第14話台所の女神

台所には女神がいる。

料理をしていると、いつもどこからかあらわれて、サワサワと手を振っている。


 白一色の巫女装束に、赤いたすきをかけて、長い髪を背中で束ねている。

細面の美しい顔はいつも微かに笑みをたたえ、シンクの上からガスレンジの上へ、ふよふよと漂っている。


私が気づかないふりをしていると、生板の上の野菜をひとかけら、その小さな手で触ってみたり、お芋を煮ている鍋の上でくるくる踊ってみたり。

小さなお玉を手に持って、味噌汁の味見をしていることもある。


好き勝手に動きまわって、やがて、料理ができる頃には、消えてしまう。


 彼女が何をしているのか知らないけれど、彼女に会えた日の味は、ひときわ美味しいような気がするのだ。

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麻子のひとひら小説集 仲津麻子 @kukiha

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