桜花二二型
特別攻撃機 桜花二二型。
忌まわしき特攻専用機である。
当初はロケットブースターのみを搭載した一一型が投入される予定だった。
「ダメだ」
だが、当時機動部隊参謀として桜花の意見を求められた佐久田は採用を拒否した。
「特攻など認めない。それにこの機体は無意味だ。ロケットブースターを使っても航続距離が最大で三七キロしかない。これでは投下前に米軍戦闘機の餌食だ」
理路整然と言って採用を拒絶した。
しかし、ここで終わらせれば良かったが、佐久田の理知的な頭脳が、理由を述べてしまった。
「最低でも敵のピケットラインの外、一五〇キロから攻撃出来ないと母機ごと撃墜される。その距離からでは敵艦隊の視認は不可能。誘導装置もないので敵艦隊に放つことも到達することも不可能。無意味な兵器だ」
佐久田の、この一言、本人は発言の理由、根拠を述べただけだが、この言葉が事態をあらぬ方向へ向かわせた。
一五〇キロ以上の航続距離を得られれば、実用的である。
誘導電波受信機があれば敵空母にたどり着ける。
敵艦隊、空母に打撃を与えられる。
設計者である太田正一特務少尉は、佐久田の意見をそう解釈し航続距離延長を画策した。
まず、1.2トンの徹甲爆弾を半分に減らし、エンジンをパルスジェットに切り替えた。
ドイツではパルスジェットを使った飛行爆弾V1を使い連日ロンドンやアントワープを攻撃していた。日本でもコピーして長距離に改造した飛行爆弾梅花として採用し成都やマリアナのB29基地攻撃に使っていた。
さらにドイツでヒトラーの命令により有人型の実戦投入能力が間近という噂もあり、桜花のパルスジェット化を進めた。
ドイツの場合、有人型は人命の浪費として現場がサボタージュしており実戦投入されなかった。
だが、日本は特攻以外に道はない、と思い込む人間が多かった。
ロンドンやサイパンのような広い面積の土地にまぐれ当たりを狙うなら良いだろう。
だが、都市や島より小さく動く艦船、空母を狙わなければならず精密誘導が必要な我々は有人で誘導する以外に道はない。
以上の理由から一一型を元にした改良型――何を以て改良と呼ぶか、忌まわしい機体の開発が進んだ。
結果、開発された二二型は航続距離が二〇〇キロ近くに伸び、作戦半径をおよそ一五〇キロにする事に成功。
その距離からでは、敵艦隊を視認できないが、彩雲の電波誘導とその受信装置を付けることによって敵空母まで接近できるようにした。
佐久田に指摘された問題点を全てクリアした結果、二二型は正式採用されてしまった。
しかも佐久田の指摘を改善したというお墨付きもあったため、生産が優先されてしまう。
海軍は桜花二二型専用の運用部隊、第七二一航空隊、通称神雷部隊を編制。
岡村大佐を指揮官とし、野中五郎少佐を飛行隊長として改造された一式陸攻丁型で訓練が進められた。
三式陸攻を使うことも考えられたが、防弾装備が重く桜花を搭載しての離陸は不可能。
搭載可能な連山は機数が少なく貴重なため、配備されなかった。
防弾装備が少ない一式陸攻を使う事も野中は不安視していたが、他に方法はなく運命を受け入れて訓練を実施。
この日実戦投入された。
投下された桜花二二型一六機は機首下部に付けられたロケットブースター二基を作動させパルスジェットの作動速度まで加速する。
だが戦時の粗製濫造のため、一機は左ブースターが点火せず、バランスを崩し墜落。一機は、ブースターの筒にヒビが入っており、噴流が機体へ噴出。
機首の爆弾を加熱誘爆させた。
だが残り一四機は機体を加速させ、高空の薄い大気の中、空気を圧縮させパルスジェットエンジンに点火。
一機が機械的故障により点火に失敗するが、残り一三機は、ブースターの燃焼が尽きる前にパルスエンジンを作動させて高度を上げ、ブースターを切り離した。
まだ敵艦隊を視認できていないが彩雲の誘導電波に従い、桜花二二型一三機は向かう。
途中米軍の戦闘機と遭遇、一機が撃墜、急降下により、一二機は敵機の迎撃を振り切る。
海面直前で引き起こしを行うが一機が失敗し残り一一機。
追尾する米軍戦闘機を振り切ろうとして機体後部にある三基のロケットブースターに点火。
ブースターの不具合により一機が墜落。
残った一〇機は二手に分かれそれぞれ二つの敵空母群へ突っ込んでいった。
桜花の詳しい諸元は
https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16817330660324305344
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