桜花四三型

「まさか、このような命令を受けることになるとは」


 第二戦隊司令官松田千秋少将は、苦渋に満ちた表情で、後部飛行甲板、カタパルトに装着された機体、桜花四三型を見ていた。

 此方は、橘花と同じジェットエンジン、ネ20を搭載した機体で、航続距離が三〇〇キロ近くある。

 陸上から使用予定だったが、全備重量が二六〇〇キロ程度なので、一部の艦艇から使用可能だ。

 その搭載艦として選ばれたのが大淀と仁淀、そして伊勢と日向だ。

 四隻とも全備重量三トンもある瑞雲を運用するために大型のカタパルトを搭載しており、三トンに満たない桜花四三型を使用するのに十分な能力を持っていた。

 特に伊勢と日向は、航空戦艦として改造されており、大型の格納庫をもっていてエレベーターで上下させることが出来る。

 大淀と仁淀も潜水艦隊の旗艦として、索敵能力が低い潜水艦に代わり敵情把握のために大型水上機を運用するために大型格納庫とカタパルトを乗せている。

 だが、潜水艦が通商破壊に使用され、大淀型は当初の活躍が望めなくなり、格納庫を改造して連合艦隊旗艦を務めた。

 長門や大和より容積が広いため使い勝手は良かったが、陸上基地ほどではなく、程なく連合艦隊司令部が日吉に移り、元に戻された。

 そして、カタパルトと格納庫に目を付けられ、桜花を乗せる事となった。

 ジェットエンジンが始動し、十分な出力を得ると、カタパルトから発進していく。

 日向と大淀、仁淀からも発進する。

 一度に六機の桜花が発進し、敵艦隊へ向かっていった。

 カタパルトの数が、伊勢型で二基、大淀型で一基しかないため、六機しか飛ばせない。

 だが、敵艦隊を攻撃するには十分だ。


「司令官、桜花の発進は順調です」

「そうか」


 松田は部下の報告に淡々と答えた。

 本来なら戦争を食い止めなければならないはずの自分たちが守るべき青年達を特攻機に乗せて死ぬように強要している恥じるべき事態だ。

 だがこれしか方法がないのもまた事実だった。


「発進を終えた後、我々も敵艦隊に突入する。全艦、突撃用意」

「はい!」


 憤懣やるせない松田はその怒りを敵艦隊にぶつけることにした。

 絶対に彼らだけを行かせはしない。




 発進した桜花は、速力と高度を上げつつ、敵艦隊に向かう。

 途中、敵機の迎撃を受けるが、搭載してたロケットブースターで速度と高度を更に上げて敵機を振り切った。

 やがて、敵艦隊上空に達すると、敵空母を目標に突入を開始した。

 二二型同様に、六〇〇キロの爆弾を内蔵した桜花四三型の威力は凄まじかった。

 ミッドウェー級程防御力も大きさもないエセックス級は次々と被弾し、撃破されていく。

 流石に一発では大破しないが、二機三機と命中すると流石のエセックス級も耐えきれず、沈没していった。

 インディペンデンス級軽空母と配備されたばかりのサイパン級軽空母も随伴しており、エセックス級と誤認されて攻撃を受けた。

 重巡あるいは軽巡改造の一万トン程度しかない軽空母の船体では桜花の攻撃を受け止めきれず、一発で大破、沈没し、戦闘力を失った。

 米軍は残った護衛空母から戦闘機を出して上空援護に出したが、高速の桜花を撃墜する事は難しく、撃退に成功する事はあったが次々と被弾し沈没していった。

 機動部隊に搭載された桜花四三型三〇機――ネ20を橘花へ優先供給したため、生産数が抑えられた――その内、半数が故障および米軍の迎撃で撃墜。

 残り五機が目標を誤り命中しなかったが、残り一〇機は命中し、エセックス級五隻を撃沈破、軽空母三隻を撃沈。

 神雷部隊を合わせ、米軍から航空戦力を奪うことに日本軍は成功した。

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