夢日記さえあれば、イケメン王子様たちは私のモノぉ〜!
宇枝一夫
異世界に何か一つ持っていくとしたら?
― ワクチン接種会場 ―
「はい、チクッとしますよ」
"チクッ!"
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
世界中を席巻している《ゴロゴロウイルス》のワクチンをうった私、
「あ~終わった終わった。変な副反応が出なければいいけどなぁ~。まぁいいか、調子悪ければ堂々と会社休めるし、ウイルスの名の通り“ゴロゴロ”できるし……」
― 夕食後 ―
「一応解熱剤飲んでおくかぁ~」
― その夜 ―
体のだるさを感じた私はベッドに倒れ込んだ。
「あ~しんどい。てか薬飲んだのになんでぇ~……もう体が動かない……。ワクチンうって亡くなった人がいるって噂もあるし……」
そして寒気を感じ、体が震えてきた。
「……寒いよ……もう春なのに……。さびしい……。私……このまま……死んじゃうのかな……」
脳裏に浮かぶのは両親でも友人でもなく、二次元アイドルグループ、《プリズム・プリンス》のメンバーの方々だった……。
最後の力を振り絞り、天井に貼られたポスターを目に焼き付けた。
(リーダーで天然系の《
(陽気な《
(俺様系の《
(ショタの《
(クールな《
(癒やし系の《
(知的な《
(私を……仁木三佳を……助けて……)
そして私は、深い眠りへと堕ちていった……。
― ※ ―
何もない……虚無の空間……。
そこに……私はいた……。
立っているのか……寝ているのかわからない……。
やがて、七色の光があたりを満たすと、真っ白な衣を羽織った美しい女性が現れた。
(まさか……女神……様?)
『仁木三佳よ……残念ながら貴女は死んでしまいました……』
優しい声が聞こえてきた。
(ああ……やっぱり……)
『ですが、貴女は異世界にて新たな人生を歩むことができます……』
(そうか……これが……異世界転生ってやつなのか……)
『何も身につけず異世界へ旅立つのは
(何か一つか……何がいいかな……スマホは……使えないだろうし……プリズム・プリンス様のグッズも……多すぎて……どれか一つに……選べないし……)
何かを思い出すと……魂に雷が落ちた!
(夢日記! プリズム・プリンス様との”デュフフ”で”グヘヘ”なイタイ妄想、破廉恥欲望丸出しの私の日記ぃ! あれを誰かに見られたら……しめやかなお葬式で笑いのビッグバンが爆発してしまう~!)
「わ、私の恥じゅかしぃ~ひゅ、夢日記をぉ~!」
ちょっとかんだ。
『わ、わかりました。それでは仁木三佳。貴女の新たなる人生に幸あらんことぉ~』
私の魂は再び堕ちていった……。
― ※ ―
空を飛んでいるような浮遊感。
それが止まると、素敵な声が聞こえてきた……。
クレナイ第一王子
「お嬢さん。だいじょうぶですかぁ~?(耳元で呼びかけ)」
ダイダイ第二王子
「(私のアゴに指を当て)ほう、なかなか素敵な寝顔だね」
オウド第三王子
「ふん! (上から目線)プリズン国第三王子の我の呼びかけにも応じないとは、無礼な女だ」
ワカクサ第四王子
「(草をフリフリ)起きないならぁ~、この草でお鼻をくすぐっちゃうぞぉ~」
グンジョウ第五王子
「けっ! せっかくのお茶会を邪魔した女なんぞ捨て置け(プイッ!)」
アイゼン第六王子
「(なだめなだめ)まぁまぁ。美しい女性の寝顔を眺めながらのお茶も
スミレ第七王子
「しかし(眼鏡クイッ!)、庭園の結界を破って空から降ってくるとは……。どうもただの女性ではないですね。ん? 何か本を持っていますね。魔導書……でしょうか?」
目を覚ました私の瞳に映るのは……赤、橙、黄色、緑、青、藍、紫のチュニックを召した……プリズム・プリンスの……方々でしたぁ~~!
ちなみに私の格好は素っ裸……ではなく、メイドのような白いカチューシャに白のエプロン、そして黒色のドレスだった。
そして手に持つのは、欲望妄想丸出しの夢日記帳!
ここはプリズム王国の王宮の庭園。そして目の前にいらっしゃるのはプリズム王国の七人のイケメン王子! きゃぁ~~!
そして私は……お茶会をしている王子様の真上に落ちたのでした……ごめんなさい。
幸いにもテーブルに直撃せず、しかもゆっくり落ちてきたみたいだから、十四本の腕に受け止められたみたい……きゃああぁぁ~!
あれ? プリズム王国……七人の王子様……そして私のメイド姿……。
これって、私の夢日記の設定じゃないかぁ~!?
も、もしかしたら、このままプリズム・プリンス様と……ひゃっはぁ~!
あひゃ! あひゃひゃひゃひゃ!
