猛虎登場

 戦雲が迫る東アジア情勢を見た満州と北山は、陸戦兵力の増強、特に平野の広がる中国大陸で機甲戦で優位に立とうと考えていた。

 当時西側の主力だったM4シャーマンに対してT34及び五式戦車は優位であった。

 だが、新たに開発されたM26パーシングもしくは、その後継車両が現れれば不利になるのは自明であり、新型戦車の導入は喫緊の課題となった。

 当初、IS3――スターリンⅢ型戦車のライセンス生産を望んだ満州国だったが、万が一情報漏洩で西側にソ連の切り札的戦車の性能が知れ渡るのを恐れ、ソ連は設計図を提供しなかった。

 仕方なく、満州国はエンジンと戦車砲その他消耗品のみソ連に提供を求め、車体に関しては独自に開発する方針をとった。

 北山が戦時中、五式戦車の開発を行っていたこともあり、戦車の製造技術が高かった。

 五式戦車に、最新の傾斜装甲を付ける方針で開発されたのが満州国初の制式戦車<猛虎>だった。

 しかし過剰な装甲と非力なエンジンのため、軽装甲化とエンジン出力アップ。また内部容積の拡大が行われた。

 軽装甲化は、戦車戦能力が低下するとされたが、中国大陸の事情、無数の河川や田畑、水田などの泥濘地が多いことから戦車の機動性を優先し、軽量化が図られた。

 またソ連戦車の特徴としてヨーロッパ平原での運用を考え、可能な限り低車高が求められていた。

 その結果T34をはじめソ連戦車は車内配置に無理――砲塔下部に弾薬を搭載しその上に乗員が乗り込むなどの問題が生じていた。

 そのため、猛虎は車体の大型化も合わせて行うため、軽装甲にならざるを得なかった。

 結果、車内配置が換えられ、砲弾の保管場所が砲塔内となるなど全くの別物となった。

 しかし、事情はどうあれ猛虎は軽量化に成功し機動力の確保に成功。

 量産された。

 

 猛虎戦車の詳細はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093076257392230


 極東戦争において鴨緑江を渡河して山がちな朝鮮半島を短時間で縦断した。

 そして今、最前線に登場し初陣を飾り韓国軍に攻撃を始めた。


「……迎撃だ! 奴を撃破しろ!」


 パクの指示でバズーカが猛虎に向かって火を吹く。

 たちどころに炎が上がり、猛虎は停止する。


「やったか!」


 炎上したことに喜んだ韓国兵が歓声を上げる。

 新たな炎が吹き上がり、更に歓声が上がるが、パクは叫んだ。


「拙い! 伏せろ!」


 パクが伏せた直後、122ミリ砲の砲弾がパク達のいる陣地に着弾した。

 軽装甲化したと言っても、猛虎はバズーカに耐えられる十分な装甲を持っていた。

 大戦中悩まされたバズーカ、成形炸薬弾に対抗する為、装甲板の更に外側に薄い外板を設けることで、バズーカの威力を低減させていた。

 その効果は今実証された。

 猛虎は猛然と反撃し、韓国兵を122ミリ砲の榴弾射撃で陣地ごと吹き飛ばす。


「畜生め!」


 パクは陣地を移動し、バズーカを再装填して再び放った。

 命中するが、猛虎は動きを止めない。

 方向転換しパクの方へ向かってくる。


「拙い!」


 パクは咄嗟に横に避けた。

 しかし、猛虎を背にして駆け出した仲間はキャタピラで踏み潰された。


「畜生め! 撤退だ!」


 生き残ったパクだが、最早抵抗できない。

 このままだと中国兵が押し寄せてくる。

 嬲り殺しにされるのはゴメンだった。

 明らかな命令違反だが咎める人間はいなかった。

 援朝抗美軍、猛虎戦車の進撃の前に韓国軍は潰走するしかなく、他の部隊も撤退していたからだ。

 この事態に、米軍は後方で待機していた第一騎兵師団を急行させ、迎撃させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る