しわ寄せ

荒川馳夫

あれもこれも安すぎる

「すごいなあ。どの商品も100円で買えるのか」


100円均一で商品を売っている店に男が訪れた。人生で初めてのことだった。

男は正直な話、質の悪い商品がそこらじゅうに並んでいると思い込んでいた。

安かろう悪かろうに決まっていると。


だが、予測は良い意味で裏切られた。

100円で買えそうには思えない、高品質の商品が所せましと置かれていたのだ。


ここに来れば、いつでもお得な買い物ができるんだ。


そう思うと、お得感が男に押し寄せてくる。

便利なものが全て100円。昔では考えられない話だった。


ところが、男はふと考えた。


「どうすれば、商品を100円で売れるんだ?何か秘密があるんじゃないか……」


そこで男は直に触れる商品を細かく観察することにした。

どこかに安さの秘密が隠れていると予測したからだ。


普段は注目されない部分を、ケチっているに違いない。

あらゆる方向、角度から商品を観察した男の結論はこうだった。


「分からん!どこに秘密があるんだろ……。まあ、安いことは良いことさ。お財布の中身があまり変わらないで済むんだから」


それ以上の思考は止め、男は多くの商品をカゴに入れてレジに向かった。



 数日後、男には待望の日がやっていた。月に一度ある、一大イベントだった。手に封筒を持ち、男は帰宅した。


「さて、今月はいつもより頑張ったから、多めに入ってるはず!」


封筒を開け、中身を数え始めた。一枚、二枚、三枚……。

全てを数え終えると、男の表情は悲しみに満ちていた。


「うーん、あれだけ働いたのに、あんまり増えてないぞ。どうしてだよ。オレは安い男じゃないんだぞ……」


ブツブツと文句を言いながら、男は以前に通った100円均一の店を思い出した。

そして、知らない方が良い事実に気づいた。


「ああ、なるほど。安さのカラクリが分かったぞ。なんだろう。複雑な気分……」












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しわ寄せ 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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