暗殺爆撃

「作戦海域に到達しました」


「工作員からの通信はないか」


「まだありません」


 通信員の報告に<点検>の艦長は、苛立った。

 だが艦長として、乗員が不安とならない様に泰然とした姿勢を崩さない。

 大戦での幾度もの哨戒活動で彼が身につけた態度だった。

 そして朗報が来た。


「工作員より入電! 目標は予定通り、大磯にいる模様」


「ニミッツも、横須賀にいる模様」


「よし、二人同時に仕留められるな」


 複数の目標が立てられており、最悪一人を狙うことになっていた。

 だが吉田とニミッツ、日米の首脳クラスを一度に仕留められる機会が巡ってきた。

 これを逃すことなどない。


「予定通り攻撃を開始する。<点検>浮上! 作戦開始!」


「浮上用意! 総員配置に就け!」


 北日本海軍<点検>型潜水空母――点検とは「党員点検」、粛正を意味する――は、ソ連に接収された伊四〇〇型を元に建造された艦であり、その目的も先代と同じく戦略任務だ。

 敵の重要拠点あるいは重要人物を襲撃する事が目的であり、米本土東海岸さえ作戦圏内に収めるべく満州の北山が建造。

 多くはソ連に配備されたが、一部が北日本に提供され、運用されていた。


<点検>型潜水艦の詳細はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818023211826966034


 当初は開戦と共に傀儡政府の攻撃、総理官邸や国会、皇居襲撃に使用される予定で樺太を出港。

 東京近辺で潜航して待機していた。

 だが、北日本首脳部が自らの正統性を保証するため、暗殺などと言う卑怯な手段で勝つ事を嫌がった。

 また米軍への切り札として温存することにして開戦直前で待機命令となって仕舞った。

 しかし米軍が参戦したため、GHQ司令部への攻撃命令が出た。

 だが開戦後は東京の警戒が厳しいため、接近不能で実行できず、状況を理解した北日本海軍司令部が命令を撤回したこともあり待機が続いた。

 たが、稚内上陸作戦とクロマイト作戦、そして国連軍を支えるために兵站活動、日本の産業が活発化。

 結果、東京湾を出入りする船舶が急増。

 東京湾周辺に隠れる事が可能になった。

 だが攻撃目標を捕捉出来なければ意味はない。

 そこで北日本海軍は統一戦線部と共同作戦を展開。

 工作員が目標の動向を確認し潜水艦に通報。

 目標へ艦載機が爆撃する手はずになっていた。

 日本政府総理の吉田とGHQのニミッツを同時に暗殺できれば、国連軍は混乱し極東全体の戦争を東側優位に進める事が出来る。

 そのような思惑もあって、ニミッツも同時に暗殺しようと試みた。

 大磯と東京では離れすぎていて同時攻撃は無理だ。

 だが、横須賀なら相模湾から出撃しほぼ同時に攻撃することも可能。

 待機が長かったため、東京湾周辺の警戒態勢を観察できたこともあり、警備の状況は把握しており、警備が緩む時間も掴んでいる。

 だから今、この時を攻撃時間にしたのだ。


「晴嵐要員は発進準備!」


 載せているのは旧日本海軍の晴嵐、その改造型だ。

 エンジンは大戦中、米英から供与されたアリソン水冷エンジンへ換装し高出力化しているため基本性能は上がっている。

 晴嵐のままなのは潜水艦に搭載できる特殊攻撃機を開発できないソ連側の事情――格納庫に収められる折りたたみ機構を開発できないため使い続けられている。

 パナマで実戦証明済みの枯れた技術のため、確実に作動し、実行できるのだ。

 実際、彼等は短時間で発進準備を整えた。


「晴嵐発進準備完了!」


「直ちに発艦!」


 浮上して三分もせず、一番機が発艦。

 続いて二番機が発艦し目標へ向かう。

 僚艦からも攻撃機が発進し目標へ向かった。


「全機発艦完了!」


「よし! 続いて攻撃隊を援護するためのミサイル攻撃だ! 連中を混乱させる!」


 <点検>は晴嵐の他、梅花を改造した巡航ミサイルも搭載していた。

 潜水艦であるため目標へ比較的近くまで接近できるため燃料を減らし弾薬を増やした特別型だ。

 梅花はカタパルトから撃ち出され、射出されるとロケットに点火。

 パルスジェットの作動速度に達すると点火して自力飛行し目標へ向かう。

 命中率は期待出来ないが、混乱させる事は出来る。

 目標は東京の中心部。

 混乱して防備を固めさせれば、逃走の見込みが増す。

 エンジンの暖気もなくカタパルトで撃ち出すだけで勝手に飛んで行くのも良い。

 しかも、搭載量が大きくなったため、内部に多数の子爆弾を搭載しており、針路上で時間差を設けて投下することも可能。

 大きさもパイロットを乗せる必要が無いため小型化されており、格納庫の中に、攻撃機の代わりに2機収納していた。

 発射を終える頃には、攻撃機も帰還するはずだ。


「攻撃機より入電! 大磯への攻撃に成功しました!」


「よし!」


 攻撃成功に艦長は喜んだ。

 しかし、笑顔は長く続かなかった。


「横須賀へ向かった攻撃機より入電! 対空砲火を受けています! 猛烈な弾幕を受け、突破できません」


「何だと! 連中は我々を待ち構えていたのか」


「不明です!」


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