艦載型橘花

「神雷部隊がやりました!」

「おお、やったか」


 神雷部隊の成果を聞いて機動部隊司令部では喜びの声が溢れた。


「よし! 好機到来だ! 残りの空母は我々が仕留める!」


 特に第三艦隊司令長官である角田格治は喜びの声を上げた。

 本当はミッドウェー級も仕留めたかったが、ミッドウェー級が大和攻撃に残ったため、機動部隊からの攻撃範囲外におり、機動部隊からは攻撃出来なかった。

 艦攻を乗せていれば米空母群へ攻撃出来たが、度重なる攻撃で艦攻隊は消耗しており、十分な数を用意できていない。

 少数いるが防空体制の整った敵空母に突撃させたら、空母一隻と引き換えに全滅だろう。

 そのため代わりの装備を乗せているが、航続距離が短く、攻撃圏に敵を捉えられなかった。

 下手に接近しようものなら敵大編隊の空襲を受ける。

 かといって敵の攻撃隊を引きつけるために離れる事も出来ない。

 どうするべきか思案していたが、神雷部隊により、ミッドウェー級が壊滅した今、敵艦隊に接近し攻撃が出来る。


「これより反転攻勢に出る。各空母は橘花の出撃。大淀、仁淀、伊勢、日向にも発進命令を出せ」

「了解!」


 ジェット機である橘花は、高温排気を出すため、通常の空母、木甲板で運用することは出来ない。

 しかし、装甲空母は装甲板が張られているため、耐えられる。

 冷却が必要だが運用できないわけではなかった。

 そのため各装甲空母は橘花の運用、対艦攻撃が行われる事も計画されていた。


「発進準備完了!」

「直ちに発進!」


 攻撃隊として橘花は五〇番、五〇〇キロ爆弾を搭載して出撃していった。

 航続距離が短いため編隊を組まず、彼らは速力を生かして敵艦隊に向かって突入する。

 途中、敵機の迎撃を受けるが、速力を生かして振り切り、敵艦隊へ接近していく。


「見えたぞ!」


 攻撃隊が最初に見つけたのは敵艦隊の前衛、ピケット艦だ。

 艦隊の前方に出てレーダー探知により接近する日本機を見つけ出し、迎撃機を誘導するのが役目だ。

 このピケット艦のせいで、多くの攻撃が失敗に終わった。

 これを撃沈すれば攻撃は成功する。


「食らえ!」


 まず最初に放ったのはロケット弾だ。

 多数のロケット弾の一斉攻撃により、甲板の対空砲火が沈黙する。

 沈黙するピケット艦に、橘花は更に接近して行く。


「止めだ!」


 数百メートルまで近づいたところで爆弾を投下。

 落とされた爆弾は時速五〇〇キロの速度で海面に接触し跳ね上がる。

 ソロモン戦の後半、米軍が日本の輸送船相手に行ったスキップボミングだ。

 海面を跳ねて直線上に進むため、命中率が高い。

 しかも速度が速いほど跳ね飛ぶ距離は長い。

 爆弾は、数回跳ね飛んだ後、駆逐艦の側面に命中し大爆発を起こした。

 僅か五〇〇キロの爆弾だが、二〇〇〇トン程度の駆逐艦には大損害だ。

 一発の爆弾の命中で大火災を起こし沈没した。


「よし! 撃沈だ!」


 僚機も攻撃を行い、これまで攻撃され続けた鬱憤を晴らすように次々と撃沈していく。

 中には、輪型陣外側の駆逐艦と軽巡洋艦に対して攻撃を仕掛け成功させる橘花もいた。


「よし、大戦果だ!」


 攻撃が成功したことにパイロット達は喜んだ。

 だが、それも束の間だ。

 彼らの上空を一筋の雲を残して敵艦隊へ向かって行く機体があった。


「……」


 彼らは苦虫を噛みつぶすような表情を浮かべ敬礼をして見送ると反転して母艦に戻っていった。

 橘花の航続距離は短く滞空時間が短い。

 それに五〇〇キロ爆弾程度では敵空母を撃沈する事が出来ない。

 燃料も一時間分しかないため、すぐに戻らないと貴重な機体が、エンジンの寿命が事実上一回の飛行限りだが、南方からの資源輸送が途絶えた今、機体も貴重なため、なんとしても持ち帰らなければならない。


「頼むぞ、桜花」


 自分たちの力量不足に涙しながら彼らを見送り、攻撃隊は母艦に戻っていった。

 

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