66話 ゴールデンレコード
いつからだろう、自分という存在を認識したのは。
思えば一番最初はこんな出来事だった気がする。
いつものように学校から家に帰ってゲームをしていると母親がキッチンから僕に声を掛ける
「彩人~。お風呂の掃除を先に済ませてからゲームしなさいね」
「うん。分かってるって! 今からやるよ」
僕はゲームをやめて立ち上がりお風呂の掃除をする。
スポンジに水を滲みこませて風呂の側面を擦る。
「あー、早く終わらせないと。ゲーム早くやりたいし……」
僕は手早く済ませる為腕を大きく動かす。
もし僕以外の人間がやってくれたら楽なのにな……
そう思うと急に意識がふわっとして、体がチーズの様に割けるような感覚がした。
「ふーむ、効率が非常に悪いですな!」
「えっ、誰? というか僕の口が勝手に動いた?」
僕は急に自分の口から思ってもいない言葉が出て驚いた。
すると、目の前に僕と同じ格好の男の子? というより僕がいた。
僕はびっくりして後ろに滑り、尻餅をついた。
「うわっ! 僕だ! なんだこれ!」
「ふふふっ。驚いているようだな、我が半身よ!」
「幽霊? でも僕は生きてるし……」
「幽霊ではないが貴殿にしか見えない存在。我は貴殿の生み出した幻影である!」
目の前に現れた僕の姿をした子は不敵な笑みを浮かべている。
僕は恐怖は無く、自分の中に隠された力がある事に興奮していた。
「もしかして、僕が誰かかわりにやって欲しいって思ったから生まれたのかな! それならさ、僕の代わりにお風呂掃除とかできる?」
「我が存在意義は、貴殿の望みをかなえる事! お風呂掃除は特技故、我にまかせたまえ! はああああ」
「うわっ! 僕の体が勝手に動く! 何これ、これ面白い!」
さっきまで目の前にいたもう一人の僕が体に入り込む。
僕はもう一人の自分に体を預ける感覚を楽しんだ。すると、みるみるうちにお風呂掃除が終わった。
「ふむ、我に掛かればこの程度瞬殺! ハッハハハ!」
「うわっ、もう終わったよ。ありがとう僕? って言うのは少しおかしいかな。でも体は僕だし……」
僕は自分の中にある幽霊をどう呼ぶか悩んだ。
「我が半身よ。我は貴殿であり貴殿の能力でもある。確かに同じ名を名乗るのは不便であるな。ならば我に名をくれまいか?」
「名前か……そうだ。お風呂場で生まれたから風呂魔人とかどう?」
「風呂魔人、安直な名前だが悪くない。我は風呂掃除最強の魔人! 風呂魔人である!」
「いいね! これから毎日頼むよ」
「うむ、任せたまえ主殿!」
僕は風呂場で自分の幻影と話していると母親が声を掛けてきた。
「彩人~誰と話してるの? あら、誰もいないのね。まあいいわ、お風呂掃除終わったらご飯の前に宿題を終わらせるのよ。お母さんちょっと買い物に行ってくるから留守番もお願いね」
「うん、分かったよ! 我に任せたまえ!」
「ふふっ、演劇の練習かしら、楽しそうね。じゃあ出かけてくるからね」
そう言ってお母さんは僕を少し不思議に思うも笑って出かけて行った。
僕くは少し焦って分身の風呂魔人に話しかけた。
「なあ風呂魔人、今のは僕に言ったんだ」
「しかし、我は彩人殿の半身、故にそう申されても区別がつかないのである!」
「確かにそうだね。それにこうやって話してるのも独り言にしか見えないだろうし、どうにかならないかな?」
「それなら(こうしてみてはどうだろうか?)」
「おお! (頭の中で会話できるんだ。いいねこれは使えるよ)」
僕は脳内で風呂魔人と会話する技を覚えた。これならお母さんに変に思われる心配もなさそうだ。
僕は部屋に戻って鞄から宿題のプリントを出した。
「あー早くゲームやりたいのに面倒くさいな。そうだ風呂魔人は勉強できる?」
「(我は彩人殿の半身、風呂掃除に特化してる為それ以外は彩人殿と変わらぬな! ハハハッ!」
「そうか、ならもう一人勉強に特化した奴を作ってそいつにやって貰おう!」
「(それは名案ですな!)」
「よし、とりあえずもう一人の自分をイメージして……」
僕は勉強が出来そうな奴を想像して、そいつが僕の代わりに宿題をやる事を想像する。
すると徐々に視界に、眼鏡をかけた僕が出てきた。
「うわ、頭良さそうだ」
「(そうですな! 眼鏡がそう見せるのですな! ハハハッ!)」
「彩人と風呂魔人ですか、私は学問を得意とすることを求められる存在。彩人、私にも名前をください」
「名前か……勉強が出来る僕、ガリベンシュタインとか?」
「私は名前にこだわりが無いですが、長いですね。風呂魔人も長いですし、3文字でアヤトに近い名前の方が後々楽では?」
「じゃあ早めに作った幻影だし、ハヤトでいい?」
「ではハヤトと名乗ります。(私も通常は脳内で話しましょう。現状の学問に対する能力値に差異は無いですが時間経過と共に成長は出来ると思います)」
「そうだね期待してるよ、とりあえず宿題終わらせておいて。あーでもその間体が動かせないからゲーム出来ないんだった」
僕は体をハヤトに預けてる間は暇だった。勉強する自分を風呂魔人と一緒に俯瞰する様に眺める。
自分の体が勝手に動いて勉強する姿は少し新鮮だった。
「(彩人殿、先ほど気づいたのですが、肉体を操作する者に体の管理権限を一時的に預けた方が良いのでは?)」
「(別に勝手に動かせばいいでしょ? どれも僕なんだし)」
「(ですが、先ほどの母上の対応の時、反射して口が意図せず動いてしまうのは良くないのでは?)」
「(確かにそうだね。それならさ、体を操作する時は椅子に座るっていうのはどう?)」
僕はそう言って脳内に小さな部屋を作り木で出来た椅子を置いた。
「(ここに座ってる者に肉体の操作権限を与えるルールにしよう! これで解決!)」
「(おお! 流石ですな彩人殿! これで混乱せずに済みますな! ハッハハハ!)」
僕は風呂魔人と脳内に作った空間に入り込む。そこの椅子にハヤトを座らせて僕たちはそこからハヤトから見た外を見るようになった。
こうして僕は脳内の幻影を上手く使う日々を送った。
【てんまぞ】浅井アヤト容赦なし!この俺様が勇者を全員ぶっ殺して魔王になりハーレムを作る! BコードはFコードより難しい @mannbou01
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