異世界でくらい静かに過ごさせてくれ!
正妻キドリ
第1話 お前とダンジョンになんて行かねぇから!
俺は、異世界で静かに暮らしている。
異世界転生する前は高校生だった。高校では、勉強や学校行事、人間関係など、色々と面倒なことが沢山あった。
しかし、俺は異世界に転生して平穏過ぎる日常を手に入れた。
憧れのスローライフ。ああ、何と素晴らしい。
ついに、俺は静かな日々を手に入れ…
「ハルト君〜!いる〜?」
家の外から聞き慣れた声がした。
俺は、無視した。
ドンドンと、ドアを叩く音がした。
「ハルト君〜!いないの〜?」
次第に声も、ドアを叩く音も大きくなっていった。
「あ〜け〜て〜!!」
「うるせぇえええ!!」
俺は玄関まで全力疾走して、そのままの勢いでドアを開けた。
すると、ドアはガタン!!と大きな音を立てて、外の人間にぶつかった。
「ぐへぇえ!!」
なんとも無様な声を上げて、彼女は宙を舞った。それは、戦闘で敵の攻撃をモロにくらって、吹き飛ばされた時と同じ吹っ飛び方だった。
ドサッとその赤髪の少女は地面に倒れ、しばらくの間ピクリとも動かなかった。
俺は、それを見てドアを閉めようとした。
すると、「待てぇ〜ぃ!!」という叫び声と共に彼女は起き上がった。
「ちょっとは心配しろ!!てか、ハルト君いるじゃん!返事してよ!」
俺は、閉めかけたドアをちょっとだけ開いてから言った。
「なんで、騒音女に返事を返さなきゃいけないんだよ。居留守使ったんだから空気読め、アリシェ。」
彼女の名前は、アリシェ・ビブラニカ。同じ町に住んでいる、同じ年の女。そして、冒険者。
冒険者というのは、ダンジョンに挑む人のことを言う。彼女も、よくダンジョンに出かけるのだが、毎度のことのように俺を誘ってくる。
「ねぇ!今度、この遺跡に出かけようよ!ほら、聞いたことあるでしょ!あの何人ものベテラン冒険者が帰ってこなくなったって言われてるとこ。あそこなんだけど!」
俺は、ドアから少しだけ顔を出して答えた。
「いかねーよ!毎回言ってるだろ、俺のことを誘うのはやめろって。」
「ん?そうだったっけ?じゃあ、今回一緒に行ってくれたら、次からは誘わないようにするよ!約束する!」
「それ毎回言ってるし、その約束が果たされたこと一度もないだろ!とにかく、絶対行かないからな!」
俺は、バタン!!とドアを閉めた。そのままさっきまで座っていた椅子まで歩いていき、再び腰かけた。
ふぅ、これでまた静かな時間が戻ってきた。
よーし、のんびりと本でも読むとす…
ドアの向こうから、ぐすんと涙ぐむ声が聞こえてきた。
俺は無視した。
すると、その声は次第に大きくなっていった。
ぐすんぐすん、ずぴー!と泣きながら鼻水をかむ音が聞こえてきた。
俺は、頭を搔きながらドアまで歩いていって、そのまま静かにドアを開けた。
そこには、こちらに背を向けて三角座りをしているアリシェがいた。アリシェは、俺がドアを開けた後も泣き続けていた。いや正しくは、泣く演技を続けてた、だが。
アリシェは、しばらくこちらに気づいていないフリをしていたが、やがてわざとらしくリアクションをとって、こちらに気づいたふりをした。
「ハ、ハルト君!?イ、イツノマニ!?」
「噓泣きしても意味ないぞ。」
「な、なんでばれたの!?」
「わからない奴いないだろ!逆になんでバレないと思ったんだ!」
思わずドアから身を乗り出してツッコんだ俺に、アリシェは飛びついてきた。
「ダンジョンに行こう!今のは嘘泣きだったけど、次は本気で泣いちゃうかもよ~!」
「勝手に泣けよ!っていうか、泣きたいのはこっちなんだけど!いっつも平穏を邪魔されて!毎回、お前のダンジョン探索に付き合うのどんだけ大変だと思ってんだよ!」
アリシェは、いつも自分のレベルより遥かに適正レベルが高いダンジョンを毎回選んでくる。俺はそれにいつも付き合わされる。なぜなら…
「な~に言ってんの!ハルト君のレベルなら私のお供くらい楽勝でしょ!」
俺のレベルがアリシェのレベルより遥かに高いからである。
アリシェは、俺のレベルが高いのをいいことに俺をお供につけて、毎回、難度の高いダンジョンの奥へ奥へと突き進んでいく。
そして彼女は、毎回命の危険にさらされる。俺はそれを命がけで助ける。
それが途方もなく疲れる。やってられるか!
