先鋒部隊同士の戦い
アラスカに続行していた重巡洋艦デ・モインは、アメリカ重巡の決定版と言える艦だ。
ソロモンで日本海軍、特に重巡に打撃を受けた米軍は日本重巡戦隊を撃破するために攻撃力の高い重巡を計画した。
アラスカ級が建造中だったが、完全なオーバースペックであり、運用コストが掛かることは明らかなため、重巡クラスで撃破出来る艦を求めた。
それがデ・モイン級だ。
一万七〇〇〇トンの船体に、世界初の八インチ自動砲を装備。
一門あたり毎分十発――従来の重巡主砲の2.5倍の発射速度を実現させた。
そのため、戦争砲塔一つで一隻の重巡を相手に出来るとされた。
自動装填装置のため重量増加により大型化したが、史上最強の重巡として十分な戦闘力を持っている。
就役すれば日本海軍の重巡は完全に撃滅出来るハズだった。
だが、デ・モインは就役する前に終戦となり、戦う相手はいなくなった。
そして日本海軍が無くなった戦後は、デ・モイン級のスペックはオーバーすぎる、従来の巡洋艦で十分として三隻のみ就役させ他はキャンセルされ解体された。
今回の戦争で偶然極東に配備されていたため、稚内に参加し実戦で成果を上げようとしていた。
だがデ・モインの初陣の相手は重巡ではなく巡洋戦艦だった。
当初はその弾薬投射量でハバロフスクを圧倒していたが八インチ砲弾では一二インチ砲対応の装甲は貫けなかった。
その間に狙いを定めたハバロフスクの反撃が始まった。
八インチに対する防御で一二インチ砲弾を受け止めることは出来ず、一発がデ・モインの装甲を貫通し機関室に直撃。
反対舷まで通り抜け大浸水を発生させる。
冷たい海水が高温のボイラーに接触し水蒸気爆発を発生させ、船体を切断。デ・モインは沈没した。
デ・モインを撃破したハバロフスクは狙いをアラスカへ変更。
ウラジオストックと共に猛烈な射撃をアラスカに浴びせる。
格上の二隻から砲撃を受けたアラスカはめちゃくちゃに打たれ、廃墟と化した。
唯一の慰めは、二艦の着弾による水柱が判別できず、砲撃の修正が出来ず命中弾が少なかったことだ。
旧海軍なら顔料を仕込んで色別に判定したが物資不足のソ連では顔料が調達できず十分な量が行きわたらず机上の計画だ。
そのため、混乱がさらに増していっただけだ。
またアメリカがダメコンに力を入れた結果、乗員達の献身的な努力もあって、アラスカはかろうじて浮いていられた。
しかし、先鋒部隊の敗北は免れなかった。
「なんてことだ」
味方艦が沈んでいくところを見て司令長官ストラブル中将は嘆いた。
アラスカは浮いているが沈むのは時間の問題だ。
「先鋒を援護する。テキサスは砲撃開始!」
「ラジャー! テキサス、砲撃を開始せよ」
テキサスは窮地に陥っている先鋒を援護するため砲撃を開始。
巡洋戦艦ウラジオストックの周辺に砲弾が着弾し水柱に包まれる。
慌てて回避行動をしたが、そこへ第二射が飛来。
一発がウラジオストックの船体を貫いた。
重い砲弾が装甲を破り破壊し、ウラジオストックは弾薬庫に火が回り、爆沈した。
続いてハバロフスクに狙いを変えて砲撃。
二発の砲弾を浴びせて大破すると離脱していった。
「敵艦撤退します」
「アラスカにも下がるよう命じろ」
戦前、日本の巡洋戦艦建造計画――後に誤報だったことがわかった――に備えて建造された艦だ。
ソ連の最新巡洋戦艦を相手には荷が重すぎる。
運用コストはテキサスに比べて安いし、機動部隊に追随出来る良い艦だが戦艦同士の戦いでは格落ちだ。
水雷戦隊の排除に使えると考えたが、ソ連の巡洋戦艦部隊相手には厳しすぎる。
そのためテキサスが出てくることになった。
圧倒的なテキサスの砲撃の前にソ連の巡洋戦艦は撤退していった。
結局の所、数が同等か少ない状態では、艦の性能が全てを決するのだ。
著しく、艦隊を縮小した米海軍は今、東側に対して艦艇が少なく、性能も低いことが証明されてしまった。
事実、アメリカは、この海戦の結果を見て、核一辺倒から局地戦、海戦に備え、海軍艦艇の整備を行い始める。
だがそれは未来の話だ。
だが、稚内沖の舞台、少なくともストラブル中将にとっての戦いの舞台は整った。
「諸君、いよいよメインイベントだ」
迫ってくるソ連の戦艦を見てストラブル中将は劇を演じる役者のように言った。
「敵艦、ソビエツカヤ・イポーンを先頭に<解放>が続きます」
「針路〇九〇、東に向かい、敵の針路を遮断せよ」
天塩に向かう針路を横切るようにストラブル中将は艦隊を動かした。。
これで北日本艦隊が強引に進むならT字の中に入ってくる。
日本海海戦やスリガオ海峡海戦のように一方的に滅多打ちに出来る。
後方へすり抜ける事も敵は出来るが、距離があるため国連艦隊の反転する余裕はある。
ならば敵が取る手段は一つだ。
「敵艦、転舵。東に向かいます。同航戦です」
「良し」
北日本も自分達を撃破しなければ進めないと判断し砲撃戦を挑んできた。
撃滅しようと長時間の砲撃戦が出来る同航戦を挑んできた。
「砲撃開始! 照準が整い次第撃て!」
「はい」
三分後、テキサスの主砲が火を噴き、同時にソビエツカヤ・イポーンも火を噴いた。
稚内沖海戦は本格的に始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます