魔女の置き土産



「……聞きしに勝る無法っぷりですわね」


 下界の喧騒――もといっぷりに、空を舞うアリスは嘆息とも感心とも取れる息を吐いた。


 街の血管たる交通網は今や病院待ったなしの血栓だらけ。駅でもないのに停止している電車。煙を上げる交通車両。崩れた店舗テナント。そのどれもが現在敵対し合っているに起因し、またそれと応戦した自分の仲間たちの仕業である。



「いやいや過剰でしょあの火力!」「カカシさぁ、あんなんどっから調達してるワケ!?」


 赤い飛行艇と並走する双子のFPライダー、ハンプとダンプは口々に疑問と不平をまくし立てる。


 問い詰められた少年、カカシは「さぁ」とだけ。しかも届かなくて構わないような意識の小ささで相槌あいづちを打った。


 かく言う彼の飛行艇レイチェルにも、その両翼に物騒きわまるガトリング砲が二門搭載されている。


 それだけの武装。四人こじんで運用するには文字通り手に余る程の火力を、どうして彼らは



「……僕らはの『第二席』だからね」


 呟きは風に乗って後方へ。



 明日みょうにちニュース記事の一面を飾る今回の騒動も、いま現在は野次馬の信憑性しんぴょうせいに欠ける伝聞だけ。報道機関はヘリを飛ばしたいがそれは自殺行為と解っている。むことのない爆炎と唸るエンジン音。そのに泡を食い、後手に回されながらも敷かれた【世界警察】の包囲網は時計塔を中心とした半径、実に5km。立ち見の客はそこまでで、内部のにいる人々は実況どころの場合ではない。


大強盗クローバー】〈OZ〉と、名乗られた彼ら以外にはまだ知られていない〈不思議の国ワンダーランド〉の、ひどくの決着は、ふたりのFPライダーの走空ランに懸かっている。


 ドロシーとアリス、どちらが先か。迷惑を度外視すればただの子どもの喧嘩だが、度外視できるほどその迷惑さは小さくないのが困りもの。



 /


 どこかの誰かが見上げた空を、撮って動画としてアップした。光の尾を引く二人の少女と、それに追従する赤い飛行艇と双子の少年二人。喧騒ついでにどかんどかんと物騒な音が入る動画ソレ流行バズりに流行バズり、遠く離れたどこかの場所で、の目に留まった。


 とはいえ今のに屋号は無い。その看板はだいたい二年前、まさしくこの事態をロンドンで引き起こしている連中に



 ぶれっぶれで画素も粗い動画を見て、第二席――


「……もう少し気合入れて撮ってくれないもんかねェ。観たいモノが豆粒くらいにしか撮れてないじゃあないか」


 なんて。


〈鉄と火薬の魔女〉セシリア=ウィッチ・デュンゼは、そっと愚痴をこぼした。


「払いがいいのはイイことだけどさ。ソレで採算取れてるのかい? カカシ」


 そう言い、今回の彼らの作戦につぎ込まれた武器弾薬の領収書を楽し気に指でつつきながら。さてどうなることやらと、の活躍を今は鮮度ばかりで質の悪い情報を茶請けにコーヒーブレイク。


 加担はしているが蚊帳の外。二年前にちまたを大いに賑わせたミリオンダラー第二席の入れ替えの後、二者の関係性がこうも穏やかかつ友好的である事実は、それこそ当事者以外知り得ない情報だった。



 ――決着の時は近い。だが結末は大方の予想よりも遥かに盛大に世の中を騒がせるのだが、さて。

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強盗童話―C’robber〈OZ〉― 冬春夏秋(とはるなつき) @natsukitoharu

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