第2話 神を殺し、竜を滅ぼす友達

俺は異世界で静かに暮らしている。


今日もいつもの様に、自宅でゆっくりと寛ぎながら本を読んで過ごしていた。


「…ふぅ。昼寝でもするか。」


本を読み終えて、少し眠気が襲ってきたので、俺はベッドに向かった。


いや〜、しかし最高だな。好きなことを好きな時にして、眠たくなったらすぐに寝る。


俺は、ついに理想の暮らしを手に入れ…


「ハルト君〜!いる〜?」


外から聞き慣れた声が聞こえた。


俺は当然の様に無視した。


すると、その声は次第に大きくなっていき、口調も徐々に荒々しいものに変わっていった。


「おら〜!!いるのわかっとるんやからなぁ〜!出て来んかったら承知せぇへんでぇ!ハルトォ!!」


ドアをドンドンと叩きながら、全然迫力の無い怒鳴り声が聞こえてきた。


俺はその声をずっと無視していたが、ドアの向こうの人間はいつまで経っても諦める気配がなかったので、仕方なく対応することにした。


ドアを開けるとそこにはアリシェがいた。彼女は、俺を見るなり慌てて正座をして、こちらを真っ直ぐに見た。


「…あの!ハルト君に頼みがあるのですが!」


「頼みがある奴の態度じゃなかっただろ、さっきの。めちゃくちゃ柄悪かったぞ。」


「そんなことないよ!一生のお願いをするつもりで来たよ!」


「いや、そんな相手に『出て来なかったら承知しない』とか言わないだろ!」


俺はそう言ってドアを閉めようとした。アリシェはそれを見るなり、すかさず大声で叫んだ。


「待って!閉めるな、バカ!…ちょっとだけ話聞いてくれない?ハルト君…」


「今、バカって言ったよな?仮にもこれから頼み事する相手に。」


「い、いや、言ってないよ?」とアリシェは明らかに動揺しながら否定していた。そんな彼女を呆れた表情で見ながら、はぁと溜息を吐いて俺は言った。


「一応、お前の一生のお願いが何なのか聞いといてやるよ。まぁ、何となく察しがつくけど…。アリシェ、今日は何で来たんだ?」


それを聞いたアリシェは、満面の笑みで堂々と答えた。


「ハルト君!一緒にダンジョンに行って欲しいんだけど!」


「嫌です。」


俺はそのままドアを閉めようとした。しかし、それを見たアリシェは閉めさせまいと両手で反対側のドアノブを引っ張った。


「…っ…おい!離せ!」


「嫌だ、離さないよ!お願いを聞いてくれるなら離してあげてもいいよ!」


「誰がお前なんかとダンジョンに行くか!大体、前に誘って来た時、これで最後にするって言ってただろ!」


「…!そんなこと言ったっけ?なら、今回で最後にするから!」


「信用できるわけないだろ!」


俺は、さらに力を込めてドアを閉めようとした。ドアはアリシェの抵抗虚しく徐々に閉まっていき、やがて完全に閉まり切った。


ドアが閉まった後も「こら!開けんかい!」とアリシェの怒鳴り声が聞こえて来たが、俺は無視してベッドに向かった。


ドアから離れるにつれ、アリシェの声が遠のいていく。このままベッドで彼女が諦めるのを待とう、そんなことを考えていた最中、彼女の口から気になる言葉が聞こえた。


「今日は、私だけからの誘いじゃないんだよ!私の友達からの誘いでもあるんだよ!」


俺はその言葉を聞いて立ち止まった。アリシェの友達が俺をダンジョンに誘ってるのか?


