三式弾
何が放たれたのかストラブル中将は分かった。
撃ってきたのは三式弾だ。
猪口は多数の三式弾を、広域にばらまく事でアメリカ艦のレーダーと射撃管制装置、アメリカの優位性の基板となる装置の破壊を狙った。
分厚い装甲では無く、薄いアンテナや精密な機械は小さな弾子で容易に使用不能となる。
猪口が手早く撃ったのはアメリカ艦の射撃指揮装置を素早く破壊するためだ。
九発の砲弾から分離した無数の弾子がテキサスに降り注いだ。
「回頭! <解放>へ向かえ!」
ストラブル中将は三式弾の被害半径から逃れるために旋回、同時に命中率を上げるために接近を命じた。
妥当な命令だったが、遅かった。
回頭を始めた直後に、武蔵の第二斉射が来襲。
テキサスの甲板に弾子の嵐が吹き荒れる。
「射撃指揮装置破損! 使用不能!」
「アンテナ損傷! レーダー機能停止!」
「修理急げ!」
「無理です! 専門の応急員が戦死しました! 修理不能!」
第一斉射で破壊された装置を直そうと外に出た瞬間、第二斉射の嵐を受けて応急員の多数が死傷した。
乗員の半数が応急員として乗り込んでいる米軍艦でも大半の専門は火災と浸水への対処のみ。
大戦で登場したレーダーの専門家はアメリカでも少なく、艦に乗り組む者はもっと少ない。
その希少な人材を、乗り組んでいる人材を失ってしまった。
「光学照準で行え」
「光学装置も破壊されています」
「ならば各砲塔で照準しろ! 沈めるんだ!」
ここで撤退するべきだったという戦史家がいる。
だが、その場合、<解放>および北日本艦隊残存艦艇の船団突入を許して仕舞い、上陸船団は壊滅。
作戦は上陸部隊は危機に陥る。
ストラブル中将は劣勢を理解しても、船団の安全、天塩海岸に上陸した部隊を守る為にも退くことが許されず、テキサスの撤退を許さず砲撃を命じるしかなかった。
その後はテキサスと<解放>の間で砲撃戦が展開された。
発砲速度は、ほぼ同じだったが、命中率は違った。
完全に統制された射撃指揮システムと世界に名だたる砲術の大家にして戦歴華々しい猪口指揮する<解放>の砲撃。
方や世界最高の性能を持つとされる戦艦だが、これが初陣であり射撃データの揃っていないテキサス。
優位の根源となるべき射撃指揮装置を失い各砲塔がバラバラになって撃たなければならない。
着弾から即座に修正できないテキサスと的確に指示を出す猪口がいる<解放>の命中率の差は、戦いが進むにつれて大きくなっていった。
「前甲板命中!」
「左舷中央部に命中!」
「第一機関室に浸水!」
「後部甲板大破!」
テキサス艦橋に報告されるダメージが増えてくる。
それでも船団突入を防ぐ盾として、一歩も退かない。
アメリカ海軍の特徴であるダメコン能力により、速力を落とさず、<解放>と交戦を続ける。
<解放>へ近づいた事もあり命中弾が増えているが、二、三発だ。
しかも明らかに効いているようには見えず、<解放>は射撃速度を落とさずテキサスに斉射を加えてくる。
「機関室に浸水発生!」
「注排水へ注水!」
「吃水が下がります! 速力低下!」
距離が縮まり、水中弾の命中も多くなった。
対魚雷防御の為水線下にも装甲があるが、長い時間は保たない。
このままでは速力低下、最悪機関停止で離脱も出来なくなる。
「長官」
ストラブル中将の幕僚が声をかける。
黙ったままだが、目で訴えかける通り、テキサスに勝ち目は最早無い。
命中率は違いすぎるし被害が大きくなっている。
ならば損傷した艦を無事に戻して再出撃できる機会を与えるべきだ。
「……撤退する。直ちに反転せよ」
「ラジャー」
ストラブル中将は命じたが遅かった。
命令が伝達される前に<解放>の一八インチ砲弾が艦橋に命中。
ストラブル中将以下幕僚全員を死に至らしめた。
戦艦テキサスの幹部も全滅。
司令部を失ったテキサスは、指示がないため、しばらくの間、真っ直ぐ航行し、<解放>の斉射を受け続けた。
その間に数発の砲弾が命中し、被害が拡大していく。
トドメとなったのは指揮系統を全滅させた砲撃から三斉射目。
命中弾三発の内一発が四六サンチ砲弾が第二砲塔に命中。
偶然にも装甲板と同じ角度になり、垂直に突入し弾薬庫内で爆発。
装薬に引火して誘爆を引き起こす。
爆風は隣の第一砲塔へ到達し装薬に引火。衝撃と爆風は弾薬庫の砲弾も誘爆させ致命的な破壊の嵐を巻き起こしテキサスの船体を両断。
テキサスを瞬時に沈めた。
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