日本軍の総反撃と四四二連隊
「連合艦隊が出撃しました!」
第三二軍の司令部に明るい声が響き渡った。
米軍上陸から一ヶ月以上。
半数近い戦力を失いながらも戦い抜いた彼らには疲労の色が濃かった。
しかし、久方ぶりの朗報に幕僚達は喜びの声を上げる。
だが一人牛島は怪訝そうに八原に尋ねる。
「八原。出撃して勝算はあるのだろうか。米軍を気手いらせず無駄に船を沈めて仕舞うのではないか」
牛島の懸念はそこだった。
沖縄を囲む米軍に艦隊が到達前に沈んでしまうのではないか、という事を心配している。
むしろ硫黄島のように敵の後方を襲撃した方が使い道があるのではないかと考える。
それに、米軍の航空支援が少ないのは呉の連合艦隊が来襲する事に対応するためと八原から聞いている。
ここでイタズラに出撃させ沈んでしまっては沖縄が寄り不利な戦況に置かれるのではないかと心配していた。
「御懸念はもっともです。ですが、好機でもあります」
八原は珍しく明るく答えた。
「現在、台風が接近しており、米軍の航空支援がありません。また、連合艦隊に対応するために敵艦隊は北上しているとの報告が入っています。前線は手薄、支援がない状況です」
「では」
「総反撃を」
八原は小さく、しかし強く言った。
「米軍の前線の火力は侮れませんが、航空支援、艦砲射撃の支援がなければ、何処か一点を集中的に攻撃し前線を食い破る事は可能です。可能な限り前進し、米軍の侵攻を遅らせる事が出来ます」
八原の方針は長期持久だ。
可能な限り損耗を少なくして長く戦う事を目的にしている。
だが、八原も軍人だ。好機を得れば、反撃して優位な状況を手に入れる事に躊躇いはない。
「予備兵力を動員して、反撃を進言します」
「許可する。君以外にこの状況を打開できる人間はいないのだからな」
「海軍の腰抜け連中は台風から非難し、日本艦隊を迎撃するために離れるそうだ」
陸上に司令部を移したパットンは幕僚達に伝えた。
「航空隊も台風で飛べない。我々だけで対処する必要がある」
故郷バージニアでハリケーンを受けた経験はあるが、戦場で遭遇した経験は無い。
部下が持ちこたえられるか心配だったが、自分が不安を抱いていては士気に関わる。空元気を見せて士気を維持しようとした。
「各部隊には警戒態勢を厳重にするよう命じろ」
「しかし、日本軍はこの嵐の中来るのでしょうか」
「来る」
疑問を述べる部下にパットンは確信を持って言った。
「私が日本軍ならこの好機を逃さない」
艦砲射撃の援護も、航空支援も望めない状況だ。
日本軍の武器は火力が低く貧弱だが、兵士達はねばり強く勇敢で常に戦い続ける事を考える。
小柄だが、躊躇無く白兵戦を行ってくる。
白兵戦に持ち込める状況を見逃すとは思えない。
「最大限の警戒態勢を整えろ」
パットンが命じた時、後方で激しい爆発音が響いた。
「どうした」
「弾薬集積所が吹き飛びました」
「日本軍の攻撃か」
「いいえ、砲弾が飛来したような音はしませんでした」
「日本軍の工作部隊か」
「まさか。厳重に警備をしていましたよ」
「日本兵を見落としたのだろう」
「そんな事はありません。日本兵は先日捕虜にした者だけです。重傷でベッドの上から出られません。破壊工作など不可能です」
先日捕虜になった船坂弘の事を言っていたのだが、やったのは船坂だった。
密かに収容所から脱走し、這いずって弾薬集積所を発見。
時限装置を仕掛けて爆破した。
ちなみに、何食わぬ顔でベッドの上に戻っており、船坂が破壊したとは米軍は考えなかった。
絶対安静が必要な重傷者、首の付け根を銃弾が貫通し、身体と足には四箇所の裂傷でどれも通常なら致命傷を負っている者が脱走できるはずがない、と思っていたからだ。
それに原因を追及している暇はなかった。
「伏せろ!」
遠くから砲弾が飛来する音を聞いてパットンは部下を庇って伏せた。
テントが吹き飛び、爆炎が彼らを炙る。
「やはり指揮所の位置まで把握していたか」
偵察か無線傍受か、日本軍はパットンの司令部を把握し砲撃を加えてきた。
何故、今になって砲撃してきたかは分かる。
「日本軍の攻勢が始まりました!」
「迎撃だ! 全力で撃退しろ!」
パットンは毅然と命じたが、内心は焦っていた。
艦砲射撃も航空支援もない。
弾薬集積所が破壊され、手持ちの弾薬も不足している。
台風のせいで移動も難しいし、日本軍の発見が困難だ。
嵐に紛れて後方を襲撃される可能性も高い。
「容易ならない敵だ」
とんでもない相手にパットンは冷や汗が出る。
そして命じた。
「四四二連隊を出す」
「ですが、あの部隊は、予備指定です。それに先遣隊のみで本隊はまだ」
「彼らの戦歴は知っているだろう。彼らなら必ずやってくれる。それ以前に、他に戦える部隊があるのか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます