メンコ

「はあ、暇だ」


 田舎には遊ぶことのできる場所が一切ない。


 代わりに大自然の中で野性的に遊ぶことはできるものの、それで良いのは小学生までだ。


 高校生にもなれば、友達と買い物を楽しんだり、恋愛やコイバナを楽しんだり、オシャレなコーヒーショップにでも足を運びたいものなのだ。


 都会の高校生ならできるだろう。だが視点を変えて僕を見てみよう。


「店番しかしてねえー」


 父さんはプラプラどこかへ出かけてしまったし、客なんてこの頃全く来ない。


 ……いや、来たな。だいぶ変わり者な奴だが。


「ふむふむ、暇なのね!」


「こ、この声は!?」


 最近聞き覚えのある声が店の中に響き渡る。


 だが肝心の姿が見えない。というか店の中から?


「とう!」


 スタッ。


 いきなり僕の目の前に彼女、綾園心菜が降り立った。


「うわっ! び、びっくりしたあ。どこにいたんですか?」


「? 決まってるじゃない。天井に潜んでいたのよ」


「は?」


 嘘だろ、嘘だよな? 聞き間違いだよな?


「まあそんなことは置いといて」


 そんなことにされた。


「今アオハル君、暇って言ったわね」


「はい、三分ほど前の僕は暇でした。今は驚きと恐怖でお腹いっぱいです」


「そっこで! とっておきのアイテムがあります。これよ」


 ココさんは、丸い形をした厚紙を取り出した。


「メンコ?」


「そう、メンコよ!」


 メンコとは、自身のメンコを決められた陣地の中に置いてあるメンコに叩きつける。そして、叩きつけられたメンコがひっくり返ったり、吹き飛ばされて陣地の外に出れば、そのメンコを貰うことができる。

 最終的にメンコの数が多い人の勝ち、という遊びだ。


「早速遊びましょう、メンコは持ってるわよね?」


「あはは、腐るほどありますよ」


 僕は段ボールを持ってくる。


 地面に置いた時、鈍い音が鳴ったことから、それがかなりの重さであることを裏付けている。


 段ボールを開けると、中には山盛りのメンコたちが詰められていた。


「た、宝の山じゃない!?」


「そうですか……? 僕には厚紙の山にしか見えませんけど……」


「いいなあ」


「欲しいなら好きなだけ持って帰ってもらっても……」


「ホントっ!? ……いや、でも、ただでもらうのは……。そうだ」


 彼女はにっと笑う。


「勝負しましょう。私が勝ったらメンコをいただくわ。あなたが勝ったら、前と同じ。好きなお願いをなんでも一つ聞くわ」


「へえ、いいんですね」


「私に二言は無いわ。早速始めましょう」


 という訳で僕とココさんの熱いバトルが始まった。


 先攻、僕。


「うおおおおおお!」


 大きく振りかぶり、メンコを思い切り叩きつける。が、


「一枚も……ひっくり返らない……だと!?」


 僕はあまりの難易度に軽く戦慄を覚える。


「んふふふ、そう簡単にはいかないのが楽しいところ。さあ反撃させていただくわ!」


 後攻、ココさん。


 彼女はあまり振りかぶることはしなかった。


 だが素早く、そして鋭く、地面に刺すかのように叩きつけた。


 僕はその動きを見て敗北を悟った。ああ、勝てない、と。


 案の定、彼女は一度に三枚もはじき返すという、離れ技をやってのけた。


「やったあ。次はアオハル君だよ」


「いや、もう僕いいです」


「ん? まだ決着ついてないわ」


「その、なんというか。完敗です、すがすがしいほど」


 僕はたくさんのメンコが入った段ボール箱を、ココさんに差し出す。


「これもらってください。きっとココさんが持っている方が正しいと思います」


「そこまで言うのなら仕方ないわね。勝負は私の勝ち。二連勝よ」


 こうして彼女はメンコを数枚ポケットにしまい、店を後にした。


 気づくと意外に時間が過ぎていることに驚いた。

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ラブでコメな昔遊び的アオハル日常 多雨ヨキリ @tauyokiri

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