Erf

@IE-neko

Erf


 私がその実験について知ったのは、いつものように大学で記事のネタを探している時の事です。



・ある装着者の男性の話

 え、この機械ですか?これはテッド博士の実験に協力してるんですよ。大学のHP見てませんか?何とかっていうホルモンを電磁波で抑制して、それによって起こる思考の変化を見るみたいです。ちょっと怖かったけれど、実験が成功したら謝礼が貰えるらしいんでやってみようかなって。付けてから一週間くらい経ちますかね。変化ですか?ええ、付けた直後はあんまり気づかなかったけれど、今は変化を実感してます。うーん、なんていったらいいのかな。余計な感情がなくなって、全てが明晰になる…みたいな。あるいは、思考のすべてが合理的になると言うべきでしょうか。元々多くはなかったけれど、突発的な行動とか理性的ではない行為。そういうのがなくなった気がします。え?いやいや、外す気は今のところないですね。だってこれをつけてから気分がいいんです。じゃなければこんな機械すぐ外してますよ。何たって自分ですぐ外せるんですから。てか、そんなこと聞く前にもあなたもやってみたらいいと思いますよ。なんていうか…世界が変わりますよ。


・脳科学科テッド博士の研究室からのお知らせ

 やあ、学生諸君。脳科学科のテッド新一だ。急な話になるんだが、今我が研究室では実験の被検体となってくれる人を探している。内容はごく簡単なもので、ある一定のホルモンを電磁波によってコントロールする器械をうなじに取り付けるだけだ。個人でもすぐに取り外せるし、取り付けにかかる諸々の費用は、もちろんこちらが受け持つ。どころか協力してくれた学生諸君には十分な謝礼を支払うつもりだ。興味がある学生はいつでも我が研究室を訪ねてくれたまえ。



 「世界が変わる」。学生にそこまで言わしめた実験について、私は酷く興味を持ちました。そしてこの日から、私はテッド博士の実験についてインタビューを始める事にしたのです。



・ある装着者の女性の話

 あらなに。この機械について?そうね、私は付けてまだ全然経ってないけれど、これを付けてると何だか頭がクリアになる気がするの。うまく言えないけれど、何が必要で何が不要かっていう思考が明晰になった気がするわ。それとね、私って凄い夜更かしで、いつも朝方まで起きちゃったりしてたんだけど、これを付けてからは夜更かしをしなくなったの。しなくなったと言うか、それがどれだけ無駄な事か気づいたっていう感じかな。やっぱり夜にしっかり寝て、昼間しっかり活動するのが合理的でしょう?それと同じ様に、食生活や運動のことも気にし始めたわ。これを付ける前まではいつも目先の欲求を優先してた気がするのだけれど、今は何て言うか、もっと長期的なスパンで物事を捉えられるようになった。今までの私は一体何だったのかしらね。あら、もう行かなければ。それじゃあね。


・ある装着者の友人の話

 ふむ。うなじに機械を付けている人の話を集めている。ああもしかしてErfの事ですか。え?Erfってのは、そのうなじに付ける機械の事ですよ。確か、「Enhance rational faculty」とか何とかの略だって聞いたような。ホルモンか何かの実験ですよね。丁度この間友人がそのErfを付けて、人が変わったように真面目になったものだから驚いてたんですよ。そいつは酷く不真面目な奴で、これまでは講義に顔を出すことすら稀だったんですけどね。Erfを付けてからは毎日講義に来るようになったんです。しかもそれだけじゃなくて、毎日少しでも空き時間があれば勉強をして、少しでも疑問があれば直ぐに教授に話を聞きに行くんです。彼を知っている奴からすれば、これは結構衝撃的な変化でした。なんせ堕落が服着て歩いているような男だったんですからね。しかしまあこんな急な変化、普通はちょっと怖くなるところですけれど。でも誰にも迷惑をかけていないどころか、以前より良くなった訳ですから、誰もそれを怖いとは思っていない訳です。どころかその様子を見て、Erfをみんなで付けに行こうなんて言ってる奴らもいましたよ。僕もErfを付ければ明日までのレポートをすぐに終わらせることができるんですかね。おっと、もう行かなければ。では失礼します。


・ある引きこもりだった装着者の話

 ええ、この機械は素晴らしいですよ。私はついこの間まで引きこもりだったのですけれどね、これを付けてからはもうそんな事はしなくなりました。それもこれもこのErfにより私の意識が変化したからです。もし今どうしようもない怠惰や欲求、抑えられない激情を抱えている人がいるのなら、是非Erfを付けるべきだと言いたいですね。きっとその全てが解決されるはずです。



 テッド新一という博士が開発したこの小さなチップは、素晴らしい発明品でした。Erfを付けた者はその全員に、性格の変化、生活習慣の変化、学力の向上などの効果が認められたのです。誰もがそれまでよりも、健康的で理性的で合理的になりました。



