花壇

やんごとまと

第1話

中学生になった。

6年間ずっと身につけていた水色のランドセルが嫌いだった。母が勝手に決めた水色のランドセルはリボンの刺繍やラインストーンで飾られていて、自信の無い私とのアンバランスさが目立った。そのランドセルとやっと離れられる。中学生になると皆地味な紺のスクールバッグで登校し、下校する。私はそれが嬉しかった。



母の黒い軽自動車で入学式へ向かう。コロナの影響で保護者が生徒につき一人しか参加出来ない事になった。母子家庭なので当たり前に母が参加する事になったのだが、他の家庭は父と母どっちが参加するか話し合いでもするのだろうか。

母は運転しながら私に話しかけた。


「学校ついたら体育館に集まれだって。」

「うん。」


内心心臓はバクバクしていた。初めての環境。これからそこで3年間過ごす事を考えたら不安で押しつぶされそうだった。その感情を母に悟られたくなくて窓の外を見ながら返事をした。





校庭が駐車場として解放されているらしく、数台の車が停まっていたので母もそこに車を停めていた。


「はい着いたよ。降りなさい。」


ドアを開け、少しぬかるんだ地面にそっと足をおろす。母と話しながら体育館へ向かう途中、同じ小学校の子達を見かけた。何度か話した事がある程度で全然仲良くない女の子達。同じクラスになったことも無いし、苗字すら分からない。私の視線に気づいた母が言った。


「話しかけなくていいの?」

「いいよ。仲良くないし。」

「そっか。」


母は少し悲しそうに言った。私の友達の少なさを母は心配しているようだった。その心配を見て見ぬふりするように下を見ながらずんずんと早歩きで体育館へ向かう。


「靴を脱いで体育館に入ってくださーい。」


男の人が大きめの声で言った。普段は教師として働いているのだろう。皆それに従って靴を脱ぐ。私と母も靴を脱いで体育館に入った。キョロキョロと周りを見ていると母に呼ばれた。スーツを着た受付の女の人と母が話している。長机の上に分厚く重なった紙が置いてある。その紙には大量の名前が規則正しく並んでいた。その中から自分の名前を見つける。齋藤 果穂。名前の横に渡されたボールペンで慎重に丸印をつけた。


「ご入学おめでとうございます。」

受付の女の人はにこやかに笑いそう言いながら私にコサージュを渡した。新入生全員に渡されるものらしい。顔を歪めた。ピンク色の造花のコサージュ。妙にリアルなそのデザインを見て私は吐きそうになった。




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花壇 やんごとまと @nekkko

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