かぐや姫は欠かさない(KAC202211)
つとむュー
かぐや姫は欠かさない
月に帰らんとするかぐや姫。
最後の最後に、帝に一冊の書物を手渡した。
「これは?」
「日記です」
静かに書を差し出す姫の悲しそうな瞳を心に刻みながら、帝は思い出す。
そういえば会いに行く度、姫はせっせと何かを書いていた。
「なんと生真面目な。良い想い出になりましょう」
「嬉しゅうございます。私も一生懸命、日々欠かさずに綴りました」
その言葉に帝は違和感を覚える。
欠かさずにと言う割には、書はかなり薄かった。
「拝見してもよろしいか?」
「もちろん、よろしゅうございます」
帝は姫の日記をめくる。
そこにはこんなことが書かれていた。
◇
「仏の御石の鉢」を頼んだのに、その辺にある普通の鉢を持ってくるなんてひどいよね、石作皇子。にも関わらず開き直って口説いてくるってどういうこと?
「蓬萊の玉の枝」を頼んだら、わざわざ偽物を作らせて持ってくるなんて結婚詐欺よ、車持皇子。代金未払いで怒った職人がやって来なければ、騙されるところだったわ。
「火鼠の皮衣」を頼んだからって、唐の商人から高いお金で買うことないじゃない、右大臣阿倍さん。偽物かどうか確かめるために焼いちゃってゴメンね。
「龍の首の珠」を頼んだら、探索先で嵐に遭ってしまったんだってね、大納言大伴さん。さらに病気になって両目がとんでもないことになっちゃって、お見舞い申し上げるわ。
「燕の産んだ子安貝」を頼んだら、屋根から落ちて腰を強打しちゃったのね、中納言石上さん。しかも巣の中で掴んだのがウンコだったなんて、ウンはありやなしや。
◇
「これって日記?」
思わず疑問が言葉に漏れ出てしまう。
どう見ても一ヵ月に一つの内容しか書かれていない。
さすがにこれを日記と称するのは、無理があるんじゃないだろうか。
しかし怪訝な顔をする帝に、姫は胸を張って主張したのだ。
「立派な日記ですわ。月での一日は、地球の二十七日ですから」
かぐや姫は欠かさない(KAC202211) つとむュー @tsutomyu
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