・ある真面目な学生の話

 Erfの事は勿論知っていますよ。今人気ですからね。そりゃあ、実験が成功すればお金がもらえて頭も良くなるかも、なんて言われたらちょっとやってみようと思いますよね。でもアレって単に頭が良くなる訳じゃないんでしょう。何ていうか、合理的かつ理性的な判断を好むようになった結果がそう見えるってだけで、IQ自体は変化していない。僕の友人にテッド博士のゼミ生がいるんですけれど、彼がErfの効果について「感情に基づく短期的欲求よりも、理性に基づく長期的利益を好むようになる」って言ってましたよ。ええ、何だか判るような判らないような話ですけれどね。つまりErfを付けた直後にレポートがすぐ終わるなんて事はない。けれど、期日までにレポートが終わらないなんて事もないって訳です。ははは、その友人は連日研究室に学生が大勢来るものだから大変みたいですよ。だからちょっと遠慮してるんですけど、落ち着いたら僕も付けてみたいと思っています。


・ある不真面目な学生の話

 Erfについて?うーんそうだね、最近大学の様子が以前より明らかに良くなっているなって思うことは多いよ。講義中にスマホを弄る奴なんて誰もいないし、みんな凄い勢いで勉強してるしね。だからErfは素直に凄い発明だと思う。でもアタシみたいなのからしたらちょっと怖い気もするんだ。だって、人間ってそんな簡単に変わって良いものなのかな。



 Erfの話は、瞬く間に大学中に広まりました。中には一抹の不安を感じている人もいるようでしたが、みんながErfを絶賛し、みんながErfを求めました。



・ある教授の話

 驚きましたよ。あの日は確か、Erfが大学で流行りだしてから数か月が経ったころでしたかな。私の授業は月曜の一限目で内容も難しく、日ごろから出席率が良くありませんでした。受講生の三分の一は必ずいなかったように思います。まあ、この大学は5回までの欠席が許されていますから、単位を落とす学生というのはそういないのですが。しかし、落とす学生もやはり他の講義よりは多かったのです。だけどあの機械といったら物凄い。その日私が教室に行くと、いつもはスカスカの教室がびっしりと埋まっていました。しかも全員、物音ひとつ立てずに静かに本を読んでいました。そして私が来たのを見るやいなや、それを一斉に閉まったのです。私は最初、何が起きたのかと思いましたよ。学生が私をからかっているんじゃないかとも思いました。でも、いくら講義を進めてもそんな気配は少しもない。私はとうとう耐え切れずに、一番前に座っていた学生に尋ねました。「今日は皆、一体どうしたんだい?」とね。そしたら彼は静かに微笑んで、じぶんのうなじを指さしたんです。そこにはSDカードより小さい、チップのようなものがありました。それこそまさに、今話題のErfですよ。それから私の講義は目に見えて人が多くなりました。いえ、それが本来の人数だったのです。又、最近は多くの学生がオフィスアワーの時間に私の研究室を訪ねてくれます。しかもその質問のレベルが頗る高い。一体彼らには何が見えているのでしょうか。


・脳科学科テッド博士の研究室からのお知らせ

 やあ、脳科学科のテッド新一だ。我が研究室が作り上げたErfの実験は、お陰様で順調である。君達からから得られた膨大なデータを解析することで、小型化と大量生産も可能になった。Erfの効果は既に知っての通りだが、よりスマートにより効果的にErfを使用することが出来るようになった訳である。ついては学生諸君には更なる技術向上のため、引き続きErfの協力を要請する。無論、謝礼は約束しよう。既に我が研究室には優秀なパトロンが付いており、先の実験協力者への謝礼は支払い済みだ。君たちの来訪を心待ちにしているよ。



 そしていつしかErfの評判は大学内に留まらず、国内外にまで行き渡り始めました。ですが誰も、Erfがどのような理論どのような技術で作られているのかは判りませんでした。



・テッド研究室の研究生の話

 Erfがどのような設計なのか。それはテッド博士以外には知り得ない事です。私たちゼミ生にも一切知らされていません。私たちが知っているのは装着方法のみです。恐らく言葉通りホルモンをコントロールしているのだとは思うのですが、その方法が判らない。例えば、理論的にはドーパミンというホルモンを抑制すれば様々な依存症が治ります。また、メラトニンを抑制すれば二度寝をする事はなくなります。しかしこれらのホルモンは同時に、私たち人間に無くてはならないものでもあります。そもそもドーパミンが無ければ我々はみんな鬱病のようになってしまいますし、メラトニンが無ければ誰もが不眠症です。従って普通はこれらのホルモンに異常が見られた場合のみ、様々な薬剤を用いてホルモンをコントロールするのです。しかし、そのバランスは極めて難しい。ホルモンは増えすぎても減りすぎても困る訳です。例えば、女性ホルモンを分泌させるために睡眠障害になったり、ガンを治すためのホルモン治療で鬱病になったりは日常茶飯事です。つまりホルモン一つを取っても様々な役割がある為、これが多いから減らそうという単純な話では無いのです。結果的に、ホルモンをコントロールする事は多様なリスクが伴うという事になる。ましてやそれをこの小さな機械で行うなんて正気の沙汰ではない。しかし現に、Erfはそれを何のリスクもなく行なう事が出来ている。Erfをつけた者は身体機能や生理機能を一切損なう事なく、感情の合理化に成功している。これは驚くべき事ですよ。一体どんな原理を用い入ればこんな事が可能なのか、全く見当もつきません。



