改装空母信濃
その夜、大泊の南東四〇〇キロの海上、知床の北の海域、オホーツク海上を多数の艦艇が航行していた。
彼等は突然現れたわけではなかった。
日本各地より出撃した艦艇は発見されないよう太平洋上を分散して航行。
夕方までに航路から離れた千島列島、東側の予定地点に集結。
夜になると、商船に発見に発見されないよう無灯火で国後水道および択捉水道よりオホーツク海へ侵入。
千島列島に配備された哨戒機の援護、レーダー索敵により商船を回避しつつ、陸上航空隊戦闘機の上空警戒を受けながら、機動部隊の各空母は攻撃隊の発進準備を始めていた。
機動部隊主力を構成するのは、ミッドウェー級空母一、エセックス級空母二、イギリスのオーシャン級空母一。
そして信濃級空母三隻だった。
信濃級は終戦時、第一機動部隊に所属していたため大きな損傷を受けず、稼働可能だった。
終戦後はアメリカとの協定により沖縄から米軍を各地へ輸送する任務に従事。
その後は第二復員省に所属し、太平洋各地の将兵を日本へ帰還させる任務に就いていた。
復員任務も終了した後は米軍に接収されクロスロード作戦に提供される予定だった。
だが、軍縮により多くのアメリカ軍艦が予備役となり海軍戦力の低下を憂いたニミッツが、ミッドウェー級が新たに配備されるまでの代替艦としての使用を考え中止。
呉において改装が行われカタパルトおよびアングルドデッキを装備、サイドエレベーターの設置などをして近代化された。
米空母に装備させる前の実験としての意味合いが強かったが、結果的に信濃の改装は成功を収め、戦後の空母の標準的な形を作り上げた。
特にアングルドデッキとサイドエレベーターの組み合わせは、空母誕生以来の悲願、同時発着艦を実現させ、空母の能力を大幅に向上。
ミッドウェー級が新たに配備された後も、貴重な戦力として米軍は信濃を活用した。
再軍備後は海上警備隊に移管され、航空支援警備艦として活動。
戦後の信濃に関しては下記参照
https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16817330666384821120
そして極東戦争を迎え、稼働状態にあった信濃は姉妹艦と共に出撃が命令され、大泊空襲部隊として参加していた。
信濃級が全て揃ったのは中野から連なる情報機関の得た情報を元に、佐久田が決定したため。
通常ならば、あやふやすぎてまともに取り扱わない。
だが、佐久田は国際情勢や北の言動から起きうると判断。周囲の反対を押しのけ、全艦を稼働状態にした。
下手をすれば、佐久田の首は飛びかねなかったが、北の侵略があったため正しさが証明された。
佐久田が、第一船隊指揮官、事実上の司令官として海上警備隊を率いるのはそうした事情だった。
今回大泊空襲を計画した本人であるため、佐久田は信濃の艦橋で発艦作業を見守っていた。
信濃をはじめ、日米英の各空母の甲板には搭載機の三分の一が並び、出撃に備えていた。
「総航空機発動っ! 総航空機発動っ!」
太平洋戦争以来の命令が下った。
幾ら、米軍の支援があっても艦載機を満載して、発進させる訓練など行えない。
米軍と共に共同で発着艦訓練を行う程度だ。
まして三隻同時など大事でもなければ無理だ。
その大事、戦争が起きたため再び甲板に艦載機を満載出来ることになった。
皮肉な結果だったが、彼等は再び出撃できることを喜んでいた。
「よし! 行くぞ!」
三等警備正という階級を与えられた南山が、部下達に命じた。
海上警備隊が出来、艦載機部隊を再建するとき、真っ先に扉を叩いた。
年齢がかなりいっている点が懸念されたが、真珠湾以来の雷撃の勇士、数々の海戦で空母を仕留めた腕と経験を買われて入隊出来た。
本来なら教官任務に就けるはずだったが、南山は作戦を知ると志願。
五年の間実戦がなかったため数少ない経験者として上層部も認め、攻撃隊の一指揮官として参戦していた。
乗機のA4Dスカイレーダーに乗り込み、機体の確認を行う。
整備員が頑張ってくれたお陰で全て良し。
熟練整備員は、セーフティーのピンを四本抜いて確認すると、完了のサインを送る。
南山は手旗を持つ誘導員の指示に従い発艦位置、カタパルトに向かう。
停止すると発艦要員がワイヤーでカタパルトと機体を結び終えた。
その時、マストの旗が下がった。
「発っ艦っはじめっ! 発っ艦っはじめっ!」
独特の抑揚で指示が下り、南山は発艦士官に合図を送り、椅子の背もたれに身体を密着させ、スロットルを全開にする。
直後、発艦士官がスイッチを押し、カタパルトを始動。
一一トンの機体を一四四キロへ加速させる。
南山は加速の衝撃に耐えつつ、機体を操り、無事に発艦させた。
後続の機体も次々とカタパルトで撃ち出される。
やがてスカイレーダーが発艦を終えると、F4Uコルセアが飛び立つ。
武装を満載したスカイレーダーよりコルセアの方が軽く、甲板の中程からカタパルト無しで発艦できるため、迅速に発艦していった。
彼等は上空で編隊を組むと、大泊に向かって空中発進する。
しかし、出撃したのは彼等だけではなかった。
配備されたばかりのF9Fパンサージェット艦上戦闘機が飛び立ち、先行する。
彼等は大泊上空の制空権確保が任務だ。
速度が違うため、先行して上空制圧、奇襲が任務だ。
「頼むぜ」
新型機に静かに声援を南山は送った時、周囲が明るくなり始めた。
彼等の背後から、朝日が昇り始めていた。
そして彼等の進路正面、樺太の山々を照らしていた。
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