羽田騒乱1

「日米安全保障条約粉砕!」


「日本の真の独立を!」


「戦前回帰阻止!」


「日本をアメリカの植民地にするな!」


「我々はアメリカの傭兵ではない!」


「戦争ではなく平和を!」


「資本主義の豚に鉄槌を!」


「総理を抑えろ!」


 特使である総理を抑えて条約がなかったことに、調印者がいなければ発効されないと考えデモ隊は総理に向かって殺到する。

 始めは進路妨害で十分と考えていたが予想以上に人数が集まって気が大きくなったこともあり直接確保に向かう。

 彼らが作り出したバリケードを乗り越え、次々と予備隊の阻止線に襲い掛かっていった。


「デモ隊の数が増えています! 阻止線の維持は困難です!」


「阻止線を崩すな! 警視庁予備隊の名にかけて何としてもここで止まれ!」


「ダメです! 突破されます!」


「うわあああっっっ!」


 デモ隊の圧力に抗しきれず警視庁予備隊の阻止線が遂に潰走した。

 人の濁流となったデモ隊はシュプレヒコールを上げ総理の乗った車へ向かう。


「デモ隊を総理に近づけるな!」


 デモ隊が迫ってくるのを見て予備隊の隊長が叫ぶ。


「ダメです! 数が多すぎて、止めきれません!」


 隊員の間から悲鳴が上がる。

 彼ら予備隊隊員は警視庁所属の警官の中でも柔道や剣道に優れる強者を選抜して集めただけに強い。

 だが手にしているのは警棒のみ。

 デモ隊も武器などは持っていないが、近隣住居から盗み出した竿竹などを使い、即席の槍衾を作り出し、予備隊員に突き出す。

 獲物が短い予備隊はなすすべ無く次々と叩かれ倒れ、阻止線は崩れ去っていく。


「後退を!」


「だが、官邸に総理を戻さなければならんぞ」


 総理の警護を務めながら目的地に送り届けられないなど警察の恥でしかない。

 何とかしようとする予備隊隊長だが、デモ隊を止める術はなかった。

 あっという間にデモ隊が殺到し予備隊隊員を数で圧倒し押さえつける。


「総理を守れ!」


 隊長は叫ぶが対応できる隊員はいなかった。

 デモ隊は総理の車を囲む装甲車の間を通り、囲んだ。


「総理だ! 捕まえたぞ!」


「俺たちの勝ちだ!」


「サンフランシスコ条約は粉砕された!」


「うおおおおっっっっ」


 デモ隊が歓声を上げた。

 総理の身柄を抑えた。

 これで条約を粉砕できる。

 日本を守れるという喜びでデモ隊から自然と声が出た。

 だが、そこへ無数のガス弾が飛んできた。

 地面を転がるガス弾の催涙ガスにより、周囲は白い霧に包まれる。


「ぐあああっっ」


「い、痛いっ」


「げほげほ、がほっ、げはっ」


 ガスに触れた目と鼻に強烈な激痛が走り、デモ隊は激しく咳き込み、中には痛みのあまり嘔吐する者さえいた。

 何とか堪えようとしても、猛烈な痛みに耐えられず顔を覆ってうずくまる。

 だが耳が、重い足音を、一団が歩調を整えて作り出される重奏音を聞き取るとうずくまったデモ隊の身体が固まった。

 エンジン音を突き通して、向かってくる百名以上の集団の一糸乱れぬ足音を耳が聞き取ると身体が恐怖を感じ、催涙ガスの痛みを忘れさせた。

 それまでの熱狂が冷め、背筋に悪寒が走り、恐怖で身体が竦む。

 だが怖いはずなのに視線が音の方へ向いて仕舞う。

 顔を上げ、涙で歪む視界が催涙ガスの霧の奥、足音の方角を見る。

 霧の奥から黒い人影が、赤い目を光らせて、幽霊の様に現れる。

 全員が一様に、古の甲冑を思わせる黒いプロテクターに身を包み、槍のようなMG34を構えながら迫ってきた。


「と、特機隊……」


 デモ隊は現れた人影の正体を知り、戦慄した。

 焼き尽くされた旧帝都を、敗戦で混沌とした治安を創設されてすぐに圧倒的な火力で粉砕し、秩序を取り戻した存在。

 その猛威を都民の誰もが知っていた。

 彼等が持つ銃口が自分に向けられた時、どのような事になるか、想像し、デモ隊は息をのんだ。

 その中、飯田の前進命令が下った。


「全隊前進。デモ隊を排除し、総理の安全を確保せよ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る