私がErfについて違和感を持ち始めたのはそんな時です。



・ある装着者の話2

 あ、お久しぶりです。今回は何のインタビューをしてるんですか?え、Erfを付けて一番変わった事?うーん、そうですね。一番はやっぱり、5年付き合ってた彼女と別れたことですかね。Erfを付けてから気づいたんですよ。自分は彼女の事が本当には好きじゃないんだって。色々な感情や欲求、惰性、そういう物に囚われていただけなんだって。そう思ったら、付き合うという行為の無駄さや不合理さが浮き彫りになってきたんです。だから別れました。幸運な事に僕の彼女も同じ考えに至っていたようで、円満に別れる事が出来ましたよ。それが一番の変化ですかね。あ、もう行かなきゃ。それではこの辺で失礼します。え、ああ勿論彼女もErfを付けていますよ。


・ある装着者の恋人の話

 はい。僕の彼女の様子が変わり始めたのは、お察しの通りあの機械を付け始めてからでした。それまでの彼女はとても21歳とは思えないほど無邪気で、かわいらしい女性だったのです。ですがあの機械を付けて帰ってきてから、彼女はなんだか落ち着いてしまいました。いえ、落ち着いたのが悪いわけじゃないのです。彼女は興奮すると周りが見えなくなってしまうようなところもありましたから、そういう意味ではよかったと思う場面もあるのです。でも以前より何だか冷たくなって、前に好きだった色々なことに興味を示さなくなったんです。その代わり今は、今まで興味のなかった難しい学術書だとか社会問題について色々調べているみたいです。それと、言いにくいのですが、夜のお誘いもぱたりと無くなりました。彼女はとても甘え上手で、それまでは会うたびに求めてきてくれたんです。そのせいで講義に行けなかったりしたことも結構ありましたけどね。でもこれからは、講義に行けないなんてこともなくなるのでしょう。はは、今彼女って言ったけど、実はついさっき別れを告げられたんです。凄くシンプルに「あなたのこと好きじゃないって気づいたの」って一言だけ。僕は今からErfを付けに行こうと思います。そして、あの子が何を見て何を考えているのか、この目で確かめてみたい。それではまた。


・ある恋人と別れた装着者の話

 どうして彼氏と別れたかって、別に彼の事が好きじゃなかったからです。それだけです。Erfを付けてから気づいたんですよ。只の勘違いだったんだなって。彼のルックスとか性格とかが嫌いになった訳じゃなくて、それに抱く感情が無駄な事だと判ったんです。だってそれは、只のホルモンによる感情の変化でしょう?ホルモンバランスが崩れればすぐに消えて無くなる感情。それをさも美しい物かのように愛だ恋だと騒ぐのは、果たして理性的だと言えるでしょうか。私たちはErfによって、本当の理性を手に入れたんです。ならば不要な物は切り捨てるのが合理的です。彼もErfを付ければ、私の言っている事が判ると思いますよ。もういいでしょうか。では失礼します。



 どうやらErfを付けた者の多くが、恋人と別れているようでした。



・ある嫉妬深い装着者の話

 恋人?いないですけれど、藪から棒に何ですか。いいえ、作ろうとも思っていないですね。別にいらないです。そもそも何故恋人を作るのですか。好きだから?一緒にいたいから?それとも、誰にも取られたくないから?その気持ちが僕にはもう判りません。何故ならそれが合理的ではないと気づいたからです。Erfを付ける前、僕にはとても好きな人がいたのですが、その人の事を僕はもう何とも思っていないのです。以前は寝ても覚めても彼女の事が頭に浮かび、彼女が今彼氏と一緒にいるかも知れないと思っただけで胸がはち切れそうだったのに、今やその感傷全てが無駄なものだったと感じています。悲しい?いいえ、悲しくはありません。何故そう思うのですか?僕は今とても晴れ晴れとした気分です。色々な事を、僕自身が本当に選択しているという気がするのです。今思うと、僕は本当に自分で選んで、彼女を好きになったのでしょうか。


