R:ロマンス
そして、美花が倒れた逢魔が時になった。
美花は、このタイミングで元に戻れないのであれば、この世界で生き抜いて行かなければと決意する。
『――では、お楽しみのエキシビションを始めます』
最初は、女子シングル、男子シングル、男女ペア、アイスダンスと、競技毎のメダリスト達が、各々趣向を凝らしていた。
「行くよ! 流くん」
「分かった! 二刀さん」
二人で手を繋いで、リンクの中央に立つ。
流が手を挙げて、スタートのポーズを取ると、音楽が掛かった。
「おお! これは、スケーター番長ではないか」
王の四季が身を乗り出しす。
「今季のスケーター大会をおちょくったような、激しい音楽だと思っていたが、余を楽しませる為のものだったか」
このプログラムは、後に伝説となる――。
「さあ、お互いの気持ちを合わせよう!」
「心は一つに!」
流がリバースラッソーリフトで二刀にしっかりと支えられる。
後ろ向きに滑り、頭上で流が半回転する大技だ。
そして、音楽にのって、滑らかに降りる。
「決まったな、流くん」
「力持ちさんのお陰だよ」
また、二刀が軸となり、流がしなやかに背中を反らせ、デススパイラルも儚げに決まる。
「最高だろうよ、優美な流くんは」
次々に大技が決まる中、二刀が流の腰を支えて回転させながら投げる、スロージャンプで着地も美しく指先の演技までぬかりがない。
「言うことない。難易度最高だろうよ」
「もう、コマみたいに回してさあ」
流は、演技中なので、微笑みながら頬を膨らませた。
これらペアならではの技が、ビシッと決まる。
「ラスト、記録を塗り替えろ!」
「OK!」
更に各々優れたスケーターなので、クワドラプルアクセルをペアでシンクロしながら飛ぶ。
拍手が巻き起こる。
「やったな」
「僕もできたよ。タイミングが分かったからか」
ペアコンビネーションスピンは、スピンを得意とする流の誘導で、花が幾重にも開くように美しく広がったり、蕾になったりした。
「後少し」
ラストは、二人のポーズで引き締まった。
「流くん、やったな……」
「ああ、思い残すことなんてないよ。二位だったのも忘れたよ」
二人は、呼吸を元に整え、汗を掻きながら、リンクの中央へ行く。
冬の花が投げられた。
それを拾い、手を繋ぎながら挙げ、リンクを一周した。
観衆の中で流が促さられてハグをすると、黄色い声が再び飛び交う。
杖を一突きする音がする。
四季は、満足したようだ。
立ちながら、大きな拍手を送っている。
「アキュータ国の皆、聞くがいい。次の第百一回から、男子ペアスケートの導入と、女子ペアスケートの検討を行う」
興奮冷めやらぬまま、高らかに宣言した。
二刀と流は、一人の名スケーターでありながら、二人でも滑れることで国外でも有名になる。
このことから、一人でもペアでもできるスケーターを
◇◇◇
「二刀と流、がんばったね」
美花は、茶色の手で、涙を拭った。
「私もお祝いをしなくては」
帰り道、いい氷の塊を見つけた。
大きさにして、高さはうさぎの顔程だ。
「女将さん、こんな感じのものはありますか?」
それで、旅籠からノミを借りて、制作を始める。
「あの瞬間の美しさを表し、がんばりを称賛するものにしないとね」
美花の彫塑は、慣れた手つきだった。
けれども、うちにいた二刀と流だと思うと、力が入ってしまって滑る。
「氷だからすっと走ってしまうのかしら」
リフトをしている、逞しい二刀と可憐な仕草の流だ。
「お見えになりましたよ。アキュータ国の英雄です」
翌日、女将が旅籠の食堂に、二刀流の達人を呼んでくれた。
「私よ、二刀と流。素敵なスケーティングとエキシビションをありがとう」
トロフィーを贈った。
「はじめまして……。ではないのかな? なあ、流くん」
「二刀さん、僕には、懐かしい香りがするよ」
静かに囁き合いがあちらこちらから聞こえる。
「さあさ、乾杯をしてください」
女将の気働きで、二刀も流もニコリとし、乾杯に応じてくれた。
「英雄にそして、旅の方の真心に」
「――乾杯!」
茶目っ気を込めて、美花がウインクをした。
「んー格別な味がしたかったわ。キャロットジュース」
美花は、うさぎを想ったせいか、アキュータ国に来てしまった。
「うさぎとして楽しく過ごして行きたいわね――」
胸の前に左手を置き、礼をした。
可愛いうさぎから一皮剥けた、二刀と流のこれからを応援する。
【了】
BR:二刀流にもロマンス いすみ 静江 @uhi_cna
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