大和のイメージ
「こちらでお過ごしください」
案内役の陸曹に連れられて三人は特別室に入った。
通常は将官クラスでないと入れないが、世界的な注目を浴びている為特別扱いであるのと、部屋が広く守るのに丁度良い。
また国会の証人喚問が長期間に及ぶ可能性があるため、長期滞在に都合が良いからだ。
本当はどこか僻地で顔ばれしないようにしたかったが、国会への移動時間と移動経路の隠蔽を考えると市ヶ谷の会館が一番だし設備も整っていた。
だが、外に出られない以上、三人は軟禁されているのと変わらなかった。
テレビを点ければ、三人に対する批判が報道されていた。
勿論、擁護する意見もあったが、反政府、批判こそマスコミと思い込んでる某局や新聞社などは上品な言葉で痛烈な言葉を浴びせる。
大和は軍国主義、戦争の亡霊であり、人々を傷つける元凶である。
このような遺物はくず鉄にして建築資材にしてしまう方がよほど未来のためになる。
いつもなら砂川は、怒りだしただろう。
十数年前、戦後間もなく上映された怪獣映画――恐竜の生き残りが原爆によって怪獣となってしまい日本に襲い掛かる作品の上映中、怒声を浴びせた。
21世紀に至っても作品が日本のみならずアメリカでも制作される人気のコンテンツだ。
だが、処女作は、評価が真っ二つに分かれた。
ストーリーは原爆によって誕生した怪獣の襲撃になすすべもない日本。
だが、科学の力によって原爆以上の力を持つ恐ろしい技術によって葬り去るという流れだ。
しかし、前半の怪獣の力を見せつける為のシーンで、大和を始めとする各種艦艇が熱線により一撃で沈められるシーンが物議を醸した。
「大和が簡単に沈むか!」
あっけなく大和が沈んだことに怒り、上映中にもかかわらず砂川は立ち上がって叫んだ。
これは砂川だけではなく、同様の事をした観客はは、他の映画館でもいた。
特に戦時中、本土への疎開に旧海軍艦艇、大和を初めとする主力艦に乗り込んだ当時少年少女だった沖縄県人の反発は激しかった。
自分の愛着のある艦が、郷土を守る為に駆けつけてくれた艦が、嵐の中、圧倒的な敵を相手に戦い、決して沈黙しなかった大和が、怪獣なんぞに簡単に破壊されるなど、映画の中でも耐えられなかった。
ストーリー上、必要なシーン、怪獣の力を見せつける、圧倒的な力の前に人間は無力だという事を知らしめるために必要な場面だった。
だが監督としては、人類のおごり、そして戦争の遺物、戦争そのものを葬りたいというメッセージを込めていた。
特に旧海軍の象徴であり世界的な有名な大和を壊すことで愚かな戦争とその遺物をなくしてしまいたい。その思いを込めたシーンだった。
その後のインタビューで発表したこともあって、この手の批判は大きかった。
いずれにせよ大和は日本の象徴であり名誉の証であると共に、大日本帝国の残滓、あの愚かしい戦争の遺物として、反対派からも目の敵にされていた。
十数隻の戦艦を血祭りに上げ、世界的にも、歴史的いや伝説的な戦艦となったため、注目されていた事も災いし、その一ページに真っ黒なインク、それも無辜の民の血でで新たな事件が書き連ねられたことは不名誉な事だった。
それだけに砂川の心的衝撃、自分自身が起こしてしまったこともありショックは大きかった。
更に追い打ちを掛ける事態が発生する。
「外が騒がしいな」
「反戦デモです」
ベトナム戦争反対の学生デモ行動が多く行われていた。
シンパも多く、あちこちの職場にアルバイトなどで入っていた。
市ヶ谷の会館も例外ではなく、ROTCでありながら反戦運動に共感し、スパイとして会館にアルバイトとして入っていた学生が三人が滞在している情報をデモ隊指導部に漏洩した。
情報を得た指導部はデモの効果を最大限に高めるため、三人のいる会館へ向かうことを計画し実行。
デモ隊が押しかける事態となった。
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