・ある美男子の装着者の話

 モテ男?俺が?一体誰から聞いたんだか…まあ、そうとも言えなくはなかったけれど、最近は寄ってくる女性はいないよ。このErfが普及してからだね。俺も誘われてErfを付けてからは、女性と遊ぶ気はなくなった。以前は気になる女の子がいたらすぐにアタックしてたんだけど、一時の快楽の為に無駄な時間を過ごすのは嫌だしね。そしたらさ、寝不足は解消されるしニキビは無くなるし痩せるしで良い事だらけだよ。俺は今まで一体どれだけ無駄な事をしていたんだろうかと後悔している。モテるとかモテないとか、付き合うとか付き合わないとか、恋だとか愛だとか、それって本当に必要なものなのかな。なんていうか…今俺にはそれがとても無駄な事のように感じられるんだ。


・ある惚れっぽい装着者の話

 え、付き合った人数?いきなり変な事を聞く人ですね。そうですねぇ、恐らく人よりは大分多い方だと思いますけれど。私は結構惚れっぽい性格のようで、ちょっとでも良いと思うとすぐに好きになってしまうのです。そうなると私は、もう自分では止められない程に衝動的になります。気になった男性に近づくためにあれやこれやと画策して、普段は行かない飲み会に参加したり、わざわざ相手の行きつけのバーまで行ったこともありましたわ。そうやって何度過ちを犯したことでしょうか。付き合ってもすぐに他に好きな人ができて、その人を求めてしまうのです。頭ではわかっていても止められませんの。でもErfを付けてからそういう感情や衝動は鳴りを潜めましたわ。これを付けてから、それがどんなに無駄なものだったのか、どれだけそれに振り回されて来たのかが判りましたの。ええ、それはもうなんて開放感でしょうか。だから私はErfを外せないのね。あら、もうこんな時間。それでは、ご機嫌よう。



 私は考えました。何故彼らは愛や恋という感情を無駄なものだと言うのでしょうか。

だってそれは、私たちに無くてはならないものです。私たちは人を愛し、愛されながら繁栄してきたのですから。ですが彼らの目には、それはどうしようもなく不合理な機能のように映るみたいなのです。

とにかく只一つ言える事は、Erfは人から愛を奪ってしまうのでした。



・ある学長の話

 ああ、君か。待っていたよ。悪いが、少し忙しいので手短にお願いしたい。ほら、今話題のErfの事だよ。学外からの問い合わせが殺到していて、てんてこ舞いだ。それで何の話かな。ふむ、なるほど。それで、それの一体何処が問題なんだね。だってErfは人を合理的にさせるんだろう。ならば別れた学生は、それが合理的ではないと判断しただけの事だろうよ。年長者から言わせてもらうとね、君らくらいの歳頃は色々な物に目が眩んで本質が見えていない事がよくある。苦い思いをする前に気づけて良かったじゃないか。そもそも愛とか恋とか、人のデリケートな部分に他人が口を挟むのは良くないよ。それは個人の問題なんだから。それとね、テッド博士からErfの実験を学内で行いたいと言われた時、その理論や安全面での問題、費用の問題、様々な事を考慮して許可を出している。Erfは安全だよ。


・ある裏切られた資産家の話

 Erfにリスクは無いと考えている。だからこそあれは画期的な発明だし、だからこそ私は彼のパトロンになったのだ。既に特許も取得済みだ。製品化の話も済んでいる。あれが世界中に普及すれば、世界は様変わりするだろうね。何せErfを付ければ、みんなが本当の理性を持つ人間になれるんだから。なんて素晴らしい事だろう。だから君のように意味のわからない事を言ってきて、無駄に危機感を煽ってくるようなのは正直困るんだ。愛が無くなるだって?君は何も分かっちゃいないね。愛がなくなったんじゃない、彼らは自分の感情が愛では無いと気付いただけなんだ。少し私の話をしようか。私の両親は俗に言うでき婚というやつでね。私が生まれるから結婚したんだが、仲が頗る悪かった。私が物心ついた頃から、顔を合わせれば罵り合い、お互いが居ないところでも悪態を付き合っていた。その悪態がまた酷いんだ。「どうして結婚したんだろう」ってお互いが言うんだよ。しかも私の目の前で。信じられるかい?勝手に子供を作った癖に、責任の所在を子供に押し付けているんだ。だったら最初から作らなければいい。そもそも、子供が出来て困るような相手とセックスをしなければいい。それなのに何故彼らは私が出来た事を後悔しているのか、愛し合っていたから私が出来たんじゃないのか。それが私の子供の頃からの疑問だった。そしてその疑問は私が大人になり、資産家として成功した時に解決した。正確に言うならば、一生大事にしたいと思った女が、他の男の子供を私の子供だと言ってきた時だ。私の事を愛してるとほざいた口で、他の男のペニスを咥えていたのを見た時だ。その時に私は気付いたんだ。母さんと父さんは、本能に抗いきれなかった弱い生き物だったんだって。理性を持ち、社会的に行動するはずの人間になり損ねた可哀想な生き物なんだって。話が長くなったが私が言いたいのはつまりこういうことだ。いいかい、君が言っている「愛が無くなる」という現象はね、それこそが人が本当の理性で生きられるようになったという証拠なんだ。人は簡単に本能に踊らされて、色々な衝動を愛だと勘違いをしてしまう。それは私という存在が証明している。しかしこれからはどんな人間も、本能に踊らされずに、本当の理性で生きていくことが出来るんだ。君はそれを悪だというのかい?