俺は彼女を突っぱねて言った。
「楽勝じゃねぇ!とにかくもう帰れ!また、家の外でうるさくしたらタダじゃ済まないからな!」
そういって再びドアを閉めた。
そして俺は再び椅子に座った。
よーし、今度こそ邪魔者はいなくなった。
これでリラックスした時間を…
ドアの向こうからぐえぇっ…という声が聞こえてきた。
もちろん俺は無視した。
すると、例のごとくその声は次第に大きくなっていった。
ぐえぇっ!し、しぬぅ~!!と苦しむ声が聞こえた。
俺は静かにドアを開けた。
そこにはうつ伏せになってうめき声をあげているアリシェがいた。アリシェはこちらに気づくとこちらに手を伸ばして助けを求めるフリをした。
そんな彼女を見て俺は言った。
「一応、聞いといてやる。今、どういう状況だ?」
アリシェは苦しそうな演技をしながら答えた。
「持病が発症した~…ヤバい~しぬぅ~…ハ、ハルト君がダンジョンに付いて来てくれれば治るかもしれない~…」
「それ、上手くいくと思うか?」
「うぅ~…あまり思わないかもしれない~…」
「上手くいくと思わないんならやるんじゃねぇ!もうほんとに帰ってくれ!次、俺の邪魔したら許さねぇからな!」
俺はまたドアを閉めた。
はぁ…疲れた。
俺は、再び椅子に座った。そして本を読み始めた。
しかし、しばらくは本に集中できなかった。外の音に注意を向けていた。
とても静かだった。流石にもう帰ったか。
ふーぅ。やっと、静かな時間が戻ってきた。すごく長い戦いだった。ダンジョン行くよりも疲れたんじゃないか?
俺は本に目をやった。
これで集中して本を読め…
ふと、窓が気になり目をやった。
そこには窓越しにこちらを覗くアリシャがいた。
アリシャは、こちらを微笑みながら見ていた。
俺は、それをジトっとした目で睨んだ。
また何か企んでるのか?
しばらく、俺とアリシェは窓越しに見つめ合っていた。
そして少しの時間が経った後、アリシェは唐突に俺から自分の手元へと目線を変え、何やらごそごそとしだした。
一体何やってるんだ?そう思ってアリシェのことを見ていると、彼女は再びこちらに目線をやり、一枚の紙を手で持って俺に見せてきた。
紙には文字が書かれていた。
『今度また誘うよ!行ってきます!』
彼女はその紙を俺に見せた後どこかへ行ってしまった。
また懲りずに誘いに来るのか。めんどくさいなぁ。
行ってきますはたぶんダンジョンに、ってことだろう。
ったく、俺なしで行けるんなら最初からそうしてくれよ。無駄な労力を使わせないで欲しい。
あいつと一緒にいると本当に疲れる。ずっとうるさいし、強引だし、わがままだし。おまけに、弱いくせに危険なところに行くから毎回助けてやらないといけない。
「そんな奴とまたダンジョンに行けって?冗談じゃない。」
俺はそう呟いてから本を置き、ドアに向かった。
外では、アリシャが待っていた。
「お、来てくれたんだ~!」
こちらを見て微笑んでいる彼女に俺は言った。
「お前一人で高難易度のダンジョンになんて行かせられないだろ。俺も行くよ。とてつもなく不本意だけど。いいか?これが最後だからな。もう誘ってこないでくれよ。」
それを聞いて彼女は、笑いながら言った。
「最後?いや~それはちょっとキツイかもね~。たぶん、私またハルト君のこと誘うし!」
アリシャはそういって歩き出した。
「お前なぁ…」と俺が呆れていると彼女は振り返って言った。
「だって、ハルト君と冒険するの楽しいもん!」
唐突な彼女の言葉に戸惑ってしまった。彼女は、そんな俺を見て聞いてきた。
「なんでハルト君は私についてきてくれたの?」
優しく微笑んでいる彼女に、俺は少し間をおいてから答えた。
「たぶん、俺も同じ理由だよ。」
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