両軍、宗谷海峡へ
「長官。日本……いえ敵機動部隊の位置が分かりました」
「どこだ」
ソ連領海に近い海域を航行させていた猪口は、部下の報告を聞いて、報告させた。
「信濃を主力とする機動部隊は太平洋上で補給中。エセックス級二隻、ミッドウェー級一隻を主力とする空母群が攻撃機を発艦させただけです」
「確かか?」
「ソ連海軍の哨戒機が発信していました。間違いありません」
ソ連は中立を宣言しているが、国連軍監視のためと称して盛んにTu4――不時着したB29をリバースエンジニアリング、部品の完全模倣によって作り上げられた機体を使っていた。
被弾痕と製造ミスまでコピーした上、ポンドヤード法とメートル法の違いにより重量が重くなっていたが、片道なら米本土への攻撃に使えるほど足は長く、太平洋上までならソ連領内からでも十分に飛べた。
B29に似ているため、北日本の迎撃機が誤射することが度々あったが、アメリカほど激しく抗議はしていない。
彼らが平文で発信した報告を猪口たちは聞いていた。
「ならば問題ないな」
「長官」
「予定通り決行だ。針路南。夜間の間に接近して黎明と共に国連軍を叩き潰す」
「了解」
本当は夜戦を行いたかったが、護衛戦力を撃滅しなければ船団を攻撃出来ない。そのためには<解放>の火力が必要だ。
戦艦が十全に活躍するには視界が確保出来る昼が良い。
それに水雷戦隊の練度が十分ではなく、夜戦を行えば混乱、同士討ちも発生しかねない。
以上の要件を加味して、進撃途上の空襲を避けるべく艦隊を夜間に稚内へ接近させ、敵味方を識別できる黎明時に攻撃を開始する作戦を猪口は立案していた。
「<躍進>は?」
「艦載機の発進は可能だそうです」
「明朝発進させろ。稚内上空へ送り制空権を確保しろ」
「よろしいのですか?」
「上空援護はこれまで通り陸上基地からで十分だ。艦隊戦をやるなら空母は離れていたところにいたほうが安心だ。味方の援護に敵の居る稚内の制空権を確保させた方が良い。それに稚内にジェットが行けば、我々に来る攻撃機の数は少なくなるだろう」
「確かにそうですね。直ちに命じます」
「長官、ゴルシコフ長官より通信です」
「どうした?」
「ソビエツカヤ・イポーンが修復に成功。赤衛艦隊と共に作戦に参加するといっています」
「……本当か?」
猪口は、複雑な表情をした。
もし、本当なら戦力増大になるが、諸刃の剣だ。
ゴルシコフがまともに指揮できるか、猪口は疑問だった。
ソ連と北日本との関係上、ゴルシコフが上官となり指揮するのは明白だ。
危うい作戦に参加させられるのではないかと、猪口は懸念した。
しかし、良い事もある。
全ての責任は指揮系統上、ソ連が負うことになり、猪口達の責任ではない。
それに、作戦が失敗するのなら猪口が正統と考える南日本――国家主席などという得体の知れない人物が支配する北日本に忠誠など誓えないので、立案者でありながら作戦が成功する事に否定的、失敗して欲しいと思っていた。
それでも立案したのは軍人として最善を尽くすという本分からだ。
「ありがたいか」
猪口は微妙な表情を浮かべながら、指揮下の艦隊に赤衛艦隊との合流を命じ稚内への進撃を指示した。
「まだ攻略できないか」
夜明けと共に艦橋に登ったテキサスの第七艦隊司令長官ストラブル中将は報告を受けて苛立った。
現状は昨日から変わっていない。
総攻撃を開始したものの稚内陥落どころか防衛線突破さえ出来ていない。
このままでは敵を背後に抱えた不利な態勢で北上してくる北日本軍主力を迎え撃つ羽目になる。
前後を敵に挟まれて戦うなど、不利以外の何物でも無い。
更に悪い知らせが入った。
「長官、大泊より出撃した戦艦を含む敵艦隊、上陸船団に接近してきます。構成は戦艦二隻、巡洋戦艦二隻、その他多数。一時間で突入可能です」
「大泊にいた三隻のうち二隻は撃沈したのではないか」
「損害が軽微だったようで一隻は復旧したようです。間宮海峡にいた一隻と合流し向かってきます」
ソビエツカヤ・イポーンは着底したため比較的被害は軽かった。
破孔を塞ぎ、海水を排出することでどうにか離礁して戦闘可能になっていた。
「機動部隊は?」
「今朝の総攻撃に合わせて発進したため、敵艦隊攻撃に三時間かかると」
艦載機の着艦と再出撃の準備が必要であり、丁度航空隊が全機飛び立った後だ。
再出撃には時間がかかる。
「少数でも良いから敵艦隊に攻撃機を飛ばせないか?」
「敵艦隊上空には北日本の戦闘機が上空にいます。少数の攻撃機では撃墜されて仕舞います」
「北日本の空軍は壊滅したのでは無いのか?」
「実は新型のジェット戦闘機が現れ、我々の攻撃隊を迎撃しています」
戦局の不利を見たソ連が急遽投入したMig15だった。
洗練された機体と後退翼を持つMig15の性能は良く、直線翼に低出力のジェット艦載機であるF9Fパンサーでは太刀打ち出来なかった。
また発進したのが満州国製の空母、北日本海軍の<躍進>であった事も問題だった。
改飛龍型、雲龍型の拡大発展型であった。甲板を特殊なコンクリートで覆い、ジェット機の運用を可能としていた。
航続距離が短いジェットでも空母から発進することで、航続力の減少を抑えることに成功し、稚内上空の制空権を限定的に確保していた。
<躍進>級の詳細は此方
https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16817330666386239604
「我が方の戦闘機では太刀打ち出来ません」
「クソッ! 稚内への援護が少ないと思ったが、北日本はこのときを狙って待ち構えていたのか」
ストラブルの推測は的を射ていた。
実際は猪口が考え出したことだが、北の罠に嵌められた気分だ。
「長官、ご指示を」
部下が指示を求めたが怒鳴りたい気分だ。
このまま、突入を許せば船団は壊滅。上陸した部隊は孤立し、戦闘不能。
撤退し作戦は失敗だ。
だとすれば、取るべき手段は一つだけ。
「迎撃に向かう。水上艦部隊全艦、直ちに集結せよ」
「大和が現在、支援攻撃で南地区の攻撃を行っていますが」
「合流する前に敵艦隊に突入されてしまう。現有兵力だけでも十分に措置は可能だ。大和には後詰として直ちに来るように伝えろ」
「了解しました」
直ちに命令が下され、テキサスはライオンを引き連れ、敵艦隊に向かわせた。
同行するのは巡洋戦艦アラスカと重巡デ・モイン級だ。
彼らが先陣となって国連軍艦隊は迎撃に向かった。
ここに稚内沖海戦もしくは宗谷海峡海戦と呼ばれる戦いが行われようとしていた。
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