 私が間違っているのでしょうか。確かに人が様々な欲求や衝動に振り回されることなく生きていけるのならば、それに越した事はありません。



・ある恋人がいる装着者の話

 僕の彼女は素晴らしい人です。僕のする事に適切な助言をくれますし、僕では思いつきもしない発想を持っている。僕がより良く生きる為にその発想はとても貴重です。又、食事の嗜好や身体的スペック、生活習慣などが似通っているので、お互いの為に気遣うという事をしなくとも良いです。仕事も大手の企業に就職が決まっていて、僕は給与の低い会社を選んでしまったので助かります。加えて肌の清潔さ、顔の左右対象さ、骨盤の形、病気の有無などから見て、いつか子供が出来るという事になっても安心できると考えます。その他の条件から見ても、僕の彼女は素晴らしい人です。セックス?いえ、する必要がないので致しません。子供を作る必要が出来た時にするでしょう。手?いえ、繋いだ事はありません。繋ぐ理由が見当たりません。好き?ええ、僕が欲する条件に合致していてとても好ましいですね。



でも本当にそうなのでしょうか。理性が全て正しいと何故言えるのでしょうか。

それは例えば、みんながこぞって効率のみを求めてゲームをしているような、薄気味悪さ。

それは例えば、真っ白なロボットが愛し合っているのを見るかのような、おぞましさでした。



・ある通りすがりの装着者の話

 愛が無くなる?それは恋愛の愛かな。それとも子供を愛したりする愛かな。どちらでも?うんまあ、私は別にそのどちらも無くしてはいないよ。私はErfを付ける前と同じ様に人を愛するし、同じ様に子供を愛していると言える。唯一違うのはそう、ただそれが私という理性が選択するというだけの話さ。例えば私が求める条件に限りなく合致している人がいたら私はその人を好きだと言えるだろうし、例えば子供が今そこで死にそうになっていれば私はすぐに助けに行く。つまり、そこに私の意思が介在するかしないかの違いなんだ。嫌な所や不都合な所は見ない様にして人を好きになる事はないし、子供が死にかけているからと言って体が勝手に動く事はない。いつだってそこには、それがいかに合理的で理性的な判断かという価値基準が存在するのさ。人を愛するのはそれが利益に繋がるからだ。子供を助けるのは「子供は守るべきだ」という社会的な倫理規範に従ったからだ。私は私以外の私が介在しない私だけの意思で、私の全てを決めるんだ。これがErfというものだよ。

 


 私は思います。彼らのそれは愛ではないと。親が子供を助ける時、親はリスクを気にしません。人が人を好きになる時、そこに打算はありません。人とは、愛とは、そもそも不合理で不条理で衝動的で、だからこそ美しい物なのですから。

ですが彼らには、それがどうにも理解できないようなのでした。



・ある迷惑そうな装着者の話

 ああ、貴方ですか。有名ですよ、Erfが愛を奪うだとか何とかを言い回っている人がいるって。そうやって危機感を煽るのが趣味なのですか?いいですか、貴方が何と言おうとErfは素晴らしい発明です。方法は判りませんが、Erfは人が理性では制御し難い欲求や感情を抑制し、人が本当の理性で思考できるようにしてくれます。つまりErfを付けてから無くなった欲求や感情というものは、私たちが本当に選択したものでは無かったという事です。Erfを付けて別れた人がいるのなら、それはその人の選択が理性によるものでは無かったという事。もしErfを付けてから付き合った人がいるのなら、それこそが理性による選択だという事です。何ですか?愛は理性のみで判断できるものではない?ならば何故、人は増えすぎているのでしょうか。愛があるから無制限にセックスして子供を増やしても良い?ならば何故、新生児の4割が中絶されるのでしょうか。愛し合った結果、命を無駄にしても良い?もし貴方の言う愛が理性のみでは判断できないものであるとするならば、何故人間はそんな事をするのですか。いつだって人間はその場の感情に踊らされ、狂わされ、判断を間違える。それを無くすのがErfなのです。