どうせ嘘だろうと思ったが、一応、彼女の話を聞くことにした。


俺はドアを開けて、彼女に尋ねた。


「念の為聞いとくけど、その友達って誰?」


アリシェは、ドアから顔を覗かせた俺を見て少し笑みを浮かべた。


「ハルト君の知らない人だよ!私がハルト君の話をしたら、是非ダンジョンについて来て欲しいって!」


「知らない人か。じゃあ断ってもいいな。」


「待った!でも、その人めちゃくちゃいい人でハルト君とも気が合うと思うよ!だから、助けてあげて欲しいんだけど…。」


非常に面倒臭い。アリシェだけならともかく、その友達からの誘いとなると凄く断りにくくなる。


まぁ、そんな友達が本当にいればだけど。


「お前、友達いたのか?」


俺がアリシェに聴くと、彼女は怒った口調で言ってきた。


「し、失礼な!いっぱいいるよ!…いや、いっぱいではないかもだけど、友達はいるよ!その人もそうだよ!」


あたふたしながら答えるアリシェに俺は質問を続けた。


「へー。じゃあ、その友達はどんな奴なんだ?」


「えーっとねぇ…。私と同じくらいか少し下くらいのレベルの人で、まだそんなに強くはないんだけど、仲間想いで、とても優しい人だよ!」


「そうか。その友達、名前はなんて言うんだ。」


「…えっと、な、名前は確か…えっとぉ〜…」


「なんだよ?友達の名前わからないのか?」


俺はドアを閉めるような仕草をした。


「ちょっと待って!お、思い出した!確か名前は…イ、イモータル…ゴッド…キリング…。」


「イモータル・ゴッドキリング…?」


なんだ、そのめちゃくちゃ強そうな名前は。咄嗟に考えたとしても酷いだろ。


「そんな名前の奴がお前より弱いわけないだろ!いい加減にしろ!」


「本当だよ!確かフルネームはそんな感じだったよ!私はイモさんって呼んでるけど!」


「嘘つけ!絶対いないだろ、そんな奴!イモータル・ゴッドキリングって直訳すると不滅の神殺しって意味だぞ!そんな名前の奴いるわけねぇだろ!あと、その人のことをイモさんって呼ぶのやめろ!なんか、イモってる奴みたいじゃねぇか!」


アリシェは、本当だよ!とプンプン怒りながら言ってきたが、俺は一切信じなかった。


「そんな奴が仮にいたとしても、お前と友達になんてならないだろ。なんか、1人で淡々と仕事こなしてそうだわ、イメージ的に。」


「いや、全然そんなことないよ!イモさんはギルドにも所属してるし、めっちゃフレンドリーな人だよ!」


「ギルド?なんて名前のギルドだよ?」


「えっと…確か、エ、エラディケイション・オブ・ドラゴンズって言うギルド!」


「めちゃくちゃ強そうなギルド入ってんじゃねぇか!」


俺はすかさずツッコミを入れた。


「そんな奴が俺を誘ってくるわけないだろ!そのギルド名、直訳するとドラゴンの根絶って意味だぞ!イモータルさん、神だけじゃ飽き足らず、ドラゴンまでいってんじゃねぇか!大体、ギルドに入ってるなら、俺とじゃなくてそこのメンバーと行けばいいじゃねぇか!」


「エラディケイション・オブ・ドラゴンズは、誰でも歓迎するエンジョイ系のギルドだよ!だから、みんな初心者ばっかでレベルの高い人はいないよ!」


「だったらそんなギルド名にするなよ!ややこしいわ!」


「私に言われても知らないよ!本当にそうなんだもん!」


俺は、もういいよと言わんばかりの呆れた表情でドアを閉めようとした。アリシェはそれをまた止めようとした。


「待ってよ〜!本当だよ〜!イモさんもハルト君に助けて欲しいって言ってたよ!」


「信じるわけないだろ、そんな作り話!もうちょっとマシな嘘あっただろ。」


「だって嘘じゃないんだもん!とにかく一度イモさんに会いってみてよ!彼女もハルト君に会いたがってるし…。」


「イモさんって女なのかよ!めちゃくちゃ男だと思ってたわ!」


「イモさんは女の子だよ!そんで持ってまだ14歳だよ!どう?興味湧いてきたでしょ!」


「14歳!?そんなわけないだろ!どう考えても嘘だろ!そんな奴がいるなら会ってみたいわ!」


俺は、アリシェをドアから引きはがし、無理矢理ドアを閉めた。


「ちょっと~!ハルト君~!」


はぁ、疲れた。このままベッドに行って寝よう。


俺は再びベッドに向かおうとした。すると、外からアリシェの声が聞こえてきた。


「あ!イモさん!来たんだ~!こっちこっち!」


イモさん…?まさか、イモさんが外にいるのか?いや、そんなわけない。だって、そんな人物はいないんだから。どうせ、アリシェが演技してるだけに決まってる。


「いや~、アリシェ殿!おいどん、待ちきれずに来てしまったでごわすよ~!」


なんだ…?アリシェじゃない別の人物の声が聞こえる…。この声の主がイモさんなのか?