ぜぇ~ぜぇ~。お、落ち着け……ヨダレを拭け……じゅるり。
と、とりあえず、そうと決まったわけではない。
ここは流れに身を任せてみるか……。
そして夢日記の設定通り、私は七人の王子様付きのメイド、《ミカ》としてお屋敷で働くこととなった。
ちなみにお屋敷には男性の
これは男性向けハーレム漫画やゲームと同じように、主人公以外の同性を登場させないという公式設定に基づいている為なのだが、これはこれでBL妄想を捗らせるおかずにもにもなった。じゅるり……。
とはいえ、面白くないのは貴族の令嬢たち。
今までは王子様の周りに女性がいなかったから、互いに牽制していればよかったが、そこへ私が現れて、至近距離で王子様たちの世話をしている。
身分の違いがあれど、過ちや気の迷いで私と結ばれ世継ぎが生まれたら……きゃあぁぁ~!
バッチコ~イ! 私はいつでもオールウェルカムよぉ!!
しかし、そううまく事は運ばない。
令嬢たちは、何かにつけて私にちょっかいを出してきた。
なるほど、こいつらが乙女向け小説、漫画、アニメでおなじみの悪役令嬢って奴らか……。
ちなみに王子様たちを狙っている貴族の令嬢は数多くいれど、各王子を一番推しているのがそれぞれ一人いる。
ホストクラブでいうところ、女性客の《トップ》みたいなものね。
つまり私は七人の悪役令嬢に狙われているのだ。
しかぁ~し、夢日記にはそんなこと折り込み済みよぉ!
― ROUND 1 悪役令嬢Aとの紅茶対決! ―
モニターに映し出されたプリンス達の壁紙を前にして、一人お茶会(涙)した腕を見せてやる!
クレナイ王子
「うん、やっぱりミカの入れたお茶が美味しいね」
― ROUND 2 悪役令嬢Bとの料理対決! ―
アラサー乙女の創作料理(涙)を舐めるなぁ~!
ダイダイ王子
「ミカの料理を食べると、心がウキウキするな」
― ROUND 3 悪役令嬢Cとのフェンシング対決! ―
VRゴーグルを被って、MMORPGのソロプレイ(涙)で鍛えた腕を見せてやる!
オウド王子
「ほほぅ~、てっきりミカが負けると思っておったが、少しは見直してやるか」
― ROUND 4 悪役令嬢Dとのジェンガ対決! ―
一人ジェンガ(涙)以下略……。
ワカクサ王子
「はい! ミカの勝ちぃ~!」
― ROUND 5 悪役令嬢Eとの宴会芸対決! ―
アラサー乙女に、恥も外聞もなぁ~い(涙)!
グンジョウ王子
「ハハハッ! まさかクールで通っているこの俺様が、ミカの芸で笑うとはなぁ!」
― ROUND 6 悪役令嬢Fとのダンス対決 ―
仕事帰りに、一人でプリズム・プリンス様のダンスゲーで鍛えたステップ(涙)以下略……。
アイゼン王子
「ミカとのダンスは素敵だよ。まるで空を飛んでいるみたいだ!」
― ROUND 7 悪役令嬢Gとの魔術対決 ―
乙女はアラサーになると、魔法が(涙)以下略……。
スミレ王子
「こんな術式は初めて見た。ミカ、いや、師匠! ぜひ私に教えてください!」
こうして並み居る悪役令嬢共を蹴散らし、王様であらせられるお義父様、お妃様であるお義母様にも気に入られ、七人の王子様の寵愛を一身に受けられる身となったのでぇ~す!
……そして初夜が訪れる。
身支度を終えた私は、薄着を羽織り、アパートの部屋よりも大きいベッドへ向かう。
そしてベッドの上には、ガウンを羽織ったり、筋肉美を見せつけている七人の王子様がががが!
ああ、お父さん、お母さん。
孫の顔をお見せできないのが残念ですが、三佳は異世界で幸せになります。
横たわる私に向けて、七つの唇が……。
あれ?
みんな……止まっている?
ああ!? もしや!?
慌てて夢日記を開くと、そう、そこから先のことが書いてなぁい!!
ぬかったぁ!
い、いや、妄想して書くより先に、一人で“シテ”しまって、なかなか書くことができなかったのだ! てへっ!
今からでも遅くない。
続きを……ペンはどこだ?
あった! ベッド台の上!
手を伸ばして……とどかない。
うわぁ! 落ちる!
”ドッシ~ン!”
― ※ ―
……あれ? ここは……?
プリズム・プリンス様のポスターが所狭しと貼られた、見慣れた天井……。
背中に感じる、絨毯の感触……。
……カーテンから差し込む朝日がまぶしい。
……夢か。
「はい、ワクチンうったら熱が出て……」
会社への電話が終わると再びベッドに横になり、夢日記を開く。
「チェ……少しでもなんか書いておけばよかったなぁ……」
暇だからネットでワクチンの副反応を調べてみると、あるワクチンとある解熱剤を組み合わせると、トリップできると、まことしやかに書かれていた。
もしかしたら……このせいかな?
― 数ヶ月後 ―
二回目のワクチンのお知らせがきたぁぁぁぁ!!
しかも同じワクチン!
買い出し備蓄よし!
同じ解熱剤よし!
そして……夢日記は……デュフフフ!
”あ~んなこと”や”こ~んなこと”まで満載よぉ!!
そして当日!
いざゆかん! 接種会場へ!!
王子様たち! 今度こそ寝かせないわよぉ!!
― 完 ―
夢日記さえあれば、イケメン王子様たちは私のモノぉ〜! 宇枝一夫 @kazuoueda
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