 それともやはり、理解出来ていないのは私の方なのでしょうか。



・あるブログの抜粋

 1927年に20億人だった世界人口は2019年時点で75億人を突破した。国連は2019年に「世界人口予測」で、2050年の世界人口は98億人、そして2100年にはなんと112億人に達すると予測し、実際その通りに世界は進んでいる。又、その増加の8割超は、アフリカなどの性教育の浸透していない発展途上国で起きているという事実は特筆に値する。このように人口が爆発的に増加することで起きる問題は数え切れないほどであるが、その殆んどが「不足」に由来することは明白である。水の不足、食料の不足、土地の不足。あらゆる地球資源の不足が人類を困窮させるだろう。だが今、その問題に一筋の光明が差した。Erfだ。人を合理的かつ理性的な生き物にするこの発明があれば、この問題はすぐに解決する。人は無意味な繁殖を辞め、人類が存続する為に本当に必要な事を考えるようになるだろう。その時はもうすぐそこまで来ている。


・ある喜んでいる装着者の話

 やあ、聞いたかい?Erfの発売が漸く決まったらしい。いやぁ今から待ち遠しいね。今に世界中の人がErfの素晴らしさを知るんだから、これに越した事はない。それと同時に色々な問題が解決するだろうね。特に人口問題なんかには顕著に現れる筈だ。このまま人口が増加し続ければ、人類全体が危うくなるのは明白だからね。人の理性がそれを許すはずもないよ。全く、我が大学から始まった実験が世界を変えるなんて、なんて誇り高い事だろうか。は?愛?おいおい止してくれよ。それは世界を救う事よりも大事な事なのかい?



 愛は大切です。



・あるデータの抜粋

 米国ジョージ・メイソン大学の性的暴行に関するデータによると、米国人女性の三人に一人が性的虐待を受けた経験を持つ。毎年30万人が性暴力の被害にあっているが、そのうちの70%は警察に届け出ていない。その為、レイプ加害者の98%は刑務所に送られていない。又、米国は人口に対する児童ポルノサイトの訪問者が22.8%と極めて高い。



 愛は必要です。



・ある生物学者の話

 男がなぜレイプをするのかという話について、諸説は様々ですが、生物学的観点から考えると「より良い遺伝子を残すため」であると言えるでしょう。もし今の一夫一妻制のようなものが人類が原人だった頃にあったなら、人類はここまで進化していません。社会生活の中で雄も雌もより多くの異性と交わり、多くの子を産むことで、環境に適応した子孫を残してきた。敢えて性的な差異を挙げるならば、雌は子を産み育てなければならないが、雄は種を植えるだけというリスクの差でしょうか。だから雌が雄をレイプするという話にはならない。しかし雄はノーリスクだ。従って、性的な自然淘汰の中で雄は無理矢理にでも相手を組み伏して子を産ませる。当然、雌という個体はリスクを嫌がるでしょうが、レイプという行為自体は種にとっては合理的な選択な訳です。そもそも雌の方が個体数が多い上に、性行為=懐妊という訳では必ずしもない。詳しく話す暇はないが、人類の生殖方法というものは極めて不確実なのです。だからレイプという行為が生まれた。ただしここで間違ってはならないのが、この行為が「本能による」合理的な選択だということです。人類はいつだって、抗いがたい本能と理性の狭間で生きてきた。いくらレイプというものが人類の遺伝子に組み込まれたものであろうとも、それは決して許されざる行為です。しかし、そうは言っても性犯罪は簡単には無くならない。もし人間が本当に理性のみで行動できるようになれば、あるいは無くなるのかもしれませんけれどね。


・ある装着者の女性の話2

 あ、こんにちは。ねえご存知ですか。Erfが性犯罪者を収容している監獄に導入されたみたいですよ。何でも、付けた囚人はみんな人が変わった様に模範囚になったとか。さすがErfですよね。これが普及すれば性犯罪は激減することでしょう。世界はErfのおかげでまた一つより良くなる訳です。え?愛ですか?驚きました。あなた、そういう衝動的な感情があった所為で人は間違え続けて来たのだと、まだ理解して無いのかしら。



 愛は美しいものです。



・あるニュース

 話題のErfの発売がいよいよ間近に迫った今日、嬉しいニュースが飛び込んで参りました。何と、政府がErf購入者への補助を検討していると言うのです。詳しい決定は明日の閣僚会議で決まる予定ですが、これが決定すれば決して安いとは言えないErfの購入が身近な物になる事は確実でしょうね。


・ある不真面目だった装着者の話

 ああ、久しぶりだね。まだインタビューしてるんだ。うん、結局付けたよ。今はすごく気分がいい。全ての事柄を何にも縛られる事なく選択するって、こんなにも凄いものなんだね。気取ってないで早く付けておけば良かったよ。え?愛が無くなるって?ああ、コレが発売してから離婚率が急増したっていう話?そりゃあ知ってるけどさ、でも代わりに犯罪が無くなった。虐待も無くなった。中絶も無くなった。人口問題だって解決するって言う見立てだ。愛とか恋なんて、そういうものに比べたら無いようなものじゃん。それで、アンタはコレ付けないの?


