羽田騒乱2

 特機隊の実働部隊は通常の小隊と、突入を主任務とし最初に斬り込む突入小隊の二つからなる。

 この時も、最初に進んできたのは突入小隊である第三突入小隊だ。

 彼等は歩調を合わせて、無言で、だが確実にデモ隊へ近づき、威圧する。

 デモ隊も立ち向かおうとするが、彼等の持つMG34と、背後から放たれる無数のガス弾が降り注ぎ、下がっていく。


「特科小隊、第三突入小隊がデモ隊に近づいた。射程延長」


「了解! 仰角増せ! デモ隊の後続を近づけさせるな!」


 装甲車の砲塔に装備された低圧砲が角度を増し、空高くガス弾を放ち、橋の向こう側へ撃ち込み、デモ隊から後続が出ないようにする。

 総理の車に近づいたデモ隊は孤立し、前進してくる第三突入小隊を前に、異様な圧力を受けて彼等は下がる。

 特機隊の強さは、東京都民なら誰でも知っていることであり、百戦錬磨のデモ要員たちは幾度も対峙したことがあり、特に身に染みて知っている。

 特機隊が前進すると潮が引くようにデモ隊は下がっていった。

 装甲車が前進し、バリケードを排除してデモ隊を押し返し、総理を護衛できるエリアを確保する。

 だがデモ隊の一人が、川に向かって発煙筒を投げ込んだ。

 水面に落ちると煙を上げると、川岸に停泊していた小舟が一隻、男達数人を乗せゆっくりと橋に近づいていく。


『こちら航空小隊四番機』


 米軍放出品のR6――座席を燃料タンクと交換し航続距離を延長したタイプが上空を飛び、見張っており、報告があった。


『不審な小舟が接近中。警戒されたし』


 飯田が、車内から報告する通信士を見た直後、甲高い音が響き渡ったかと思うとバリケードを壊していた装甲車が爆発を起こした。

 ただの爆発ではない。

 川から炎が六本、竜巻のように螺旋を描いて装甲車へ伸びていく。

 装甲に当たると爆発したが、爆煙は小さい。

 爆発の威力が全て装甲へ向かって放たれたからだ。

 メタルジェットが装甲板を貫通し、内部に高温の嵐を吹かせ、残存弾薬を誘爆に導き、装甲車から火柱が上がった。


「うわあああっっ」


 装甲車のハッチから火達磨になった乗員がハッチから飛び出す。

 何とか外に出たがそこで力尽き、路上に転げ墜ちる。

 すかさず前衛隊員が駆け寄り、のたうち回る乗員を押さえつけるように倒れ込み、火を消す。


「タ弾……いや、ロタ弾か……」


 僅かに残った噴煙と響いてきた飛翔音を思いだして飯田は呟いた。

 四式七糎噴進砲、日本帝国陸軍が製造した対戦車ロケット弾、通称ロタ弾だ。

 開発が難航したが昭和二〇年に配備が始まり、沖縄などに配備された。

 飯田も沖縄戦で使用しており、独特の飛翔音に聞き覚えがあり直ぐに分かった。

 大方、本土決戦前に隠匿していた武器を共産党の連中が発見し、取得したのだろう。

 性能の低い旧軍の兵器とはいえ、戦車相手の話し。

 生身や装甲の薄い装甲車には脅威だ。

 特機隊の装甲車を撃破出来た事を喜び、小舟の男達、船の甲板に伏せ、筒を構える男も中指を立てて喜ぶ。

 しかし黙ってやられる特機隊ではなかった。


「応戦しろ! 橋に近づけるな!」


 坂下が命じると隊員が直ぐに反応し、橋から小舟に向かってMG34の機銃掃射を浴びせる。

 だが小舟も抵抗し機関銃で反撃しつつ、残りのロタ弾を、仲間がいるにもかかわらず橋に向かって放った。

 激しい爆発が起こっても特機隊は射撃を続け、小舟を制圧する。


「食らえ!」


 橋の上にはまだ武闘派の生き残りがおり特機隊員に対して火炎瓶攻撃を仕掛けた。


「うわああっっっ」


 無数に投擲された火炎瓶の一本が隊員に命中し、可燃性の液体が装甲服に広がり火達磨になる。

 一瞬パニックになり、炎から逃れようとその場で狂ったように踊るが、当然火は消えない。

 あわやと思われたが、直ぐに命令が下る。


「伏せろ!」


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