大和と国連軍内の内紛

「やはり美しいな」


 久方ぶりに大和を見た佐久田は感嘆の声を上げた。

 レーダー機器はアメリカ製の最新型、対空火器が一二.七サンチ高角砲から五インチ両用砲に変わっているが、元の優美な姿は変わっていない。

 沖縄嘉手納海岸に座礁した大和は、戦後調査のため離礁し、呉へ運ばれた。

 一時は、クロスロード作戦への提供も考えられた。

 だが、ある事情から中止となり、対空兵装及びレーダー、通信器機を米軍規格へ切り替える大改装が行われ、海上警備隊に配備された。

 そして今回、五年ぶりに実戦へ参加する事となり、横須賀にやって来た。


 大和の戦後に関しては

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16817330666282504930


「他に感じられない美がある」


 大和には独特の美的センスが宿っていた。

 隣に停泊する、テキサス級戦艦と比べれば余計にそう思う。

 テキサス級は戦後、米海軍が計画、建造した戦艦であり一八インチ砲、大和と同クラスの主砲を搭載している。

 一部では戦艦不要論が叫ばれたが、ある事情、ソ連がソビエツキーソユーズ級を就役させるなどの理由により、戦後、建造が始められた。

 戦争が終わったため優先順位が下がり工事は遅かったが半年前にようやく就役した。

 基本構造は米軍の新戦艦、アイオワ級に似ている。

 前部に二基、後部に一基の三連装主砲。船体中央部に両用砲が片舷八基搭載され、対空砲も配備されている。

 ただ、砲撃の安定性を狙い幅広の船体のため速力は大和と同じ二七ノットだ。

 同時に三三メートルを超えたためパナマ運河通行は不可能となり、太平洋と大西洋で兵力転換が出来ず、テキサスは最初から太平洋艦隊配備だ。

 二番艦、三番艦は早々に就役し大西洋艦隊に配備されており、回航だけで三ヶ月以上はかかるだろう。

 しかもソビエツキーソユーズ級二番艦、三番艦ソビエツカヤ・ロシア、ソビエツカヤ・ベラルーシが大西洋へ出撃したため、警戒の為に出動中。

 東アジアへの展開は更に送れるだろう。

 そのため今回テキサスは、大和と共に艦隊を組むことになっている。

 また英国の東洋艦隊からもライオン級が作戦に参加する。

 大戦中、日本海軍の戦艦、特に大和の圧倒的な成果を見た英国が建造した戦艦だ。

 だが、大戦により疲弊しており新規設計、特に一八インチ砲の設計が間に合わず、戦前のオライオン級の設計を流用。

 一六インチ三連装砲三基に抑えられており、大和やテキサスに比べれば攻撃力に劣る。

 代わりに機関を増強して、三〇ノットの高速を出せるようにしている。

 本来ならソ連の脅威に対抗し本国周辺に配備すべきだ。

 だが没落しつつある英国の太平洋へのプレゼンスの確保、インド洋を保持するためにも無理をして艦隊を展開していた。

 ただ、マレー連邦、シンガポールの独立により拠点を失い、香港に大型ドックがないため整備のしやすい呉を中心に展開していた。

 お陰で、戦争にすぐ参加出来たのは皮肉だ。

 これらの艦隊を統率する目上の司令長官ストラブル中将がテキサスを旗艦としている事もあり、佐久田が表敬訪問を行った。


「作戦指揮官に任命されました佐久田警備監です」


「第七艦隊司令長官ストラブル中将だ」


 来訪した佐久田を威圧するようにストラブル中将は言った。

 気分が悪いが佐久田は表面上穏やかに応対する。


「作戦成功のために宜しくお願いします」


「当然だ。本作戦に英国海軍と海上警備隊が私の指揮下に入ることを喜ぶ」


「……共同作戦では」


 実質上の指揮を行うのは佐久田のハズだ。

 ストラブル中将が着任したのは一ヶ月前であり、状況を把握していないだろう。

 佐久田が事実上の指揮を行うのもこれが理由だ。


「私の指揮下にある。命令は伝達されているだろう」


「確かにそうですが」


 名目上とはいえ上官であり反論しづらい。

 佐久田は下手に出るしかなかった。

 ニミッツに頼み込み抑える事も出来るだろうが、戦場にはニミッツはいない。

 おそらくストラブル中将はワシントンの反ニミッツ派の庇護を受けている。

 ニミッツと折り合いが悪くなっても庇って貰えるので佐久田の指揮下に入ることを拒めるのだろう。

 下手に指揮権をかざして、押さえつけることなど出来ない。ならば、最低限のコントロールで上手く行くよう方策を考えるべきだ。


「作戦の内容を確認したいのですが」


 なので佐久田はストラブル中将の考えを聞こうとした。

 ストラブル中将は自信満々に応えた。


「日本各地で乗船中の部隊を以て、第七統合任務部隊を編制。天塩海岸へ第七二任務部隊、第十軍団を上陸させる。本艦と大和で構成される第七八任務部隊は持てる戦力により敵艦艇を排除して援護する」


「北日本の艦隊を放置したまま、上陸ですか? 上陸地点で敵艦隊を迎え撃つのは危険では?」


 上陸予定地点の近く、宗谷海峡を挟んで樺太にある大泊は北日本海軍の拠点がある。

 そこから艦隊が出撃してきたら、船団が危険だ。


「上陸後に突入されたら危険です」


「その時は我々が仕留めると言っている。機動部隊の援護もある」


「ですが、常に警戒する事も出来ません。上陸作戦は数日かかります。その後の殲滅戦でも数日、最長で数ヶ月はかかるはずです。その間、近くに機動部隊が常にいるわけでもありません。隙を突くことは簡単です。泊地への一回の突入で大戦果も挙げられます」


「むっ」


 ストラブル中将は黙り込んだ。

 前の戦争で佐久田は、米軍の隙を突いて攻撃を行い大戦果をあげた。

 戦争を長引かせるだけだったかもしれないが、戦果はあげた。

 敵も同じ手を使っている可能性が高い。


「敵艦隊に対する攻撃を仕掛けるべきでしょう」


 佐久田の言葉に追い詰められたストラブル中将は拗ねるように尋ねた。


「では何か方法が、代替案でもあるのか」


 佐久田は事もなげに、先の大戦で参謀を務めた時のように、無気力な口調で、そして聞いた者達を驚かせる答えを言った。。


「パールハーバーの再現です」

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