想われ日記

セントホワイト

想われ日記

◯月✕日

言葉を失うほどの出来事があると、それをどうやって残しておこうかと考えてしまう。

例えば今なら写真などを撮って簡単に保存出来るスマホがある。

何だったらアプリを使って日記を書くこともできる。

…………だが、こうして文字にして書くほうが何となくいいと感じる。

ボールペンで書けばやり直しとて容易ではないが、それさえも味というか、本音というか。そう、想いのようなものが乗るではないかと考えてしまうのだ。



◯月✕日

困難に直面したらどうしたらいいのだろうか?

それはまるで繊細な積み木細工のようで、安易に触れれば壊してしまうような気がしてしまう。

脆い。軽い。けれど、重い。

確かに感じるその重さを、身体全体で感じ取る。

私のような者がこんなものを触れる機会に恵まれるとは想像もしていなかった。



◯月✕日

今日は疲れた。

何も考えたくないし動きたくもない。

ストレスという忍耐力の限界を試すかのような仕事量をこなし、何とかかんとか家のベッドにダイブした。

しかし、ふとスマホの画面を見れば多少のストレスなど何処かへ消えたような気がする。



◯月✕日

私はなにか悪いことでもしたのだろうか。

仕事悪い奴らをやっつけて、意気揚々と向かえば泣かれてしまう。

どこからその声量が出るというのか。

恐らく今の私では出せないほどの声色で、部屋中に響き渡る支離滅裂なコーラス隊のようだ。

歌詞も韻も音程もなくても、泣いてる理由が解らずとも私は狼狽えるばかりだ。



◯月✕日

……………………そうか。



◯月✕日



◯月✕日

世の中には最高の幸せの瞬間があるのだ。

間違いなく、確実に。

私はあった。あまりにも膨大な奇跡のような出会いを得た。

だからきっと、これは…………天命なのだろう。



◯月✕日

何を書けばいいのだろう?

今となってはもう少し真面目に書くべきだったのだろうか?

それとももっと早くに書いていれば良かったのだろうか?

…………書きたくない。もういい。辞めるべきだ。

こんなもの、ただ惨めになるだけだ



◯月✕日

時間が開いた。

今となってから自覚した貴重な、金銀財宝よりも貴重なものをだ。

今日はありったけの勇気を出して言ったのだ。


    「すまない。ガンだ、末期の」 と。


どうなるかは分かっていたはずだ。

怒られるだろう。殴られるだろう。もしかしたら、泣かれるだろう。

でもキミは何も言わずに抱きしめてくれた。

すまない。本当に申し訳ない……。



◯月✕日

また日記を書くのに時間が開いてしまった。

退院した彼女と、そしてキミたちのために何ができるのか分からず、とりあえず家を綺麗にしてみたのだ。

家事が負担にならぬように、AI?が入っている家電や時短家電などを購入してみたのだ。

これからのキミたちのために必要な物だ、と言ったら思いっきり拳骨を落とされた。

彼女は恐らく百歳まで生きるのではないかというほどのパワフルさだ。



◯月✕日

私はもしかしたら嫌われたのかもしれない。

最近になって抱き上げるたびに泣かれては私の心はポッキリと折れてしまいそうだ。

彼女が構い過ぎるのが良くないと言ってくるが、これが私が手にした幸せの形なのだから痛くも痒くもない。

…………しかし、泣かれるのは…………まぁ……自重するか……。



◯月✕日

長くはない。幸せの時間は。

そんなことはわかっている。



◯月✕日

たぶん、これが最期だろう。

字が拙くてすまない。

きっと、大丈夫。キミも、キミたちも。大丈夫。

なんとなく、それだけは、自信がある。


あいしてる。最愛の妻と私たちの子供たちへ。

何度でも空から言うから。

キミたちを、愛していると。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


◯月✕日

ありがとう。父へ。


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