終わらない行列

@N_tokyo

終わらない行列

Aさんが知り合いから聞いた話だ。

その知り合いの名前を仮にTさんとする。


Tさんは東京出身だったが、地方の国立大学に進学するため大学が始まる4月に合わせて3月の終わり頃にこの地方に引っ越してきた。大通りに面したアパートでかなり安い家賃のわりにきれいで大きい部屋だった為、特に何も考えず住み始めることにした。


無事に大学が始まり、それなりに充実した生活を送っていたそうだ。

一つ不思議だったのは、大学でできた友達の中でTさんの住んでいる地域にいる人と話していると、どこに住んでいるのかという話題になった時、決まって驚いた顔をした後で「運がわるい」と残念そうな顔で言われることだった。Tさんがなぜか聞いても上手くはぐらかされてしまう。だが、元来あまり深く考えない性格Tさんは何も思わなくなっていった。


順調に生活を続けていたTさんだったが新年が明けたころ初めて彼女ができた。

Tさんのバイト先で働く同い年の人で、とてもハキハキした素敵な人だったという。大学は違ったが、住んでいる地域が同じだった為話が盛り上がりそこから付き合うこととなった。

その彼女はKさんといった。Kさんは生まれも育ちもここらしく、きれいな景色が見れるところやうまい飯屋なんかをよく知っていた。付き合い始めてしばらくしたころ夜に電話しているとKさんが言いにくそうに話し始めた。


「そういえばさ、明日あれがくるけど…準備できてるよね…?」

明日に何かあったか少し考えたTさんは付き合い始めた記念日のことだと思いつき

「大丈夫。ちゃんと覚えてるしプレゼントも買ったから。」

と笑いながら言うと、Kさんは不思議そうにした後「まだ知らないの?」と真面目な声で聞いてきた。

「知らないってなにを?」

「ほら…シニビナ…」

「シニビナって何?」

「死ぬに雛人形の雛で死に雛…本当に知らないんだ」

少し悲しそうな声をしてKさんはそう言った。

「じゃあこれだけ言っとくね、明日は絶対に家の中にいないで外に出て」

「はぁ?なんでだよ」

「ごめん、詳しく言えないんだけど明日は絶対ダメなの。とにかく明日が終わればいいから。それじゃあね。」

そう言って電話を切られてしまった。切り際に鼻をすする音がしたという。

意味が分からないTさんは言いようのない不安感に襲われながら眠りについたという。


やけに静かな朝だった。雪でも降ったのかと思いカーテンを開けると人が一人もいなかったらしい。時計を見ると朝の8時前だった。普段なら学生たちの声や廃品回収車の音がするはずだが何の音もなく、それどころか鳥の声すらもなかった。


周りの家を見るとみんなカーテンを閉じ、窓もすべて閉まっていた。

薄気味悪く思ったTさんはカーテンを閉めようとしたが、ふと楽しそうな音が耳に入ってきた。よく目を凝らすとTさんの窓から正面にある大通りの右からお祭りのような恰好をした人たちが大きな傘をもってこちらに歩いてきていた。

やけに大勢の人がいて、Tさんは始めお祭りかな?と思い(そういえば今日はひな祭りだなぁ、町を挙げたお祭りだろう。少し見てみるか)と窓に近づいた。


だが、先ほどより近づいてきた行列の人をみると、よく見えなかったそれらの顔は子供が乱暴に線だけで描いたような目と鼻と口をして、傘を上下左右に揺らしながら歩いていた。Tさんは見た瞬間に(これは見てはいけないものだ)と感じサッと顔を下に隠した。冷汗が滝のように流れていた。同時にこの行列の後ろにお雛様がいる。お雛様を見たら終わる。と本能的に感じたらしい。

Kさんに言われたことも忘れ、ずっと布団に隠れていたそうだ。


行列は家の周りををぐるぐると回り続け1日中笛や太鼓の音が鳴り続けていた。

そして24時ぴったりにふっと消えた。


「Tさんはその後すぐ引っ越したそうですよ。引っ越してすぐにTさんの住んでいた地域で不審死が相次いだらしいです。そういえば彼女さんとはすぐに別れたと言っていました。最後にこう言われたらしいですよ。「雛祭りって女の子にとってとても大事なの。お囃子や傘持ちがいっぱいいても、やっぱりお内裏様がいないと祭りは完成しないのよ。あなたが悪いわけじゃない」って、これもしTさんが家を出ていたらどうなっていたんですかね。」とAさんは笑いながら話した。




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