稚内沖海戦 前哨戦

「長官、ソ連哨戒機の通信を傍受しました。敵艦隊が接近しています」


 ゴルシコフはソビエツカヤ・イポーンの艦橋で報告を受けた。

 何故か大泊への攻撃はあの一回で終わった。

 国連軍の艦載機不足とソ連の参戦を恐れての事である。

 これをもって偉大なる祖国ソ連の成果、と喧伝したが、戦力が激減したのは事実であり、乗員達は意気消沈した。

 だが、攻撃がなかったのは幸いだった。

 大泊の工廠施設の一部は無事であり、ソ連船舶に積まれていた工作機械の陸揚げもあって彼等はその日のうちにソビエツカヤ・イポーンの復旧作業を開始。

 二四時間体制で工事を行い、破孔を塞ぎ、排水。

 満ち潮を利用してソビエツカヤ・イポーンを浮揚、離礁させる事に成功した。

 本来ならこのままドック入りするが、国連軍の上陸が始まった今、迎撃せざるを得ない。

 出撃している猪口率いる戦艦<解放>一隻のみでは戦力的に対抗できない。

 ならばソビエツカヤ・イポーンも加わるしかない。

 被弾して古傷が開き今度こそ喪失する危険があったが、この緊急事態に構ってはいられない。

 猪口と<解放>のみで十分だったという声もあるが敵を圧倒する戦力を用意する事が戦いの基本であり、ゴルシコフはその点に関して怠る気は無かった。

 ようやく動ける様になったソビエツカヤ・イポーンに出撃を命じ、第一艦隊と合流すると猪口達を指揮下に入れて稚内沖を目指した。


「艦列は?」


 気になるのは国連軍がどういう戦力と作戦で自分たちを迎撃するかだ。

 相手の戦力によってはやり方もある。


「巡洋艦を先頭に水雷戦隊が突入してきます」


「ならば、此方もハバロフスク達を先鋒部隊にして駆逐艦を突入させ、突破口を切り開け」


「了解」


 ゴルシコフの命令は直ちに実行され、北日本艦隊は隊列を変更。

 その直後に両艦隊は接触。

 のちに稚内沖海戦と呼ばれる海戦は始まった。


「先鋒部隊、予定通り砲撃開始しました」


 ソビエツカヤ・イポーンの艦橋に見張りの報告がもたらされた。

 北日本側は、クロンシュタット級巡洋戦艦ウラジオストックとハバロフスクを先頭に水雷戦隊を率いて突入させた。

 クロンシュタット級巡洋戦艦は、戦前に計画された艦で建造開始したものの独ソ戦により建造中止。戦車へ資材を転用するため解体された。

 しかし戦後のスターリンの海軍建設により復活し、再設計されて一から建造。

 生まれ変わった姿で登場した。

 ウラジオストックが搭載しているのは一二インチ砲三連装三基の強力な主砲で、アラスカ級の一二インチ砲三連装三基とほぼ同等だった。


 クロンシュタット級巡洋戦艦の詳細はhttps://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16817330666384462943


 両者とも重巡洋艦あるいは大型巡洋艦に類別されるが、双方とも三万トン前後の戦艦と呼べる大きさだ。

 砲撃戦は、暫く続いたが、アラスカ級が不利だった。

 当初はレーダー射撃の優位性で命中弾を出していたアラスカが優勢だったが、射撃データが揃うとウラジオストック達が優位に立った。

 クロンシュタット級のほうがアラスカ級より排水量が大きく、耐久性もその分良い。

 アラスカ級は、戦前ドイツが生み出したドイチュラント級、ポケット戦艦に対抗する為に計画された。また日本がポケット戦艦に類似した三〇サンチ砲搭載の秩父型超甲巡の建造を計画しているという情報が入っていた。

 結局その情報はガセだったが、アメリカはドイチュラント級およびシャルンホルスト級、またフランスのダンケルク級対抗する為、第二次大戦が始まり地中海の戦いを始めたことにより、建造を正式決定。

 六隻の建造を始めた。

 結果、日本もアラスカ級への対抗上、超甲巡の建造を計画するが、建造能力の余裕がないため、廃案となった。

 かくして四四年に就役したアラスカ級だったが、重巡に対抗するにはオーバースペック、金剛級に対抗するには能力不足のため船団護衛用に大西洋へ配備された。

 その後太平洋へ配備されたが、機動部隊の護衛が主だったため、実戦は経験していない。

 コストバランスを考えて計画された排水量二万七〇〇〇トンの排水量も中途半端だ。

 一方、ソ連のクロンシュタット級巡洋戦艦は、スターリンが世界の重巡を圧倒する重巡を作るように命じた結果、最初から一〇インチ、二五サンチ砲の搭載が計画されていた。

 しかし、スターリンの命令を完全に完遂しなければならないという使命感、あるいは恐怖から設計者が全ての重巡を圧倒する性能を追求した結果、基準排水量三万八〇〇〇トンの戦艦クラスになって仕舞った。

 この計画案に気を良くしたスターリンは計画を承諾し建造された。

 戦後に改めて建造されたが、基本設計はそのまま。

 それでもアラスカ級を凌駕している。 

 アラスカ級は小さい分、一発のダメージが大きく、被弾が増えると急速にダメージが増えていった。

 そして続行する味方艦の大爆発でアラスカはより一層不利になる。







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