後篇

 ばたばたと走りながらぼくの方へとやってくる陸翔くんの手には、大きめの本が1冊握られていた。


「見つけたぜ、夢日記」

「ほんとか? リク」

「ああ。ほら見ろよ、表紙に『日記』って書いてあるし、図書室のシールもはってないだろ?」


 遅れてもどってきた樹くんに陸翔くんは言う。たしかに、どこにもラベルははられていない。


「すげえ、さっすがリク」

「へへん、どんなもんよ」


 ほこらしげに鼻をこする陸翔くん。それからカウンターに見つけてきた本を置いて、


「よし、見てみようぜ」

「楽しみだな」

「ほら、けーたも来いよ」

「あ、うん」


 ぼくは陸翔くんの隣に立つ。反対側には樹くん。3人ならんで、本をみおろす。


「よし、いくぞ」


 陸翔くんはそう言うと、思いきり本を開く。すると、


「え……」

「ん?」

「なんだこれ?」


 そこに書かれていたのは、まちがいなく日記。

 だけど日記は日記でも、絵日記だった。

 しかも書かれているのは1ページだけ。


「えーと、なになに」


 みんな目で書いてある文章を追う。そこにはエンピツで大きく、こう書かれていた。


『きょうはみんなであそんだ。みんないっしょで、とてもたのしかった。みんなといつもいっしょがいいなあ』


「なんだよこれ。夏休みの宿題みたいじゃん」


 陸翔くんの声はすっかりおもしろくなさそうになっている。


「しかもこの絵。ヘタクソすぎだろ、幼稚園児かよ」


 文章の上の絵を描く場所には、クレヨンで描かれた男の子たちが輪になって笑顔をうかべている。立体感のまったくない、まさしく小学校低学年が描いたような絵。

 でもなんでだろう。なんだか違和感があるような。


「あーあ。せっかく夜に来てまでさがしたのに。これのどこが夢なんだよ。もしかして、おれたち全員で見ちゃったからこんなのしか書いてないってことか?」

「な、なあ」


 陸翔くんの言葉に答えたのは、さっきからしゃべっていない樹くんだった。


「これ、変じゃないか?」

「変? なにがだ?」


 樹くんの声は、どこかふるえているように聞こえる。


「日づけ……今日になってる」

「え? あ、ほんとだ」


 日記の日づけは6月15日。たしかに今日だった。


「じゃあこれって、おれたち?」


 輪になって楽しそうにしている男の子たち。日記の日づけが今日なら、これはつまりこの日記を開いたぼくたち、ということなんだろうか。


「いやまあ最初はおもしろそうだったけどさー、ここまで笑顔になるほどじゃねーよな。逆にウケるんだけど。なあ樹?」

「そうじゃなくてさ……この絵、よく見てみろよ」

「だから、なんなんだよ」

「数えてみろよ、人数」

「は?」

「4人、いるんだけど……」

「…………え?」


 1、2、3……4。ほんとだ、全部で4人いる――


「――――――」


 瞬間、ぼくの背すじは一気に冷えた。背後に、人の気配をかんじた。それはふたりも同じみたいで、まるで氷づけになったみたいにかたまっている。

 ふりかえることができないけど、そこには誰かいるような気がしてならなくて。


 グループで楽しくすごす。みんな笑って。いつも、いっしょ。


 これは、いったいだれの夢だったんだろう。

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夢日記 今福シノ @Shinoimafuku

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