邪神ちゃん 恨まれる 3
「大人しくしてろよ……、あの女をこれ以上傷つけたくねぇだろ?」
その脅しは確かに私に効果的だな。さて、この状態をどう脱したものか。
いつまでもこう無遠慮に肌に触れられ続けるのは、怖気が走る。
「うおおおお、女の肌ってやーらけー!」
「おら、なんとかいってみろよ!」
「っつ──」
取り巻きの手が私の尻に回ったところで、ザメルの手が私の胸を握る。
鋭い痛みがはしり、思わず声がでてしまった。よくみれば、爪が食い込んでいる。痛いはずだ。
「ああーずるいっスよぉ! 俺も触りてぇっス!」
「んん……んんー!」
「あとで変わってやるから、もうちょっと待てって」
サラからナイフは外れる様子はない。喋り方は軽いが、腑抜けではないらしい。
「ほら、ちょっと人質とってやったら何もできねぇ、お前は無能のアルカなんだよ!」
「けはっ……」
どすんと、無防備な腹にザメルの蹴りが入る。流石に武術Ⅲを保有しているだけある。的確に急所を狙われ、思わず膝をつく。
「ほら、無様に這いつくばれよ!」
今はまだ、こいつの言葉に従うしかない。サラの安全を確保せぬ事には、私にできることは少ない。
条件はあと一つ、それさえ満たせば……
「ケツ向けろケツ! 犬みたいによぉ!」
我慢だ我慢。これはサラを守るのに必要なことなのだ。
地面の小石が素肌に食い込む。唇を噛み締め、ゆっくりと身体を回した。
「へっ、へへっ。やってやる……やってるやる!」
「ほら、交代してやんよ」
「ありがとっす。そんなによかったっスか?」
「おうよ、ぽよぽよのふわふわだったぜ」
「んんんんー!」
背後からは何やらガチャガチャと耳障りな男が聞こる。
だが好機は近い、取り巻きが交代するようだ。
足音が聞こえ、取り巻きのもう一人が私の眼前に座り込んだ。
背後からの音が途絶え、尻に何かが触れる。
同時に、前からの手が、私の胸に触れた。
「
好機は、訪れた。隠して練り上げていたマナを解放し、地面を経由して魔法を発動させる。
同時に派手な音と共に、ザメルとその取り巻き全員が地に伏していた。
例外は私とサラのみだ。
「てめぇ! 畜生、この野郎!」
「やれやれ、なかなか面倒なことをしてくれる」
膝についた土を払い、サラの救助に向かう。
「ありがとう、アルカちゃん!! でも大丈夫? どこも怪我ない? 痛いところない?」
「まずは自分の心配をせよ。すまぬな、私の厄介ごとに巻き込んだ」
サラの首に一筋ついてしまった傷を魔法で癒す。
「私が捕まっちゃったせいで、アルカちゃんがっ……」
涙目のサラが私に抱きついてくる。素肌に彼女の髪の毛がふれ、少々こそばゆい。
いつまでも、このままでいるわけにもいくまい。
サラを一旦引き離し、散らばった制服を着込む。残念なのは、ボロきれにされてしまった下着くらいか。
「すまぬな。折角選んでくれた下着も切られてしまった」
「そんなのまた選べばいいよ! ほんとに、ほんとに怪我してない?」
「しておらん。なにも問題はないぞ」
その間も猿とその取り巻きはきゃんきゃんと叫んでいたが、無視だ無視。
さて、此奴らの始末、どうつけてやろうか。
「まったく、下郎という言葉がよく似合うな。無能相手に這いつくばらされた気分はどうだ?」
「てっめぇ……。覚えておけよ!」
「おお、覚えておくとも。その粗末なモノを丸出しにした無様な格好をな」
「アルカちゃん、それは覚えないほうがいいと思うんだ……」
何をしようとしていたのかは知らぬが、ザメルの格好はまさに無様そのものだ。
「それにしても、なんの魔法だったの? 私だけ無事だったし」
「なに、一定時間内に私に触れた人間という事をキーに発動させた原初魔法が一つ、言霊よ。阿呆が私に気安く触れるからああなる」
「やっぱアルカちゃんはすごいね……」
流石に怖かったのだろう、サラは私の腕に強く抱きついている。
「しばし、その格好で反省するのだな。
地面を介して発動した魔法に、猿とその取り巻き二人が従う。
「ふははははは、無様だな! まさに負け犬の様相だ!」
「アルカちゃん……」
その姿を眺めて呵呵大笑する。サラはそんな私をどこか呆れ顔で見つめていた。
「こやつらは込めたマナがつきるまでそこらを這いつくばっておるだろうよ。戻るぞ」
「うん。あ、でもアルカちゃん。女の子がそう簡単に肌を晒しちゃだめなんだからね。それに──」
「わかったわかった。仕方ないではないか。サラに怪我をさせるわけにはいかんしな」
「もー……」
私の中でのサラが拐われるという大事件はこれで幕を閉じた。
ただ私はこの後──
「ぺくちっ……」
風邪を引いて、更にサラから小言を貰うのであった。
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