稚内沖海戦 第二ラウンド

 稚内沖海戦の第二ラウンドは、戦艦同士の砲撃戦となった。

 テキサスとソビエツカヤ・イポーンが互いに砲火を浴びせる。

 米ソが威信を賭けて作った最新鋭戦艦同士の戦いは当初互角とみられた。

 しかし、徐々に優劣が見えてきた。

 当初は、太陽の昇った東の空を背にして砲撃をかける北日本側が有利だった。

 砲撃戦は激しくなると高性能レーダーを持つテキサスが正確な修正を行い優勢だった。

 またソビエツカヤ・イポーンは空襲で損傷し、復旧したばかりでダメージが蓄積していた。

 本来なら耐えられる被害も、損傷の蓄積により、徐々に拡大。

 復旧箇所の傷が再び開き、浸水が発生。

 船足が落ちると共に、傾斜が酷くなり、主砲が発砲出来なくなる。


「優勢だな」


 テキサスに座乗していたストラブル中将は満足していた。


「敵艦転舵! 戦列を離れます!」


「損傷に耐えられなくなったか」


 ストラブル中将の予測は正しかった。

 度重なる被害、特にテキサスの精密な射撃の前に勝ち目がないと判断したゴルシコフは、極東の海軍バランス、ソビエツキーソユーズ喪失による東側劣勢を踏まえ、ソビエツカヤ・イポーンを保全するために離脱を命じた。

 空襲での損害が残っており国際情勢上の理由から離脱させた、とはいえソ連の戦艦を撃退したことは、アメリカ戦艦の優位性を証明出来た。

 この戦いも勝利に終わるだろう、とストラブル中将は思ったほどだ。

 だが、突如後方から爆発音が響いてきた。


「どうした?」


「ライオンが爆沈しました!」


 後方で<解放>と戦っていたライオンが爆沈した。

 一六インチ砲艦で一八インチ砲艦と戦う事はやはり難しかった。

 日米ソが一八インチ砲艦を有するなら英国も一八インチ砲艦を所有しなければならない。

 とイギリス海軍当局は訴え、建造が実現した。だが第二次大戦の傷は深く戦前のライオン級建造を復活させるだけで精一杯。

 一八インチ砲の開発、それも英国単独で短期間で行うなど不可能に近かった。

 日米からの技術供与、製造委託も考えられたが英国のプライドと国防の根幹を他国に握られることをよしとせず、見送られた。

 戦後は戦艦同士の戦いは起きず、陸地への投射が主となるという見方から一六インチ砲で十分、という主張が通り一六インチ砲となった。

 中には一五インチで十分と話す者もいたが、流石に小さく時代遅れと言うことで一六インチにした。

 しかし、彼らの見解はこの海戦で間違っていた事が証明された。

 撃沈されたのは司令長官の運用ミスだが、世界の情勢を、海戦の趨勢を見誤り、ライオンの消失に至ったのは英国海軍の選択故だ。

 かつて帆走船時代、同性能の戦列艦でなければ戦列を維持出来ない、弱い艦がいるとそこから脱落してボロボロになる事を英米共に忘れて仕舞った故の悲劇。

 これを以て、英国海軍の衰退は決定的になったと断言する識者もいた。

 だが、それは後の世の話だ。

 海戦はまだ続いている。


「目標変更! テキサスは<解放>を砲撃する」


 就役したばかりのテキサスと八年前に建造され戦争中酷使された戦艦ならば勝てるとストラブルは踏んだ。

 改名され、改装も行われているが、船体の疲弊は完全には治せないはず。

 それにソ連は海軍の整備が遅れており必要な装備が開発されて居らず、旧海軍の装備のままが多いことは分かっている。

 またストラブル中将はアメリカ製品に優位性があると信じており、テキサスの勝利を疑ってはいなかった。

 だからこそ攻撃を決意する。


「照準付き次第、発砲。速やかに沈めろ」


「了解」


 ストラブル中将は断固とした決意で<解放>の撃沈を命じた。

 何隻ものアメリカ戦艦を沈めた忌まわしき戦艦であり、早急にこの世から消去するためだ。


「敵艦発砲!」


 だが発砲は敵艦の方が早かった。


「怯むな、この距離でこの短時間で命中するものではない」


 見つけてすぐに発砲しても、照準が甘く命中しないだろう。

 敵が動揺している間に照準を付けて命中させるつもりだった。


「敵艦連続発砲!」


「速いな。何を考えている」


 戦艦の主砲は最大で毎分二発、あるいは一.五発撃てる。三〇秒から四五秒間隔で撃てる。

 遠距離だと到達まで一分近くかかる事から初弾が着弾する前に再装填して発砲することは可能だ。

 だが、命中したか確認せず発砲するのは無駄撃ちとなる。


「旧日本海軍と言うから警戒したが五年も戦争から離れて腑抜けたか」


「あるいは政治思想的に正しい人間を登用したのでは」


「あり得るな」


 共産主義国家なら、思想的に正しいことが重要で、スキルを重視しないことがある。

 海が共産主義者に優しいという合理的理由がないにもかかわらずだ。

 だが、猪口は腑抜けてもいなかったし、無駄撃ちもしていない。理由あってのことだ。


「敵弾接近!」


「高いな」


 大口径砲だと砲弾が見えることがあり、接近する砲弾を見ていた。

 しかし、砲弾は上を通り過ぎそうだった。


「命中するまい」


 ストラブル中将は笑ったが、その瞬間、砲弾が爆発した。

 信管不良とかと思ったが、九発同時はあり得ない。

 しかも、砲弾は無数に分裂したように見えた。


「! 拙い! 外の者は艦内へ退避しろ!」

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