07 最後の季節
そんな高校生も最後、季節は半分ほど過ぎたころの夏も終わりかけ。いつものメンバーでグダグダと話して、夜は浴衣で花火でもしようか――という流れになった。なんだかんだと毎年集まって花火をしている気がする。
「ねー、マリ。せっかくだし浴衣着ようよぉ」
「ユイはいっつも言うけど、着付けしてあげるの私」
「わたしたち、高校生も最後だよ~? ほら、はやく選ぼ!」
はあ、と溜息混じりに今年の新作浴衣を見繕ろっているユイの隣りに立つ。マリの目に留まったのは濃鼠のような灰がかった黒い生地に、古典柄で紅白の百合が描かれている。
赤い帯を締めて差し色にするその姿は、程よく大人びて見えるのだろうか? その年頃にしては、落ち着いたものを選ぶたちだと自覚しているが……友達には――アイツにはどう映るのだろう。
「マリってほんとに静かなものが好きだよねぇ。似合ってると思うよ」
「そういうユイは明るいのが似合うと思う。でも今持ってるのも、似合うと思うよ」
「ほんと~? じゃあこれにしよ~!」
そう言って嬉しそうにユイが選んだのは、淡い灰桜の生地に金魚と鞠が描かれたものだった。くすんだ
浴衣と合わせて和服用の下着を調達した二人は、マリの家で着付けをすることにした。シャワーで汗を流し、手早く下着をつける。浴衣に袖をとおし、合わせ目の具合いを見ながら丈を調節して帯を締める。飾り帯の形が崩れないように整えてやり、最後にほんのり
「やっぱり慣れてる~! マリすごーい」
「はいはい、ユイは先行ってて。私も着付けたらすぐ行くから」
「うん! みんなで準備しておくね」
素足に下駄を履き、ユイは不慣れな足取りで外に向かった。途中で母に会ったのだろう「ユイちゃん、そうしてると大人っぽいわねえ」などと話し声が聞こえる。マリも自分の支度に取りかかろうとした矢先、廊下のガラス戸がコンッっと叩かれた。
「なに、タクマ。今から着付けるんだけど」
「悪りぃ悪りぃ。昔バケツどこにしまったっけって思ってさ」
「いつもの場所見てみて。それで無かったら母さんに訊いてみて」
「それもそうか、了解。あ――お前も早く来いよな」
「分かってる。じゃあね」
ぴしゃりと戸締りを済ませると、マリも浴衣を着付けはじめる。手早く袖をとおして帯を結び、化粧を、三年間伸ばし続けた髪を整える。丹念に櫛を入れて梳り、纏めあげて結ぶのだった。
それから揃いの下駄を履き、静かに歩き出す。空を見れば夜でも分かるほどの晴天で、雨の気配も無さそうだ。もっとも、夏の天気は変わりやすい。花火を終えて帰るころには雨かもしれないが。
「マリ~! もぉ、遅いよ。タクマくんも早くはやく!」
「ごめん。ちょっと支度に手間どって……タクマ、バケツは?」
「おばさんに訊いたら、出しっぱなしだって言うから。場所教えてもらって持ってきたよ」
「やったぁ! それじゃあ始めよう」
ユイが花火の詰まった袋を開けると、その中には見慣れた手筒花火やネズミ花火、線香花火などがセットで入っていた。それぞれを手に持つと、順番に火をつけてはカラフルに燃えあがる様子を楽しんだ。
線香花火をやる頃合いになって不参加だったはずのカケルも、どういう理由か合流してきた。ユイは花火を渡しながらも「もう最後だよ?」としょんぼりしていたが、当のカケルは「それで良いんだよ」と嬉しそうに――でもどこか悲しそうに微笑んだ。
それぞれの距離が自然と近くなる。マリとタクマは終始無言で線香花火が燃え落ちるさまを眺めていたが、不意に「あ」と太い声が洩らされた。マリは「どうしたの? タクマ」と声をかけて初めて、自分が鼻緒で足先を痛めていることに気づいたのだ。
「肩掴まれよ。辛いだろ?」
「別にこれくらい……近いんだし、きゃっ――!」
「ほんっとに素直じゃねーな。お前って意外と子供だよなぁ」
タクマによって抱きかかえられたマリは「……あんたもね」と小さく返すので精一杯だった。
満たない、足りない 水沢 @mzswxx
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