関東治安警察特機隊 第三中隊

 エプロンを横切るDC6の尾翼、パンナムのエンブレムをバックに待機しているのは、関東治安警察警備部特殊武装機動隊、第三中隊だ。


「素直にヘリを使えば良いものを」


 M8グレイハウンド装甲車に乗る特機隊第三中隊中隊長飯田警視は予備隊の醜態を見て吐き捨てた。

 特機隊の装備する車両は米軍から供与され独自に改造していた。

 飯田が乗っているのは、指揮車に改造されたタイプで手すりのような無線アンテナが砲塔上部に取り付けられている。

 手すりとして使う事も多いが今は両手で双眼鏡を覗いていた。

 総理の車列は進路をデモ隊に囲まれ、身動きが取れずにいる。


「つまらん見栄を張るから、このざまだ」


 警視庁の醜態をあげつらうが、彼の部隊も褒められる状況ではなかった。

 特別機動隊、通称特機隊は、三個中隊からなる一個大隊のみ。

 その内、第一及び第二中隊が青森で米兵が起こした脱走占拠事件を解決するために移動。

 そのまま北海道の戦闘後に起きるであろう無政府状態から治安回復のために津軽海峡を横断し上陸。

 地中陣地の攻略に手こずり戦況芳しくない稚内へ投入された。

 だが行動爆破戦術により部隊の半数が損害を受け、壊滅。

 現在再建中だ。

 残った第三中隊、東京での騒乱と万が一、派遣した二個中隊が壊滅した場合、再建の基幹部隊となるよう残されていた。

 その万が一、第一、第二中隊壊滅により、第三中隊は新たに第四中隊となる基幹部隊として一個小隊を供出。

 空いた穴を新人の補充で充填し再編成作業中だった。


関東治安警察特機隊の詳細は

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818023211869004164


 だが、羽田の騒乱に対し、混乱を排除するべく全力で出動した。


「警視庁の奴ら、大分手を焼いているようですね。左右の橋から迂回して側面を突けますが」


 副長の坂下警部が進言する。

 旧陸軍出身で、飯田の後輩だ。

 幼年学校時代から戦術眼に優れており、実戦においても、いつもすぐに作戦を献策してくれた優秀な参謀役だ。

 終戦がなければ、陸軍大学に入学させ参謀としての活躍を期待出来ただけに残念な事だ。

 今回の提案も軍事的には正しい献策だ。

 だが、今の状況ではダメだ。


「デモ隊は橋の上だ。側面を突かれ逃げ場を失い、動揺したデモ隊が自暴自棄になり、一部が正面へ突入、総理の車を襲いかねない」


 飯田の言葉を聞いて坂下は納得して黙って頷いた。

 確かにデモ隊を蹴散らすには良い手が、今は総理がいる。

 総理の護衛で出動したのだから、総理を守らなければ。


「今回はデモの制圧ではなく総理の護衛だ。正面から突入して総理を救出し安全を確保する」


 飯田の声が切れた。

 デモ隊の動きが大きくなった。

 勢いよく阻止線に向かって行く。

 警視庁予備隊は懸命に抑えているが、圧倒的多数に対して無力すぎる。


「そろそろ状況が動くぞ」


 オブラートに警視庁予備隊が崩れると飯田は坂下に伝える。


「準備しろ」


「了解!」


 坂下は直ぐに頭を切り替え元気よく大声で敬礼すると、後ろに振り返り叫んで命じた。


「突入用意! 正面から突入する。各員、総理の安全確保を第一とせよ!」


「突入用意!」


「輸送中隊! 全車機関始動!」


 装甲板の屋根を設けられたM3ハーフトラックがエンジンをかけアクセルをふかし猛獣の咆哮のような排気音を上げる。

 重量増加に対応するため、独自にエンジンの排気量増大の改造を施されいる。

 ドライバーがアクセルを強く踏んだこともありオリジナルより凶悪なエンジン音を威嚇するように吠えさせた。


「第三突入小隊総員乗車!」


「第八小隊乗車せよ!」


「第一一小隊乗車っ!」


 周囲警戒の為、車両群の周辺に展開していた隊員が大急ぎで車両に乗り込む。

 M3はオープントップだったが、火炎瓶攻撃を警戒して装甲板が取り付けられている。

 動きにくいが、隊員達は身を守るためには仕方ないと受け入れていた。

 その分訓練で車内で自由に動けるように身体を躾け、迅速に乗車する。


「特科小隊! ガス弾装填! 射撃用意!」


「総員! 執行実包装填せよ!」


 装甲服を着た隊員が弾帯を引き出しMG34へ引っ張って装填する。

 槓桿をスライドさせ金属音を響かせながら初弾を薬室に送り込んだ。


「隊長! 総員準備完了しました!」


 発令から三分。

 全員が車両に乗り込んだ時、ヘリから報告が入った。


『こちら航空小隊四番機! 動き出した!』

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