。

 しかも、画像合成により武蔵の前で大和が沖合へ旋回するように見せていた。

 のちに合成だと判明したが、インパクトのある映像の方が一人歩きし、大和の砲撃から武蔵が民衆を守る構図となってしまった。

 当然大和は悪者になり、当時砲撃の指揮を執っていた砂川もマスコミの標的にされた。

 上原も、飛行隊を率いて攻撃に加わったため同様に狙われていた。

 この盛り上がりを野党が見逃すはずが無かった。

 おりしもベトナム戦争反対の世論が盛り上がっていた。

 発信源が北中国の毛沢東、ベトナム戦争を帝国主義的戦争であると弾劾した宣伝戦であろうと政府を弾劾する材料になった。

 証人喚問を要求し、三人を日本の国会に呼び寄せた。

 流石に与党も防衛庁も抵抗できず認めざるを得なかった。

 そのため、三人は日本に、だがマスコミの目を避けてひっそりと日本に帰国した。

 偽情報を流して攪乱するなどしたたため、基地周辺比較的穏やかだった。

 だが、スクープ狙いのマスコミが少数張り付いていた。

 入間基地だけで無く日本各地の基地でも同じように張り付いているし、反戦団体の監視がマスコミにリークする態勢を整えているため、何処の基地に降りても同じだ。

 それでも国防軍と自衛隊は、身内に対する扱いを変えず、マスコミと反戦団体の目から三人を守るためにあらゆる手段を用いた。

 入間基地だけでなく各基地から同じ時間に一斉に車を出し、追っ手を引き連れた。

 そうして誰もいなくなったところで、出入り業者のバンに三人を乗せて入間基地を脱出。

 途中で車を変え、彼らを暫く匿う市ヶ谷の会館へ連れて行った。


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