『日記』について

猿川西瓜

お題 日記

 日記を書く習慣がなくて、白紙の日記帳ばかりが思い出される。買ってから、さあ毎日書くぞと考えはするけれども、日々においてそれほど楽しいことは起こらない。ネガティブばかりが続いて、自分が日記に追い詰められそうになるので、せいぜい三日続けばいいほうだ。


 人の日記を読むと、涙が出そうになる。心に直接刺さってしまう。日記ブログが流行っていた頃に書き捨てられた、未だウェブ上に残っている日記にある、誰かの誕生日とか。


 どれだけつらくても日記を書けるという強さに憧れる。


 もう亡くなってしまった人の日記を読むと、さらに気持ちがぐちゃぐちゃになる。懸命に生きる人が、どうして死なねばならないのだろうと、時間を巻き戻せないかと、身体が引き裂かれそうになる。


 そして、何事もなかったように、毎日が続いている。


 自分の中に壁があり、その壁に囲まれていることを知っている。頭の悪さを乗り越えたい。マイナス思考に勝ちたい。追い詰める妄想を辞めたい。


 命をなくした人のことを考えると、もうちょっと踏ん張ろうと思える。

 強く生きようとする子供のことを思い出すと、くよくよすんな! と言い聞かせられる。

 言葉を増やそうとしていこうと思える。決めつけられないようになりたい。

 自分が何と戦っているのか、考え直す。

 きっと良い方法があるはず。

 自分が変わらないと、ものの見え方は変えられない。

 自分を直したい。

 誰だって楽しく日々を過ごしたい。

 その日々を作る一つのピースは自分のはずだ。


 文章を書くと少し落ち着く。何かが流れ出していく気がする。

 日記。日記は、日々の垂れ流しじゃない。

 人は日記をまえにして、日記になる。

 日記になった人が、日記を書く。

 だらか、日記は、日記が書いているものだ。


 良いことが続いたら、良いことが続き、悪いことが続いたら、悪いことが続く。休日に意味があるとしたら、続くことをいったんリセットするためだ。


 誰かの悔しい思いを、自分のことのように感じる。

 そういう力を身につけないといけない。

 胸の震えがおさまってくる。

 眠る前の大切な時間。


 日記に残さないと残らない時間を、私は持っていない。

 自分が選んだことと違う人生を歩んでいるはずの時間を想像する。

 その違う人生の自分と、今を生きている自分が、やがて出会う日が来る時を願う。


 終わりそうな気がする。

 

 終わり。この話も終わり。終わりはホッとする。終わったものは戻ってこない。消え去っていく。なくなった跡だけが残る。痕跡を拾い集める。

 拾ったあとに、それがなんであるかわかる。


 日記を書くときが、いずれ来るのならば、私はそれを書きたい。

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