パーシング VS 猛虎

「ソ連の劣化コピー品など粉砕してやるぜ」


 M26パーシングを装備するジョン・クリスティアン大尉率いる戦車中隊は意気揚々と戦場に向かっていった。

 世界に名が轟くT34との大戦を楽しいにしていたが、仁川上陸後に参加した彼らは北朝鮮軍が急速に壊滅したため対戦車戦闘がなく、歩兵支援ばかりで不満が溜まっていた。

 そこへ戦車出現の報告と出撃命令が下り、勇んで出撃した。


「新型戦車が現れたようだが、我々の敵ではない」


 現れたのは正体不明の新型戦車。

 噂に聞くIS3と言うソ連の重戦車かもしれない。

 M26パーシングならば打ち抜けると聞かされていたしクリスティアン大尉も信じていた。

 軍縮の上、航空機に予算が回されてパーシングの改修計画が停止していたが、十分に戦えると彼は信じていた。


「見えたぞ! 撃破するぞ!」


 戦場に到着するとすぐに敵の戦車を見つけた。

 クリスティアンはすかさず90ミリ砲を発砲。

 見事、猛虎に命中し停止させた。


「やったぜ!」


 歓声が上がるが、猛虎戦車は、ゆっくりと後ろに下がっていった。


「まだ動くか! トドメを刺してやる!」


 M26パーシングは追撃しようと追いかけていく。

 だが、どんどん離されていく。


「おい、もっとスピードを上げろ」


「これ以上無理です」


 M26パーシングは、M4より重火力、重装甲とはいえ、エンジンが同じであるため機動力に劣っていた。

 改修されていればパワーアップされたエンジンとトランスミッションで追い付けるが仕方ない。


「遠距離から狙うぞ。一旦停止」


 止まって発砲させるが、猛虎戦車は発砲タイミングに合わせて旋回。上手く避けられて仕舞う。


「猿共め、避けるのだけは上手いな」


 命中しないことにクリスティアン大尉は苛立ち、更に追撃を続ける。

 だから、危ない状況に気がついていなかった。

 ようやく気がついたのは側面の斜面から攻撃を受けた時だった。


「どうした!」


 後続のM26パーシングが炎上して大破した。


「どうした!」


「歩兵の火炎瓶攻撃を受けたようです」


 パーシングはガソリンエンジンを搭載している。

 エンジンルームの上に広がった可燃性の液体は広がり隙間に入って、エンジンルーム内に垂れてエンジンやその周辺物を焼き、ガソリンが通るゴムホースを焼き、炎上させた。

 ガソリンは引火性が高く、火炎瓶攻撃を警戒して多くの国ではディーゼルエンジンを使用していた。

 しかしパーシングは先代のM4シャーマンの継承者。

 M4は航空機用ガソリンエンジンを使用したため、エンジンをそのまま継承し同じ弱点を持っていた。


「歩兵など蹴散らせ!」


 後続車に車載機銃による掃射と、キャタピラで歩兵を踏み潰させる。

 火炎瓶の数が少なかったのか、新たな被害はなかった。

 しかし、クリスティアン大尉の部隊は分散。

 そこへ側面から砲撃を受け、新たに二両が撃破された。


「対戦車砲か。連中あんな所に」


斜面の上に運び込んだと思ったが違っていた。

 攻撃したのはあの猛虎戦車だった。


「馬鹿な……パーシングはあそこに登れないぞ。あんな所にどうやって」


 軽量化を果たした猛虎は急斜面でも動くことが出来る。

 そのため山がちな朝鮮半島の地形でも機動力を発揮。

 急斜面を移動し、米軍の側面を突くことが可能だった。

 しかも迫ってくるのは横だけではなかった。


「正面の敵戦車、反転して攻撃してきます」


 さっきほど被弾し逃げていた戦車が反転してクリスティアンたちに迫ってきた。


「側面は後ろの連中に対応させろ! 俺たちは前を潰す!」


 手負いの戦車を撃破すれば何とかなる。

 クリスティアン大尉はそう考えて前の戦車と距離を詰める。

 命中させるため、停車し斜めに迫ってくる。敵の戦車を仕留めようとした。


「撃て!」


 発砲した砲弾は敵の車体に美事命中した。

 だが猛虎戦車は砲弾をはじき返し悠然と進んでいき、クリスティアン大尉を驚愕させた。


「何で動けるんだ。というか貫けない!」


 タイガー戦車の装甲さえ貫く90ミリが弾かれた。

 彼は知らなかったが、装甲板を斜めにする傾斜装甲により見た目より装甲厚を増すことが出来る。

 そして斜めに前進することにより、より装甲厚を増やせる。

 軽装甲でも上手くはじき返すことが出来るのであり、満州国軍は第二次大戦の戦訓から徹底して訓練を施されていた。


「もう一度撃て! なんとしても撃破しろ!」


 クリスティアン大尉は最後までパーシングならどんな戦車でも撃ち抜けると信じていた。

 そして、装甲が守ってくれる、とも。

 だが彼の希望は撃ち抜かれる。

 猛虎は停止すると照準をクリスティアン大尉のM26パーシングに合わせて発砲した。

 122ミリ砲弾は、パーシングの正面から突入し装甲板を貫いて、クリスティアン大尉の意識と命を刈り取りこの世から消滅させた。

 残りのパーシングも、前と横からの砲撃で撃破され、残骸となった。

 最早ただの障害物となったパーシングを猛虎は自らの車体で押しのけると進撃路を確保し、前進を続けた。

 突如現れた援朝抗美軍と満州国新型戦車猛虎による反撃と大損害の報告を受けて、国連軍は混乱した。

 反撃の規模から大規模攻撃である事は明らかだ。

 直ちに、航空支援を要請し、黄海洋上にいる機動部隊から艦載機部隊が出撃した。

 だが、多数の対空車両を派遣し地上部隊に弾幕の防空網を展開。

 不用意に低空へ降りてきた国連軍機を撃墜していき、むしろ被害が拡大してしまった。

 事態を把握したパットンは撤退を命じた。

 彼らしくないが、まともな補給港が釜山のみでそこから全ての物資を賄っていること。延々と朝鮮半島を通って物資を輸送しているため補給線が限界である事。

 満州国境に近く、補給面では共産側が有利だ。

 有利な地形で反撃することをパットンは決断し、国連軍に撤退を命じた。

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