「イモさ~ん、ハルト君が家から出てきてくれないんだよ~!なんか、イモさんのこと架空の人物だと思ってるみたいでさ~。何とか言ってやってよ~!」


「わちきが架空の人物…?がっはっは!ハルト殿は面白いでごわすね~!ハルト殿!聞こえておるか?わちきはおりますぞ!一緒にダンジョンに行きましょうぞ!」


面白いのはあんたの喋り方だよ。と思ったが、俺はそれを口には出さなかった。俺はドアの外にいる人物に返答した。


「…ほんとにイモさんですか?ってか、実在してたんですね…。あの…申し訳ないんですが、ちょっと忙しいのでダンジョンには行けないです。すいません。」


「ハルト君、さっきイモさんに会ってみたいって言ってたじゃん!とりあえず、ドアを開けてみたら?」


アリシェがそう言ってきた。


「いや、開けたらまた面倒だろうが!どうせ、アリシェの嘘だろ。イモさんなんて人物いないだろ!そうやって協力者に演技させて俺の興味を誘う作戦だろ!騙されるか!」


「も~!疑り深いんだから!嘘なわけないでしょ!」


アリシェは間をおいてから言った。


「そんな嫌われちゃうかもしれないこと、好きな人にするわけないじゃん!」


「…は?どういうことだよそれ?」


「ごめん!適当なこと言った!咄嗟だったし。…いいから出てきなって!」


…俺はゆっくりとドアを開けた。


すると、そこには笑顔のアリシェと少し身長の低い可愛らしい女の子がいた。その女の子は、俺を見るなりこちらに駆け寄ってきた。


「お~!ハルト殿!初めましてでごわす!わちきはイモータル・ゴッドキリングともうすでごわす!」


ほんとにいたのか…イモさんって。しかも、イメージとは全然違う。かわいらしい普通の女の子だ。


「…は、初めまして、ハルトです。」


「ハルト殿!一緒にダンジョンに行って欲しいでごわすよ!勿論、アリシェ殿も一緒にでごわす!さぁ、行きましょうぞ!」


そう言うとイモさんは、俺の手を引っ張った。14歳の女の子に手を引かれ、家を出た俺はアリシェの顔をチラっと見た。


アリシェは得意げな顔をして俺を見ていた。そんなアリシェに俺は言った。


「…なんだよ。その得意げな顔は。」


「ハルト君!なんか私に言うことない?」


俺は一度アリシェから目線を離したが、やがて再びアリシェの方を見て渋々言った。


「…ああ!わかったよ!疑って悪かったな!」


「わかればいいんだよ、わかれば!」


そういうとアリシェはニッコリと笑って、イモさんに手を引かれる俺についてきた。気分よさそうに歩くアリシェに俺は言った。


「嘘じゃなかったんだな。どうせまた嘘だと思ったよ。」


それを聞いたアリシェは微笑みながら俺の方を見て言った。


「ハルト君に嘘なんかつかないよ。今までのも全部本当だし!」


アリシェはそういうとまたニッコリと笑って俺の方を見た。それに目線を合わせて俺は言った。


「…アリシェ。…いや、結構嘘ついてるだろお前。」


「…ん?そうだったかもね!」


そう言うとアリシェは俺から目線を離し、遠くの空を見ていた。


そんな彼女の横顔を見て、俺は少し笑みを浮かべた。イモさんに手を引かれながら。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界でくらい静かに過ごさせてくれ! 正妻キドリ @prprperetto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