暗殺成功
それは、巡航ミサイル攻撃に備えて横須賀の防備を増すために行われた処置であった。
警察予備隊、及び海上警備隊は対空機銃を整備し、横須賀周辺にあった旧海軍の砲台に据え付け、やってくる巡航ミサイルに備えていた。
単純なやり方だったが効果は絶大だった。
少なくとも横須賀周辺にやって来たミサイルは全て落としていた。
対空砲が横須賀などに過剰に整備されたのは、配備予定の都市が流れ弾を嫌い、対空砲を置いたらむしろ標的になると心配した市民の反対により置くことが出来なかったからだ。
使用可能なように整備したものの配置できず、習熟のために横須賀や呉など比較的軍への感情が良い地域に訓練を兼ねて集中配備することになった。
だが、巡航ミサイル攻撃を受けた市民達は一変して市民を防衛せよと要求してくる始末だ。
だが配置転換は容易ではなく、移動準備に時間が掛かり多数の対空砲がまだ横須賀周辺、反対側の三浦にまで残っていた。
今回は、海側からの襲撃だったが、過剰なほど残った対空砲火により日本側は的確に<点検>から放たれた巡航ミサイルと晴嵐の迎撃を行い、梅花は撃墜、晴嵐を追い返した。
「レーダーに反応! 接近する航空機あり!」
「早いな」
<点検>が探知したのは厚木から飛び立ったP2対潜哨戒機だった。
東京湾近海での船団襲撃に備えてスクランブルで待機していた機体が飛び立ったのだ。
千島列島周辺で樺太へ出入りする北日本潜水艦を狩り上げるために移動が予定されていたが、北日本潜水艦の襲撃を警戒して待機が命じられていた。
その事が功を奏した形だ。
「直ちに潜航!」
「しかし、攻撃機のパイロット収容がまだです」
「本艦と両艦の安全、各艦乗員一五〇名の命が大事だ。晴嵐隊には第二回収地点へ向かうように命令しろ」
「了解!」
急いで<点検>は僚艦と共に潜航していった。
「爆撃成功の報告はしたのか?」
「はい、先ほど攻撃隊への指示と共に行いました」
「そうか」
これで北日本の首脳部は泣いて喜ぶだろう。
しかし、代わりに自分たちは昔の仲間に追いかけられる事となる。
だが、悔いは無い。
大戦中に成功させたワシントン攻撃に匹敵する成果を上げたのだから。
かつての祖国の人間を殺すのは目覚めが悪いが、敵国であったアメリカの尻尾を振る姿が許せない。
そいつを殺す機会を与えてくれたことは、今の上層部に感謝しても良かった。
だがそれも生き残れればの話だった。
「国家主席! 作戦部隊より入電! 作戦成功です! 吉田の別荘は木っ端微塵に吹っ飛びました」
北日本の司令部壕の中で小さなどよめきが起きた。
だが直ぐに収まった。
国家主席が静かに尋ねたからだ。
「吉田はどうなった」
全員が伝令に向かって視線を集中する。
それが作戦の目的だからだ。
伝令は胸を張って答えた。
「死亡です。我が工作員が確認しております」
吉田首相死亡の報告に北日本の最高司令部は歓喜に包まれた。
「直ちに報道しますか」
「勿論だ。傀儡にして不当な政権の首領を我々正統な政権は決して許さない。いかなる場所にいようと我々の正義の鉄槌は、必ず下される。そう発表しろ」
「直ちに報道します」
広報官が直ぐに退室し、ラジオ、新聞を通じて報道した。
共産主義政権は広報活動が多い。
正統な活動では十分な予算を手に入れられないため広報に力を入れている。
庶民では手に入らない高価な印刷機や放送機材も主力戦車より安い。
それでいて上手く宣伝できれば、世界規模で伝わる。
特にコミュニストは世界中にシンパがいて、伝わるのが早い。
北日本による吉田首相殺害の報道は、直ぐに世界に知れ渡った。
「米帝に尻尾を振る卑しい傀儡は、悲惨な最期しか迎えられない」
佐脇は珍しく記者の前に現れて自信満々に言った。
それだけ嬉しかったし国家主席の地位を安泰にするためにも自分の功績として誇示する必要があったからだ。
本人は自信満々だったが、周りは必死に芸を披露する曲芸団の動物のように見えて滑稽だったと後に語った。
そして、事態は国家主席の予想、傀儡政権の混乱とサンフランシスコ講和会議粉砕という目的とは離れた方向へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます