流血のカーペット
班長の命令で火達磨になった隊員は地面に倒れた。
そこへ他の隊員が倒れ込む。
仲間の身体で張り付き、空気を遮断する事で火を鎮火させる。
これ以上装備を増やせず、減らして消化剤を増やせない特機隊が編み出したワザだった。
非常に効果的な仕組みで、初期の内ならこれだけで火を消せる。
だが失敗すれば燃え広がり、最悪携行弾薬の誘爆もあり得る。
それでも彼等は仲間を救うため彼等は躊躇わず、炎上する仲間の上に乗りかかる。
他の隊員も援護のため周囲に展開し、機銃掃射を行って牽制。
デモ隊を近寄せない。
迅速な対応で火にまかれた隊員は消火に成功し、一命を取り留めた。
だが、燃料が残っているため、安全のため後方へ下げられ、支援の小隊に消化剤を散布してもらい水で洗い流す。
一時は混乱した特機隊だが直ぐに態勢を立て直し、デモ隊攻撃を繰り返す。
再び火炎瓶が投げられるが、空中にある内に隊員が機銃で撃ち抜き、破裂させ寄せ付けない。
さらにこれ以上投擲させないとばかりに特機隊はデモ隊に機銃掃射の雨を降らせ、制圧する。
「うわああっっっ」
「ぎゃあああっっっっ」
多数の死傷者が出て橋の上は阿鼻叫喚の地獄となる。
逃げまどう人々の中、唯一統制されて進むのは、黒い装甲服に身を包んだ特機隊員のみだ。
銃声と薬莢が落ちる音が乱れる。
その中でも、ハッキリ聞き取れるほどの足音を響かせ、特機隊は隊列を乱すことなく進んでいく。
デモ隊は激しい戦闘と死傷者が出るのを見て、迫り来る赤い目を輝かせた黒い死に神に恐怖を抱き、撤退していった。
デモ隊を後退させるとバリケードは炎上した装甲車と共に排除され。
特機隊員が槍衾のようにMG34の銃身を揃えて突き出し、接近しないよう威嚇する。
背後に照明を点けたM3ハーフトラックとM8装甲車が横隊に並び、橋を封鎖した。
バリケードも排除され見通しが良くなった分、特機隊の姿がより鮮明となる。
周りの流血が広がり、彼等のブーツを濡らし、レッドカーペットのようになり、更に凶悪さを増した。
「デモ隊、退却しました。突入小隊が総理の安全を確保。橋の上に脅威無し。川の小舟も沈黙しました」
デモ隊が後退した後、周囲を警戒する飯田に坂下は平静な声で報告し、尋ねる。
「このまま官邸へ向かいますか?」
「いや、都内に行くまでの間にデモ隊に囲まれたら動けなくなる。弾薬の消耗も激しい」
機銃装備で圧倒的な火力を誇る特機隊だが、弾薬の消耗が激しいのが欠点だ。
弾薬補給用の段列も用意しているが、あと数回が限度だ。
そしてデモ隊は数だけは多い。
また戦闘になったら弾切れになりかねない。
「総理には空港へ引き返してヘリに乗って官邸に戻ってもらう。引き返すぞ。突入小隊は周囲を警戒しつつ、総理を空港へ。第八小隊は支援と予備につけ。第一一小隊は現場の保存と橋の封鎖を継続、衛生小隊に死傷者の収容を命じろ、敵の追撃に注意」
「了解しました」
直ぐに飯田の命令は実行され、総理は特機隊の装甲車に乗り、空港へ戻る。
総理が空港に戻った丁度その時、佐久田が呼んだ海上警備隊のヘリが降りてきていた。
そのヘリに総理は乗って、官邸へ戻っていった。
羽田の騒動は死傷者二二〇名、死者は警官の殉職六名を含む二九名。
未曾有の大惨事となった。
しかも帰国した総理の目の前で内戦まがいの市街地戦となった。
無理矢理突入した特機隊が惨事を引き起こしたと言って警視庁が非難をしている。
だが、特機隊も、介入したのは警視庁予備隊が崩れて、囲まれた総理を救出するためであり、正当な行為である。
現場には旧陸軍の対戦車兵器まで持ち込まれ使用された。現場警備の責任者は警視庁であり、このような武器の持ち込みを許したことこそ糾弾するべきだ。
自らの失態を誤魔化すために特機隊になすりつけるのは止めて貰いたい。
と、言って双方が退かず紛糾していた。
特機隊の意見が正しかったが、多数の死傷者を出した、それも特機隊の機銃掃射によるものが大半であっては、これまで治安回復の立役者として頼られていたとしても国民の反発が強い。
そのため、特機隊が当面の間、活動を自粛することで決着が付いた。
難を逃れた総理だったが、本当の困難はこれからだった。
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