稚内戦線 膠着
「拙いな」
夜中、佐久田は大和の艦橋で珍しく焦りを滲ませた。
先日まで機動部隊にいたが上陸作戦が始まってからは上陸支援を行う、陸地に近く時に陸上の様子を見ることが出来る大和に旗艦を移していた。
おかげで拙い状況もよく認識できる。
予定通りなら稚内を現時点で陥落、完全制圧していたはずだ。
だが、未だに陥落していない。
しかも、各種情報から、敵に与えた損害は非常に少ないことが判明している。
敵ながら天晴れ、太平洋戦争の戦訓を最大に生かしているといえた。
だが、佐久田にとって、いや、国連軍にとっては最悪だ。
「牛島総監の懸念は当たったか」
牛島が懸念したのは、かつての部下である本郷中将が稚内を守っているからだ。
沖縄並みの防御陣地を作られていたら、いや本郷の事だから作っている、と見ていた。
故に短期間での攻略は不可能。
その場合、稚内陥落前に南の北日本軍主力が反転してくる。
上陸部隊は稚内と主力部隊に挟撃され全滅してしまう。
最悪の予想は的中し、間もなく、南から北日本軍主力、機甲部隊を中心とした重装備部隊がやってくる。
阻止爆撃で打撃を与えているが、それでも八個師団からなる敵主力を上陸したばかりの約四個師団で迎え撃つ必要がある。
しかも上陸した四個師団全てを使う事は出来ない。
稚内が陥落しないため、稚内封鎖のために一個師団は残す必要がある。
海上からの援護がある、防御側という有利な点があるとはいえ、上陸した国連軍の三個師団で北上してくる北日本軍主力、八個師団を相手にするには厳しい数字だ。
しかも、他にも懸念材料がある。
「機動部隊はどうだ?」
「手元にいる一群は陸上の航空支援のため、攻撃隊を編成できません。もう一群は補給で今日いっぱい掛かるそうです。作戦参加が可能になるのは明日朝以降です」
機動部隊を構成する二個空母群の一つが連日の航空支援作戦により手持ちの弾薬、燃料が欠乏してしまった。
現在補給の為に千島列島の東側、太平洋まで離脱中。
オホーツク海に支援部隊を向かわせたい位だが、北日本軍航空部隊、あるいは生き残っている北日本海軍潜水艦隊が補給艦を撃沈しただけで、機動部隊全てが行動不能になる。
航空支援が不可能になり、国連軍は不利になる。
千歳基地があるとはいえ、千歳の航空隊は敵の奇襲を受けやすいし、稚内までは距離がある。
それに南の旭川で激戦を繰り広げる味方への支援攻撃があり、稚内まで来る余裕はない。
機動部隊に活躍して貰う必要があるが、彼らも燃料弾薬、休養がなければ戦えない。
補給部隊の無事、安全な補給海域の確保は、絶対に必要だ。
空母群が下がり、攻撃力が下がるのは仕方ない。
そしてもう一つ懸念材料がある。
「<解放>はどうしている?」
「北日本艦隊は、間宮海峡の南方、樺太の西の国境線沿岸で確認されています」
「それは昨日の夕方までの話だろう。今どこにいるのか分からない」
間宮海峡から稚内までは夜明けまでに駆けつける事が出来る。
もし、見つからずに天塩海岸へ、上陸船団へ突入されたら。上陸部隊の補給物資を沈められたら上陸部隊は孤立し戦闘不能となってしまい作戦は失敗だ。
人員は救出できるかもしれないが、作戦は失敗。
北日本軍は再び南下し、旭川で激しい戦いになるだろう。
負けはしないが戦争が長引くのは必至だ。
「第七艦隊司令部より、明朝の総攻撃に備え事前砲撃を行うよう命令が来ました」
「北日本艦隊の突入があり得る状況でか?」
「<解放>はテキサスが警戒するとの事です」
「ライオンは?」
「連日の砲撃で弾薬が欠乏し、後方に回りたい、と」
<解放>への備えとしてテキサスと大和が沖合で警戒したため、ライオンが陸上砲撃を行っていた。
しかし、連日の砲撃により、弾薬が欠乏した上、乗員の疲労も溜まっており、大和とテキサスも交代で陸上砲撃に回る事となっていた。
今日は大和の当番だ。
「仕方ないか。だが、弾薬は出来るだけ使わない。徹甲弾は可能な限り残せ」
「良いのですか?」
地下深くの陣地を破壊するのに貫通力のある徹甲弾が有効であり、地下陣地を陥没させ使用不能にするため陸上部隊から大量使用するよう要請されている。
「<解放>を相手にするのに使う。その時の為に取っておく必要がある。砲撃は予定通り零式弾と三式弾で行え」
「了解」
通常攻撃用の砲弾零式弾、対空攻撃用の三式弾は地上攻撃に使える。
しかし貫通力があまりない、零式弾に遅延信管を使って吹き飛ばすくらいだろう。
稚内の地下陣地は深く掘っている可能性もあり、通常団では効果が期待できない。
だがやらないよりマシだ。
失敗する可能性は高いが。
事実、佐久田の予想通りに進んだ。
大和の砲撃後、連合軍は前進を開始する。
しかし、北日本軍いや本郷率いる稚内守備隊は国連軍が同士討ちを恐れる地点まで引きつけると反撃を行った。
各所で接近戦が行われ、機関銃掃射により国連軍は動けなくなる。
そこから後方の砲兵陣地に向かって隠されていた北日本の重砲が火を噴く。
戦いは膠着状態となった。
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