メモリィ・スウィート

水定ゆう

過去と未来と今の狭間

 この世界は歪だ。

 誰もが当たり前のようにそのことに気づくことはなく一生を終える。そんな不安定な世界で、私はそのことに気がついていた。


「この世界は……どこでもない」


 ある日突然えた景色。まるで日記のように綴られていたのは、この世界の在り方。この世界の存在と、それ以外のもの。

 それはこの世界と全く同じで、高層ビル群が立ち並んでいた。

 しかし何処か違う。何が違うのか、それは目に見えて明らかだった。


「ガラスの破片……」


 私が手にしたのはガラスの破片・・・ではなく、この世界の一部だった。

 この世界は壊れ始めている。

 つまりこの世界は何処にもない。何処にもあっては行けない世界なんだ。


「でも、如何して私にだけ……」


 それが視えているのか。それが分かっているのか。それに触れられるのか。

 この世界はやはり歪で、過去にも未来にも行けず、ただただそこに滞留して、停滞し、いつか滅びる。にも拘らず今を生き続けている。

 そんな不可解な世界の寿命と、人の生きようとする本能。それらが私には昔から肌に合わなかった。


「昔?」


 その瞬間、何か引っかかった。

 この世界で生きてきて早17年。私はこの世界の真実に気づき、そしてそこにはないはずな“過去”に触れようとしていた。


「確かめたい。私が何で、何処にいて、如何してここにいるのか」


 その瞬間、私の視界が軋みだす。


「確かめないと。駄目なんだ」


 パリッ!

 甲高い音を立てて、世界が割れ出す。

 砕けた破片が目の絵で消え去り、奥の空洞が暗闇のように迫る。


「私はここにいてはいけない。この世界から、この世界には……いちゃいけないんだ!」


 私は飛び出した。

 タワーの階段。そこから砕けて丸見えになった闇の中に。私は何処に行くのだろうか。如何なってしまうのだろうか。今はまだ、何もわからない。

 だけど一つだけわかることがある。

 それは・・・


「今を超える。この狭間を越える。私は……ここにはいない!」


 

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メモリィ・スウィート 水定ゆう @mizusadayou

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