4話 春ヶ瀬さんと勉強する話

「こんにちは、夕陽くん。今日も元気そうだね。」

「…元気そうに見えますか?」

「いつもより表情豊かだし、ちゃんと返事してくれたし。」

「なるほど。」


自分でも全く気づかなかった。

自分自身でも気づかないほどの変化に目敏く気づける春ヶ瀬さんはいつもどれだけ僕のことを見ているんだろうか。


「今日は夕陽くんに話があります。」

「なんですか。」

「一緒に勉強しよう!勉強会しよう!」

「…春ヶ瀬さん僕より成績いいじゃないですか。」

「だからだよ、夕陽くんの為に私が特別に勉強みてあげよう。」

「あ、家でじゃないよ?なんか期待させちゃった?」

「してないです、早く図書室行きましょう。」


本当になんだ、この人。

変に意識させてくるのはやめてほしい。

…少しあらぬ事を考えてしまって恥ずかしい。春ヶ瀬さんのせいだ。



「死んでからこの人を亡くすのは惜しかった、って言われるの嫌だよね。」

「…どうしたんですか、急に。」

「なんというか、切ないなって。」


歴史上の人間にそんな事を言ってもどうしようもないと思う。

もっとも、春ヶ瀬さんにそんな事は関係ないのかもしれないけど。


「夕陽くんが死んだら、色んな人が言い出すかもよ。日記の文章がなんかエモくてよかった、絵が上手かった、お気に入りの菓子パンを食べる時ちょっと表情がかわいかった。」

「全部ただの春ヶ瀬さんの感想じゃないですか、かなり、色々気になるところもありますけど。」

「それか、…実は夕陽くんの事好きだったのにー…とかね。」

「…ある訳ないですよ。」

「なんで、そう思うの?」

「人に好かれるような性格をしてないので。」

「私は好きだよ、夕陽くんの性格。」


わざとらしく間をあけて話す。

きっと、わざとこんな言い方をしている。


「はは、冗談はやめてください。」

「本気だよ!もー、もうちょっといい反応ができないのか、君は。」

「今日は勉強しに来たんですよ、せっかくなんでちゃんと勉強しましょう。」

「はぐらかしたね、照れてるくせに。」

「静かにしてください。」


春ヶ瀬さんはしぶしぶペンを手に取って、僕に勉強を教えてくれた。

驚くほど教えるのは上手かった。


「えへへ、私教えるの上手いかも。」

「…自分で言っちゃうんですか。」

「ほんとのことでしょ、どうだった?色々わかった?」

「教えてくれて、ありがとうございます。割と理解できました。」

「素直だね、珍しい。」

「感謝はちゃんと伝えるべきでしょう。」

「そうだね、いっぱい感謝したまえ。」


うれしそうな顔で春ヶ瀬さんは笑った。

素直に褒められたことが嬉しかったのか、春ヶ瀬さんはその後もずっと上機嫌だった。


「また分からないことがあったら聞いてくれてもいいよ。私、教えるの上手だからね。」

「分かりましたから。今日はありがとうございました。」

「ふふ、全然いいんだよ。またね。」


いつもの含みのありそうな笑みで、春ヶ瀬さんは歩いていった。

また、こんな日があれば。

そんな風に考えてしまうのは僕が期待してしまっているのからなのか。

また、じんわりと頬が熱くなった。




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死にたい僕と死ねない君のくだらない話を聞いてくれ urara @menme2121

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