夢日記
今福シノ
前篇
なんで学校は、夜になるだけでこんなに気味悪い場所になるんだろう。
昼とちがって音がしないから? それとも、ほんとうは来るべき時間じゃないから?
だけど、ぼくの気持ちとは裏腹に、
「夜だとなんかワクワクするな」
「ほんとほんと」
「静かだし、ゲームの中にいるっぽくね?」
「あ、それすげえわかる」
ぼくらの距離は開いていく。気がつけば取り残されるように、唯一の明かりである陸翔くんのスマホの懐中電灯が離れていた。
「おい、けーた。おいてくぞ」
「ま、まってよお」
おもわずその場でうずくまってしまいそうな気持ちを必死にがまんして、ぼくはあとを追う。
「ほんと、けーたはこわがりだな」
「ご、ごめん。だけどすごいね陸翔くん。樹くんも。こんなに暗いのに」
「へへん、だろ?」
「
ぼくらは同じ6年2組のクラスメイト。6年生にもなればみんなそれぞれのグループになって遊んだり、一緒に帰ったりしていて、ぼくは陸翔くんのグループに入れてもらっていた。
陸翔くんみたいに元気なクラスの人気物とぼくじゃあ、つりあわない。だけど先生が「いろんな人となかよくしましょう」っていつも強く言うのもあって、どのグループにもぼくみたいな引き立て役がふたりくらいはいる形になっていた。
「リク、やっぱ
「しょうがないじゃん。図書室のカギを開けられるの、けーたしかいないんだから」
「そっか。おれたちのクラスの図書委員、啓太だけになったんだっけ」
「それに、けーたも気になるだろ? 図書室のウワサ」
「う、うん」
「なにが書いてあるんだろうなあ、夢日記」
図書室にはたくさんの本の中に夢日記と呼ばれる1冊の日記が隠されていて。昼間は見つからないけど、夜にだけあらわれる。
開くとそこには、なんと見た人の夢が実現した未来が書かれているらしい。
そんなウワサが流れだしたのは、1か月くらい前のことだった。
「リクならサッカー選手になってることが書いてあったりするんじゃないか?」
「へへ、そうかなあ。イツキこそメジャーリーガーになってるだろ」
ふたりは楽しそうに笑う。でも、ぼくはちがうことを思っていた。ウワサなんて、わざわざ夜の学校にしのびこんでまで確かめるようなものじゃないって。もし見つかったら、先生にもおかあさんにも怒られてしまうし。
だけど、そんなことは絶対に口に出せない。
だって、もし言って陸翔くんの
しばらくして、ぼくらは図書室へとやってきた。ぼくが先生からあずかっているカギを使ってとびらを開けると、ふたりは中に入って動き回る。
「よし、それじゃあ手分けしてさがそうぜ」
「オッケー。おれ、こっちの本棚からいくぜ」
「ふ、ふたりとも。図書室はしずかにしないと」
「なに言ってんだ、今は誰もいないんだしいいだろ。それより啓太もさがせよ」
「う、うん」
そう言って図書室の奥へと消えていくふたり。残されたぼくの目に映ったのは、貸し出しカウンター。いつもぼくが昼休みにひとりで座っている場所。
少し前まではもうひとりの図書委員といっしょだったから、すこしさみしい。だけど転校しちゃったのだからしょうがない――
「おい、見つけたぞ!」
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