神雷部隊の死闘
「大和への攻撃はどうなっている」
攻撃隊を放った第五八任務部隊――米空母部隊司令官マッケーンは苛立たしげに幕僚に尋ねる。
「予想以上に敵の戦闘機が多く、有効打を与えられておりません」
「ジャップめ、まだこれだけの機体を残していたのか」
徹底した空襲で航空基地を撃破したはずなのに、大量の気体が残っていたことに愕然とする。
「敵の機動部隊への攻撃は?」
「此方も敵の戦闘機が多く撃破出来ません。しかも敵は新型戦闘機を投入したようです」
機動部隊に投入されたのは烈風だった。
艦攻並みの大型の機体に誉から新たに開発されたハ四三発動機を搭載し信頼出来る二〇〇〇馬力エンジンを積み込み完成させた機体だった。
お陰で予定された性能が出せた上に、信頼性も高く空戦性能も優れており強敵だった。
「F8Fでも戦いにくいか」
「はい、迎撃が難しいです。空母の数も足りません」
マッケーンは四つの空母群を指揮しているが、半数はエセックス級で、悪天候への対応能力が低い。
そのため、東方へ真っ先に退避させたので大和への攻撃には難しい位置にいる。
代わりに敵機動部隊を攻撃させているが、敵の迎撃に手を焼いている。
「とっとと大和を沈めて、機動部隊を攻撃するか」
台風で航空攻撃が不能となる前に大和を仕留め、その後穏やかな海域にいる敵機動部隊を仕留めようというのがマッケーンの考えだった。
しかし、大和は沈むどころか攻撃も命中しておあらず苛立ちが高まる。
「帰還した機体から新たな攻撃隊を編制して出撃させろ。あと一回くらいは攻撃出来るはずだ」
「了解」
「司令官! ピケット艦より日本本土から迫る敵編隊をレーダーで発見したとのことです」
「また神風か」
「いえ、一式陸攻のようです。ピケット艦から通信途絶」
「上空に彩雲です」
「ふん。いかれた連中がまた来たか。迎撃隊にすぐ落とさせろ。迎撃戦闘機も送り出せ」
マッケーンは吐き捨てたが、ただの神風ではなかった。
「偵察隊より入電! 敵空母発見! 誘導電波出ています!」
「距離は!」
野中が尋ねた。
「二〇〇キロ!」
「もう少し近づけ! 搭乗員は……搭乗せよ」
二トン近い重いモノを積んでいて野中の一式陸攻は速力は遅い。
だが、あと一五分、敵に近づきたい。
本当ならそのまま敵空母へ突っ込みたい。彼らだけを行かせたくはない。
しかし、同行した岡村司令を巻き込むわけにはいかない。
悩んでいたが、目の前を銃火が通り過ぎ野中の指向を現実に引き戻した。
「どうした!」
「敵機の攻撃です。戦闘機隊が迎撃に出ています!」
やって来た敵機に向かって護衛戦闘機が飛んでいく。
「頼むぞ、守ってくれよ」
切り離すまで後、数十キロ飛ばなければならない。
それまでの間、持ちこたえて欲しかった。
「全機密集しろ敵機に銃火を浴びせて撃墜しろ!」
敵戦闘機が幾度も迫ってくるが編隊を密集させ防御火力を集中して迎撃する。
それでも編隊の端にいた一式陸攻二機が攻撃を受けて被弾、墜落していった。
編隊が乱れなかったのは先頭を野中が走り引っ張っていったからだ。
全機が、野中に引っ張られ進んでいく。
護衛戦闘機隊も奮戦した。
攻撃位置の周辺に張り付き、陸攻を攻撃しようとすれば横合いから殴りかかり、攻撃の邪魔をする。
攻撃位置に着いても密集した野中達陸攻の防御射撃が弾幕となり接近を許さない。
永遠とも思える激しい銃撃戦は十数分にもわたって続いた。
「射程距離に入りました」
「……投下せよ!」
一瞬、野中は躊躇ったが命じた。
命令と共に搭載されていた桜花二二型が投下された。
二トンの重量がなくなり一式陸攻は上昇していく。
下を見ると、桜花はロケットを燃焼させ上昇を始め、彩雲の電波に従い、敵艦隊に向かって突進していく。
その後を追うように野中は暫し機体を進める。
「引き返せ」
真っ直ぐ進もうとする野中に、岡村が言った。
「しかし」
「俺とお前だけなら、突っ込みたいが、ペア達がな……」
「わしらもお供します」
岡村が振り向くと機銃員の一人が声を上げ、後ろのペアも頷いた。
(だからだよ)
結束の強い野中が突っ込めば部下達も一緒に行ってしまう。
数少ない陸攻隊員を失うわけにはいかない。
特に、統率力に優れる野中とその部下達を失うのは痛い。
「引き返せ。これは命令だ。野中少佐」
「……分かりました司令」
野中は岡村に従い引き返した。
自分はともかく、自分を大切にしてくれた、優れた指揮官を死なせる事など出来ない。
旋回の軽いGが後ろ髪を引いているようで辛かったが、野中達は基地に向かった。
発進した桜花の成果を期待して。
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