・ある生物学者の話

 有性生殖とは二個体の親生物に由来する遺伝的多様性のなかから、ある組み合わせを持つ新しい生物が生まれるということです。母親のゲノム、父親のゲノム、両方の形質の中から人間は生まれます。この我々にとって当たり前の事実は、実は生物界においては珍しいやり方と言えます。つまり、生物界においては自身の遺伝的なクローンを作るのが一般的なやり方であるということですね。このクローニングという行為に比べると、有性生殖は明らかにコストとリスクが大きいのです。では、なぜ有性生殖はあるのか。それは多様性が、種の生存に有利に働くからです。無論、多様なゲノムの中には生存に有利なものも不利なものもある。不利なものであれば生存できないし、有利なものであれば生存できる。その有利さを獲得する為に、我々は有性生殖という方法を取っている訳ですね。しかし最近では、この方法はあまり賢くないという見方も出てきています。実は多くのゲノムは生存にとって有利でも不利でもない、ニュートラルなものなのです。つまり有性生殖をしたところで、多くはその利益とはなんの関係もないという事です。従って有性生殖とは、時折得られる有利な変化における長期的な利益が、セックスの多大なるコストとリスクを上回った場合にのみ、価値があると言えるのです。


・ある遺伝学者の話

 これからの技術開発によって、人類の生殖というのは様変わりするでしょう。その変化は二つの技術的進歩によってもたらされます。それはips細胞とErfです。まず何故今までIVFつまり体外受精が普及しなかったのかと言うと、それは卵子の採取が極めて不快で費用が嵩み、かつ健康リスクが伴うからでした。その為、今まで体外受精というものはどうしようも無い理由がある人のみが行う方法だったのです。しかし、ips細胞が開発されてからは違います。何故ならips細胞があれば人の皮膚から卵子が、必要に応じて精子が作れるからです。つまり今までのデメリットが無くなるだけでなく、不妊患者も子供を持つ事が可能だという事です。加えてそれだけではなく、女性の細胞から精子、男性の細胞から卵子を作る事も可能であります。つまり、ゲイやレズビアンでも子供を持てるのです。又、それらの遺伝子から生まれる子供がどのような形質を持つのかを知る事も簡単です。これをPGD、着床前遺伝学的診断と言いますが、これを行えば、これから受精する胚が男の子か女の子かというだけでなく、どんな体格を持ちどんな病気になりやすいかという事まで判ります。しかしこの技術も、今まで普及しませんでした。何故か。それは「生命を弄んでいる」「愛がない」などという偏見故です。この技術があれば、生まれる子供は様々な不便や不安から解放され、本当に必要とされる生命だけを生み出す事が出来るというのに。人はそうやって、合理的判断を感情で潰して来たのです。しかしそれももう終わりです。Erfがあれば人は合理的な判断を選択するようになる。これからの時代、人は理性で繁殖するのです。つまりErfこそがこの世界に足りなかった最後のピースだったのですよ。


・あるニュース

 続いてのニュースです。昨年末に発売されて話題を呼んでから、売り上げがとどまるところを知らないErfですが、そのErfを何と政府が無償で輸出する計画がホワイトハウスで纏まりつつあります。これが本当に施行されれば、いずれは世界中の人間がErfを付ける事でしょう。



 ■■は世界を救うのです。



・ある脳科学者からのメール

 やあ、こんにちは。ずっとメールしてくれていたのに返信が遅くなってすまない。君に初めてメールを貰ったのは、大学でErfの実験を始めてからあまり経っていない頃だったように思うので、随分待ち侘びたことだろう。本来であればすぐに返信をしてErfの普及に一役買ってもらう所だったのだが、予想以上に忙しくてね。適当にはぐらかさせて貰っていた。君がずっとErfについて調べていたのは知っているし、Erfをあまり良く思っていない事も知っている。だから今回は満を辞して、君が聞きたいであろう真実をお教えするつもりだ。何故今になって真実を教えるかというと、このメールが君の元に届いているという事は私が死んで1週間が経過したという事だからだ。つまり、物語はもう引き返せないところまで来ている。Erfは既に私の手を離れ、私の意思の介在しないところにいる。もう君が真実を知ろうが何だろうが、どうって事はないのだよ。今私がこのメールを書いているのは、みんながErfを盲信する中で、ただ一人危機感を募らせていた君への哀れみのようなものに過ぎない。もしくは、誰も知らない真実を誰かに話したいという、どうしようもないエゴなのかもしれないが。

