邪神ちゃん 分からせられる 2

「邪神ちゃん、よくみたら良い耳の形してますのね」

「近い、近いぞメーラ」

 

 今、私はメーラににじり寄られ、耳をしげしげと観察されていた。

 これにはさすがの私も恥ずかしさを感じる。

 

「ぷにぷにしててよさそうですわね……。えいっ」

「ひゃぁんっ」

 

 ……急に触られて変な声が出た。そう、急だったからだ。

 おかしいな、普段肌に触れられようともこのような感覚はなかったというのに。

 そんな私の奇妙な声を聞いたメーラの顔がにやりと歪む。

 うむ、これは絶対に変な事を考えている顔だな。

 

「サラ、邪神ちゃんは耳が弱いのですか?」

「普段耳かきしてますけど、特にそんな様子はなかったですよ」

「あら、お熱いですわね」

 

 サラもあっさりとそういうことをバラすんじゃない。いや、彼女の耳かきは至高なのだ。自分では味わえぬ手際の良さと心地よさ。

 それを堪能しているのであって、批難される謂れはないはずだ。

 

「でも、今……えいっ」

「ふぅんっ」

 

 再び変な声が出たではないか。

 なんだ? 耳を触られた程度でぴりぴりとするこの感覚は。

 私の頭に疑問符がいくつも浮かぶ。今までこのようなことはなかったはずだ。

 なぜ急に──

 そこまで考えたところで先ほどの審判神の『神罰』と言う言葉に思い至る。

 あやつ、この身体に何かしでかしていったな?

 

『しでかしてない。今まで抑制されていたその肉体の感覚機能をほんのちょっと弄っただけ。ほんの五倍くらい? これは神罰である』

 

 いらん時にいらん情報だけ寄越してくるのはあの駄女神ゆずりなのか?

 しかも五倍とは厄介な話だ。今この状態で攻撃を受ければ、少々の傷ですら身動きが取れなくなるやもしれぬ。

 

「あーむっ」

「ひんっ」

 

 唐突に走った感覚に、思考が引き戻される。見れば、耳にメーラが齧り付いていた。

 痺れた足をつつかれたようなくすぐったさともどかしさが相まった感覚。それが全身を襲う。

 

「メーラさん、ちょっとはしたないのでは?」

「いえ、でもあのお気持ちはわからなくも……」 

 

 周囲の人間が何やら囃し立てているが、もはやそれも耳に入らない。

 思わず耳を覆うが、それを見るとメーラはどこか妖艶な笑みを浮かべた。

 

「邪神ともおわす方が耳を噛まれた程度でそんなふにゃふにゃでよろしいのですの?」

 

 両手を掴まれ、そのまま床に引き倒される。

 確かに彼女が言う通り、私には抵抗する力がなかった。

 いや、ないわけではないのだが、力が入らなかったのだ。

 腰から下もどこか自分ではないような感覚になり、足も覚束ない。

 今の私は無様にも同じような背格好の女子に組み敷かれたような格好になってしまっていた。

 

「あら、そんな風に大人しくしていらしたら、きちんと女の子ですのに」

「私は邪神だ……!」

「あの、ほどほどに……」

「いーえ、サラ。邪神ちゃんには一度分かっていただかねばなりませんの。これは試練ですわ」

 

 メーラが止めに入ってくれたサラを目力だけで退かせる。

 その間も私はなんとか抜け出そうともがくが、うまく身体が動かない。

 それどころか服が至るところに擦れてピリピリとした痺れを感じさせてくる。

 

「よーし、落ち着くのだメーラ。お前の言うことはわかった。わかったからな?」

「いいえ、今日こそはか・ら・だで理解していただきますわ」

 

 最早嫌な予感しかしない。こやつ、かわいい顔をしてなかなか嗜虐的な性格も持ち合わせておったか。

 メーラの顔が近づいてくる。

 私は襲い来るであろう感覚に備えて、身をこわばらせた。

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邪神ちゃん 邪神さんに 転生す @Yahazu

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