空襲を受ける大和

「左舷より敵機接近!」


 三四三航空隊の迎撃を抜け出した米軍機が迫ってきた。


「目標、左四十五度」


 森下は命じる。

 全ての主砲が旋回し、左四五度を向き、仰角をあげる。

 随伴の長門、周囲を守る利根と筑摩、伊吹、鞍馬も主砲を旋回させ、敵機に狙いを定める。


「砲撃開始!」


 数秒の時間差を付けて全砲門が開いた。

 他の艦も砲撃を行い三式弾を敵機に向けてばらまく。

 敵機は、回避しようと編隊を崩したため、撃墜出来たのは数機だけだ。

 だが、それでよい。

 分散した敵機に護衛戦闘機が襲いかかる。


「よし、第二遊撃部隊の戦闘機部隊はよくやってくれているな」


 第一遊撃部隊に続行した後、東シナ海へ向かった翔鶴、瑞鶴を初めとする空母群だ。

 装甲がないため防御力が劣るので、機動部隊相手には出来ない。

 しかし、護衛戦闘機を乗せて、大和以下第一遊撃部隊へ戦闘機を送り込む事は可能だ。

 九州の陸上基地も頼りになるが、台風接近により基地からの発進が出来ない可能性もある。

 空母ならば晴れ間へ移動して発進させることは可能。

 それを考慮しての布陣だった。

 狙い通り、敵機が分散したところを彼らは集団で襲いかかり、撃墜していく。

 だが、襲撃を躱した敵機はなおも艦隊に接近する。


「敵機接近!」

「対空防御始め!」


 大和に乗せられた対空砲が火を噴く。

 一二基の高角砲が敵編隊を撃ち抜こうとする。

 大和だけではない、周囲の駆逐艦、特に防空駆逐艦の涼月、初月が一〇サンチ高角砲を放ち、大和に接近する敵機を追い払おうとする。

 綾瀬型防空巡洋艦も迎撃に加わり、対空砲火は激しさを増していく。

 艦隊の周囲は対空砲の炸裂で黒煙で満たされていく。

 それでも米軍機はなおも接近して大和に攻撃を加えようとした。

 続いて、近接火器、二五ミリ機銃群が迎撃に加わる。

 猛烈な対空砲火を前に、米軍機の一部は撃墜され、残った敵機も危険を感じて逃げ出す。

 なおも突撃精神盛んな敵機が突入し大和に魚雷を叩き込もうとする。


「左舷より敵機接近!」


「取舵五度」


 森下はタバコを咥えつつ冷静に命じる。


「敵機が爆弾庫を開いたら教えろ」

「はい!」


 見張りは言われたとおりアヴェンジャー雷撃機の爆弾庫を注視する。


「開きました!」


「取舵一杯!」


 森下が命じた瞬間、アヴェンジャーは魚雷を放ち一直線に大和に向かっていく。

 しかし、大和は急速に回頭し、魚雷に向かって行く。

 魚雷は全て大和の右舷側を通過し、被害はなかった。


「元の針路に戻る。面舵!」


「後方上空より敵機急降下!」


「面舵一杯!」


 右に行き足が衝いていたため、森下は大和をそのまま右旋回させる。

 急速に旋回していた大和は敵機の針路から逸れた。

 一度急降下した敵機はやり直しなど出来ず、爆弾を投下して、離脱していった。

 当然、大和に被害はなく、無事に航行していた。


「回避成功」

「基準針路に戻るぞ、取舵」

「右舷上空より敵機接近!」

「面舵一杯!」


 急降下してくるのを警戒して森下は命じた。

 大和は急速に旋回する。


「! 只今のは味方機の見間違い!」


 見張り員が報告した。

 乱戦のため敵機と味方を見間違えたのだ。


「針路戻せ。おい、見張り!」


 森下は命じた後、見間違いをした見張りに声を掛けた。

 見張りは叱責を覚悟したが、森下は朗らかな声で言う。


「よく言った! 見間違いかもしれなくてもいい。兎に角報告しろ。間違いでも俺が何とかしてやる。敵機の動きを報告しろ」


「敵機接近!」


 森下が言った直後、緊迫した声が響く


「新たな敵雷撃機が左舷より接近!」

「右舷上空より敵機急降下!」


 先ほどの進路変更で敵機のまっただ中へ入って仕舞った。

 左右からの同時攻撃。

 どちらかを避けても、もう一方に攻撃されてしまう。


「取舵一杯! 左舷推進器群逆進!」


 左舷側のスクリューが逆回転し、猛烈なブレーキが掛かる。

 同時に艦首が大きく左へ急速に回頭する。

 思わぬ動きに敵機はついて行けず、魚雷はそれ、急降下爆撃機も回避していった。


「爆弾と魚雷を同時に回避した……」


 見事な操艦に見張り達は目を点にする。


「言っただろう。俺が何とかすると。見間違いでも良いから報告するんだ」


 森下の有言実行の態度に見張り達は流石艦長と尊敬の念を新たにした。

 この艦長なら大和を無傷で沖縄に突入させる事が出来るかもしれないと。

 しかし、森下は、笑みの下に焦りがあった。

 まだ昼を過ぎたばかりでこれだけの敵機。

 夕方まで敵の攻撃は続く。

 台風で着艦不能になるのをおそれて切り上げるかもしれないが、それでもあと二、三回はくる。

 艦載機を使い捨てるつもり、後方から補充をアテにして不時着させるなら更に多くの攻撃機を出すことが出来る。

 やはり、敵空母を叩かないとダメだ。

 機動部隊に攻撃を頼みたいところだが、攻撃機の数が足りず、戦闘機を積んでの囮役、敵の攻撃機を引きつけるのが精一杯だ。

 僅かに乗せている攻撃機も、マリアナ方面から来る輸送船団を攻撃するために使う程度。

敵機動部隊を攻撃するなど自殺行為に等しい。

 この後の攻撃で魚雷と爆弾を数発食らうことを森下は覚悟した。


「後方より航空機接近! 双発の大型機です!」

「敵か!」


 沖縄の飛行場から敵の陸上機が出てきている可能性が脳裏に浮かび、防空指揮所は緊迫する。

 米陸軍機は、本土に迫ってくる敵艦隊を迎撃するため、魚雷を装備出来るようにしている機体もある。

 ソロモン諸島では雷撃されてひどい目に遭っている。

 決して油断できない。


「いいえ! 味方です!」


 見張りの報告に安堵する。

 第五航空艦隊が飛ばした攻撃機らしい。

 だが、僅か十数機の機体で何が出来るのかと森下は思った。

 しかし、機体に積まれた小型の機体をみていぶかしく思うと共に、おぞましさを覚えた。




 大和を護衛する駆逐艦涼月のスピンオフ短編を書きました。

 此方も読んでください。


https://kakuyomu.jp/works/16816927862106283813/episodes/16817330660034106282

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