邪神ちゃん 分からせられる 1

「第三回邪神ちゃん会議〜」

「なぜ私は一人床に座らせられてるのだ……」

 

 日頃仲の良いメーラが仕切る中、謎の会合が幕を開けた。

 夜、サラに連れ出されたと思ったらこれだ。しかも周りの女子は皆ベッドに座ったりしているのに、私だけが床だ。

 まるでなにかの裁判のようにも思える。

 

「アルカちゃん、ガード緩すぎだと思うの……」

「そうですわ。男子からはチョロそうだの、ワンチャンありそうだの言われてますもの」

 

 口火を切ったのはサラとメーラだ。他の女子連中もそれに合わせて私を批難する。

 

「今だって、座り方が胡座ですし」

「それの何が悪いと言うのだ?」

「もう少しお淑やかになさいませ!」

 

 よくわからぬがこの座り方は彼女らの怒りに触れるものらしい。

 がりがりと頭を掻いて思考を巡らせるが、他の座り方なぞ思いつかぬ。

 

「ならば私もそちらの座らせてくれればよいではないか」

「いーえ、今日こそは反省していただきますわ。邪神ちゃん、あなた先日まーた肌を晒しましたね?」

 

 先日とはあの猿との一件だろうか。だがあれは致し方なかろう。そうせねばサラが危うかったのだ。

 

「私を助けてくれたのは嬉しかったけど……。それでアルカちゃんが傷つくのは違うと思うの……」

「私は特に傷ついてはおらぬぞ? あやつの蹴りなぞ──」

「そうではなく、貴方の裸体が衆目に晒されたことをサラは悔いているのですわ!」

 

 裸体なぞ見たところ何も得なぞないだろう。せいぜい武器の有無を確認できるぐらいだ。

 

「衆目といってもあのバカ三人衆のみだろう。別にあの程度なんの痛痒でもない」

「貴方が、じゃなくてサラが悩んでおりますの! お友達ならば少しは汲み取りなさいませ!」

「む……」

「それに普段からの立ち振る舞いですわ。足を広げたまま座る! スカートのまま立ち回る! 男子への不用意な接触! 私何度も注意いたしましたわ!」

 

 メーラの目がきっと細まる。彼女は貴族の生まれだ。だからこそこういう私の行動が目に余るのだろう。

 

「とは言ってもだな。私は元々邪神であって、中身としては男であってだな……」

 

有罪ギルティ

 

 そこまで弁解したところで頭に声が響く。

 か細くも力強い声、これは……

 

『審判神か、何用だ』

『審判神テウタナムナの名に於いて審判します。汝、有罪ギルティである』

 

 こやつが表に出てくるなど珍しい。

 しかし、いきなり出てきて人を罪人扱いとは何事だ。

 

『罪状、己が身の変化を受け入れぬこと。……ぷっ』

『お前、いま笑ったな? 笑っただろ……』

『……審判に私情は不要です』

 

「邪神ちゃんは、私たちとの着替えも平然としてらっしゃるではありませんか」

 

 話が神託に気を取られている内にややこしい方向へ向かっているではないか。

 確かに私の中身は男であるが、神としては性別は存在しない。あくまでも男神と女神という差でしかない。

 だからそう、何も思うことはないのだ。何も。

 

「それとも邪な気でもありますの? こうしたら何か感じます?」

 

 メーラがベッドから降りて、私に身体を擦り寄せる。

 その身には何か香が付けられているのだろうか、華やかなそれでいてみずみずしい香りが鼻に届いた。

 服も寝る前だからか、ゆったりとした薄手のもので、布ごしに彼女の肢体の柔らかさが伝わってくる。

 

『汝、有罪ギルティである。よって神罰を課す』

 

 まてまてまて、話が入りまじってややこしい。一方的に断罪された挙句、罰だと?

 審判の文字はどこにいったのだ。こやつ絶対にあのバカ女神に言い含められているな!?

 

『その身に相応しき官能を。……んぐふっ』

『まて、公平という言葉はどこにいったおまえ──』

 

 その言葉を最後に、頭の中の繋がりが途絶えた。

 残念ながら我が糾弾の声は届いていないだろう。どうしてこうなった。

 

 

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