桜花の攻撃

「提督! 敵機が小型機を分離して接近してきます」

「何だ、誘導爆弾か」


 日本はインド洋で、ドイツは地中海で連合軍に対して攻撃を行い成果を上げている。


「だが遠い、今すぐ針路を変更して回避しろ」


 マッケーンの命令で、艦隊は針路を変更する。


「レーダーからの報告です。目標は針路を変更して此方に向かっています」


「何故だ、何故分かる。まさか上空の偵察機のせいか」


 実際、上空の彩雲が誘導電波を出してマッケーンの機動部隊の位置を教えていた。


「敵の偵察機を撃墜、あるいは追い返せ」


 上空で待機していた戦闘機が攻撃を行い追い散らすが、なおも彩雲は執拗に追いかけてくる。


「向かってくる小型機はどうだ。迎撃したか」


「いいえ、猛烈な速力で味方戦闘機は追いつけません」


「なんだと」


 新型のジェット機か、とマッケーンは不安になる。


「全戦闘機を出して迎撃しろ。一機も通すな」


「ダメです。敵機の速度が速く、迎撃間に合いません。間もなく輪型陣に接触します」


「対空防御始め!」


 輪型陣の外側の駆逐艦と軽巡が対空砲を放ち迎撃を始める。

 しかし、あまりの速力に追随出来ず、桜花の侵入を許して仕舞った。


「輪形陣の外側を突破されました! 敵機接近!」


「全ての火力を集中させ弾幕を張れ! 一機も近づけるな!」


 マッケーンは幕僚に向かって叫び命じる。

 直ちに全砲火が放たれるが敵機に当たらず、苛立って命じる。


「火力を集中させろ!」


「手遅れです!」


 艦長の言葉でマッケーンが振り向くと一直線に向かってくる桜花が目の前にいた。

 急いで、提督の座席から飛び出し逃げようとしたが、直後に桜花が艦橋に突っ込んだ。

 装甲の薄い艦橋では時速九〇〇キロの桜花を受け止める事が出来ず、六〇〇キロの爆弾は外れて反対舷まで飛んで行き、そこでようやく爆発した。

 しかし、桜花突入により放たれた衝撃波が司令部幕僚を含め艦橋にいた全員を死傷。さらにバラバラになった機体の残存燃料が飛び散り、大火災を発生させ、艦橋で僅かに残った瀕死の重傷者を焼死させてトドメを刺し、全員を死に至らしめた。

 これでミッドウェーおよび第五八任務部隊の指揮系統が崩壊した。

 そこへ、二機目の桜花が突入。

 最初の機が速力が早く揚力を抑えきれず上昇してしまったのに対して、パイロットは先発機の飛行をみて更に高度を下げ海面すれすれに飛び、ミッドウェー船体の左舷側へ突入。

 ミッドウェー舷側には装甲空母の名にふさわしく、二〇.三サンチ砲に対抗できるだけの装甲を施されていた。

 だが、それ以上の運動エネルギーを与えられた桜花を装甲は食い止める事は出来なかった。

 装甲板を食い破った桜花は船体中央部で爆発した。

 爆発は格納甲板へ及び艦内を火の海にする。

 ミッドウェーは飛行甲板に装甲板を張ったのがここで裏目に出た。

 爆発の圧力は装甲板によって艦内へ反射し、爆風が格納庫とその上の居住区画――飛行甲板直下にあり装甲板の下側だった――で暴れ回り、多数の乗員を死傷させた。

 残りの一機はミッドウェーへの攻撃が成功したのを見て、後続のコーラル・シーへ目標を変更。

 艦橋真下へ突入し、機関部を破壊。

 大浸水とおこし、機関室を海水で満たし、発艦の為にカタパルトへの油圧を供給するため過熱気味のボイラーに接触。

 海水はボイラーに触れると爆発的に蒸気となり、水蒸気爆発を起こして船体に深刻なダメージを与えた。

 そして攻撃はこれで終わりではなかった。

 上空へ上昇した二機が、無傷のマリアナを発見すると、これに狙いを定め急降下。

 一機は機体のバランスを崩し、外れて仕舞ったが、残り一機は後部飛行甲板に突入した。

 飛行甲板を突き破ったが、格納甲板の装甲で弾かれ、格納庫内で爆弾が炸裂した。

 格納庫内に大損害が発生したが一番の被害は、飛行甲板でバラバラになった機体から飛び散った残存燃料だった。

 マリアナの飛行甲板では、大和への攻撃隊を準備していたため大量の爆弾と燃料を準備しておりそれらに引火。大火災を起こした。

 被害はこれで終わりではなかった。

 残りの五機は、もう一つのミッドウェー級で構成される空母群へ攻撃を行い。輪型陣を突破して侵入。

 一機が途中で撃墜されるも突入した。

 ソロモン・シーは、飛行甲板に突入され準備していた飛行機に引火して大炎上。

 フィリピン・シーは、舷側に突入した一機と飛行甲板に突入した一機により大損害を受けた。

 一番酷かったのはパールハーバーだった。

 上空より垂直に降下した桜花の襲撃を受けた。

 音速に近い速度で突入した機体は飛行甲板と格納庫――ミッドウェー級はエセックス級の改良型で本来の格納庫の装甲板に加え、飛行甲板にも装甲板を施した二重装甲で守っていた。

 それを易々と貫通し、船底を突き破ってから爆弾が炸裂。船体に大きな衝撃を与え、分断してしまった。

 前後に分断された船体は暫く浮いていたが、やがて浸水し、両方とも海底へ沈んでしまった。

 三隻が撃沈、残りも航空機運用が不可能となる損害を受け、沖縄近辺にいたミッドウェー級はここに全滅することとなった。


ミッドウェー級の詳しい記事は


https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16817330659518407921

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