 さて何から話したものだろうか。まずErfという発明は、ホルモンをコントロールして「人を本当の理性で思考出来るようにする機械」ではない。Erfの正式名称は「Eliminate reproductive function」。直訳すると「生殖本能排除機構」という。文字通り、人間の生殖本能を排除する機械だ。つまり、私は人類を本当の意味で「去勢」したのだよ。みんなが想像しているような難しい技術や複雑な機構は何一つとして必要としていない。ただ生殖本能を司る脳下垂体の一部と幾つかのホルモンを電磁波によって抑制しただけである。どうやって生理機能と身体機能はそのままに生殖本能だけ取り除くかという問題はあったがね。だが逆にいえば問題はそれだけだった。そう、それだけだ。ただ生殖本能を排除しただけで人間はあんなにも理性的で合理的になったのだよ。君も見ただろう?怠惰で傲慢な色狂いの餓鬼共が、知的で温厚で清潔になって行くのを。具体的に言うと、Erf装着者からは全ての生物に共通する「増えたい」という欲求が欠如する。その欲求は凄まじいもので、全ての生命の根幹の様なものだと言って良い。我々が普段自分で考えていると思っている事も、自分で選択していると思っている事も、実は全てこの「増えたい」という欲求に基づいている。我々の生活の全ては只「増える」為だけに存在するのだ。人を愛するのも増えたいからだ。人に優しくするのも増えたいからだ。人を犯すのも増えたいからだ。我々はね、只の組み立てられた機械でしかないのだよ。だからその過程に存在する全ては只の生殖本能、いわば性欲に過ぎないのだ。「愛」なんていうものはその最たるものだと言えるだろう。手を繋ぎたい。抱きしめたい。キスをしたい。独り占めしたい。一緒にいたい。求め合いたい。これら全て只の性欲である。性欲に踊らされたくだらない感情を、我々は愛と呼び美化する事で、その自意識を保ってきたと言っても過言ではない。もしかすると君たちは「愛は見返りを求めない」「愛はただ生殖の為にあるのではない」などと宣うのかもしれないが、そのような利他的な行動も、結果的に利己的な行動に繋がるのがDNAというものである。自分の子供を命がけで助けるのは、その子が自分の遺伝子を未来に残すからだ。愛する妻を命がけで守るのは、彼女が自分の子供を産んでくれるからだ。それら全てが生殖の為の行動であり感情なのだよ。そう考えると、何故浮気や不倫をする人間がいるのかも判るだろう。本来自身の遺伝子をより多く未来に残そうとするのなら、多くの異性と交わる方が効率が良いからだ。その方が生命の多様性の獲得にも繋がるのだから当然の帰結だと言える。さて、もし愛が見返りを求めず、かつ生殖の為のものでは無いと言うのなら、何故このような事が起こるのかね?何故、愛する人だけを大事にしない?何故、愛を語ったその口で他人の性を貪り尽くす?つまりそれこそが、人間の愛というものが只の性欲の副産物であると言う事の証明なのだよ。

 従って、そんな醜い生殖本能を取り除く事で人間は本能に邪魔される事なく、個人を取り巻く社会的な規範やルール、知識に則り、自分自身で行動を選択していく事が可能になる。そしてここで興味深いのは、その選択の殆ど全てが「長期的な利益」に結びつくものであるという事だ。わかるかい?それこそが我々の本当の理性であるという事だよ。だから、7時間の睡眠が健康に良いと知っている者は7時間の睡眠を取るし、機能性が長期的な利益になると考えている者はシンプルなものを好む。そして、誰もが知識を得る事が利益になると知っている。従って、餓鬼共はこぞって勉学に励む様になったという訳さ。

 実際、今までの様々な問題、セックス、不倫、離婚、虐待、性犯罪、人口増加、戦争などのこれらすべてが、我々が生殖本能を全くコントロールできていないという事の証明であった。どうしてこんなにも大脳を発達させた人間が、出来損ないの生殖方法にここまで悩まされなければいけないのか。性欲を完全に排除された人間の結果を見るに、有性生殖というもの自体が不要な進化だったのだろうね。こんなものがなければ私の妻が教え子と不倫することもなかったし、こんなものがなければ、私の幼い娘がレイプされ内臓が破裂した末に死ぬ事もなかったのだ。そう、性欲さえなければ人間は平和なのだよ。私がErfを開発した理由は、それだけだ。それと最後に重要な事を教えよう。それは、Erfは一度付けると自分の意思では外せないという事だ。いや、外そうとしないと言った方が正しいかな。理性が拒むのだよ、生殖本能に意識が蹂躙されるのをね。だから君がどうErfを外すように訴えた所で、装着者たちは聞く耳を持たない。装着者たちが文句を言わないのだから、誰が罪に問われるということも無い。じきにErfは世界中に普及するだろう。ついては、是非君にはこれから始まる清く美しい世界を楽しんで貰いたい。くだらない愛と性欲は存在しない清廉潔白な世界はもう目の前にある。その時には、君もErfを付けることをお勧めするよ。それではお元気で。


・ある記者だった装着者の話

 私はようやく知る事が出来ました。これがみんなの見ていた世界なのですね。余計な枷や柵が少しも存在しない、ただ「私」と言う意識だけが存在する世界。今なら、みんなの言っていた事が全て手に取るように理解出来ます。

 ああ、愛という感情さえも性欲の副産物だと言うのなら、私という存在の目的は、ただ増える事でした。








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Erf @IE-neko

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