あーこっこクラブへようこそ!

 ここまで長らく私の独白……もしくは「毒吐く」に付き合ってくださって、ありがとうございます。

 できる限りありのままを心がけましたが、あくまでも私視点、主観が入ったものであり、現状を正しく認識していない部分もあるかと思います。

 他者を批判するような文面もあったと思いますが、批難したり糾弾したりするつもりはありません。あくまでも私の立場からすれば……の話です。


 乗馬の世界では、徐々に馬を大切にする乗馬クラブや指導も増えてきて、昔に比べると、はるかに馬が幸せに過ごすことができるようになってきました。馬の寿命も伸びたように思います。

 でも、まだまだ馬のウェルフェアに関しては発展途上のようです。

 乗馬人口の少なさは馬の再就職の先を狭めていますし、なんとか乗馬人口を増やそうとお手軽価格でお客さんを馬に乗せようと努力すれば、より過酷で人も馬も使い捨てるブラックな仕事先になってしまっています。

 馬が大好きなはずの多くの人が、まだまだ敷居の高さゆえに、乗馬を習うことに二の足を踏んでいる……それがまた馬の行き先を狭めているのです。

 また、乗馬を習う人たちも、最初のうちは馬を生き物として認識していますが、徐々に自分の都合のいいように考え、まるで自動車教習所にでも通うような感覚になってしまい、馬の不幸には目をつぶってしまいがち、そして、乗馬クラブも臭いものに蓋をするように、お客様には乗馬の楽しさだけを提供しようとしてしまい、そのツケは馬が払うことになってしまいます。


 そんな負の連鎖をどうやったら断ち切れるのか?

 いくら考えても、どうやっても、これといった方法が思い浮かびません。

 ただ一つ。

 多くの人が馬の声を聞けるようになり、どうにかしたいと思い、少しでも理想に近いクラブを求めていけば、自ずと多くの人が望むようなクラブが増えてゆく、つまり、多くの人たちが馬の幸せを願えば、きっと願いは叶うのだと。


 YouTubeで「そんなことをしても大丈夫なんですか?」と馬との付き合いに疑問を投げてくる人の多くは、とても優等生で、クラブから馬に対する危険回避の方法を教わってしっかりそれを守っている人です。

 それはとても大事、一番大切なことではありますが……本当に習うべきは、馬とはいかに危険でそこから身を守るか、ではなく、どうやって馬と仲良くなるのか? だったはずなのです。

 危険回避の仕方の羅列を、馬との正しい付き合い方と勘違いしている人の、なんと多いことか。


 体質的に乗馬ができない、馬とは触れ合えない人もいるでしょう。

 私は、そんなに馬が好きならば勇気を出して乗馬を始めればいいのに、と長く思ってきましたが、YouTubeを通じていろいろな人たちと出会い、本当はそうしたいけれど、どうしてもできない人たちも、少なからずいることに気が付きました。

 そういう人たちにも、何か馬のためにできることを用意することも、これから大事になってくるでしょう。



 私は、なんとかあーこを維持したいと思い、YouTuberとしてやっていくことを決意し、多くの人に助けてもらっています。今はなんとかあーこを維持することができています。

 そして、あーこは週2、3回の騎乗と毎日の放牧生活を満喫しています。

 昔とは違う穏やかな目をしていて、私を和ませてくれます。

 その様子をYouTubeにアップして、皆さんから応援をいただいていますが……あーこの維持のためだけではなく、多くのあーこをこの世に送り出すためでもあります。

 私は長年、お世話になった馬の行く末を知っていて見捨ててきた、その後を追わずに現実から目を背けてきた、むしろ、情に流されて馬を救うことをその後の顛末を思えばよろしからぬこととすら思ってきた、そういう人間です。

 そうせざるをえなかったのですが、溜まりに溜まった罪悪感が最後の一滴で漏れ出した……もう馬の不幸に目を閉じたまま、乗馬を楽しむことはできません。

 全ての馬を救うことはできませんが、そのきっかけを作れるかも知れない。

 動画を見てくれている人が、少しでも馬のことを理解してくれて、もしも運命の馬と出会った時、勇気を持って救ってあげることができたら……。

 その時のためのお手伝いや後押しになるような動画を、これからも作っていきたいのです。

 幸せな私と幸せなあーこの動画が、多くの人と馬の出会いと絆を深めることを願って。

 いつか、みんなが自分のあーこっこを持つことを夢見て。


 You may say I’m a dreamer

 But I’m not the only one

 I hope some day you’ll join us

 And the world will live as one


 君は僕を夢想家だと言うかも

 でもそれは僕だけじゃない

 いつか君が仲間になってくれたら

 世界は一つになるんだよ

  

(ジョン・レノン/イマジン)


 人と馬は、お互いが幸せになるように共存してきた、この世界には、たくさんの、みんなのあーこっこが溢れて幸せに過ごすことができるはずです。


 あーこっこクラブへようこそ!

 もうあなたは一人じゃない。




(了)

 

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あーこっこクラブへようこそ!〜引退競走馬が幸せに生きる道 わたなべ りえ @riehime

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